愛の浪漫劇場『お茶目な秋子さんねこねこ編 中編』

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「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ」

 はあ はあ はあ はあ

 部屋中を駆け回って 取り敢えず落ち着きは取り戻すことが出来ました

 さてと これからどうしましょうか

 猫さんになってしまった原因は あの赤いジャムのせいでしょう

 世の常として あの赤い果物と対になっている白い果物のジャムを食べれば 元に戻れそうな気もしますね

 まあ ものは試しです やるだけやってみましょう

 てしてし てしてし 肉球の付いた足で お台所に向かいます

 コンロの前まで来ました

 高くて見えませんけれど 二つのお鍋が くつくつと音を立てています

「にゃっ」

 ひょいっ カチン 猫さん特有の身の軽さで跳び上がって コンロの火を消しました

「にゃっ」

 もう一回跳び上がって 反対側の火を消しました

 ふう さてとこれからが本番です

「うにゃっ」

 しゅたっ 思いっ切り跳び上がって 流し台の上に飛び乗りました

 はあ ふう 成功です

 ううっ どうしてこんな苦労をしないといけないんでしょうか

「にゃあ」

 気を取り直して 鍋に近付きます

 くつくつといい具合に煮立っていますけれど 今の私には禍々しいものに見えますね

 さてと それでは白いジャムの方をいただきましょうか

 ここで間違って赤いジャムを食べてしまったら それこそ何が起こるやら分かりません

「にゃ」

 幸い小さな手掴み鍋ですので ちょっと身を乗り出せば ジャムまで口が届きます

 では いただきましょう

 ぺろ

 っっっっっっ!!!!!!!!!!!!??????????

 ああ あ あああ ああっ あっ あああっ ああっ ああああっ

 熱熱熱熱 あっついですっっ!!!!!!

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ」

 ごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろごろ

 あまりの熱さに 流し台の上で転げ回る私

 みっ 水 水っ

 蛇口に飛び付いて 体全体でひねりました

 じゃばーっ

「うにゃーっ」

 すごい勢いで水が吹き出して 頭から尻尾まで水浸しになってしまいました

「んににに」

 必死の思いで 蛇口を締め直しました

 はあ はあ ふう ふう

「ふにゃー」

 どうにか舌の熱さは収まりました

 よく考えたら 今の私は猫さんなんですから 煮立っているジャムなんて口に出来るわけがありません

 ああん もう 私のばかばかばか

 仕方がありません 冷えるまで置いておきましょう

「にゃあ」

 はあ 水浸しになった身体が 冷えてきました

 ぶるぶる ぶるぶる ああ 寒いです

 あ くしゃみが

 ふぁ

 ふぁ

「くちゅん」

 ぞくぞくっ

 いけません このままでは風邪を引いてしまいます

 どうせジャムは冷えるまで おあずけなんですから お台所にいても仕方がないですし

 取り敢えず 濡れた身体を拭いておかないといけません

 お風呂場に行って タオルを取ってきましょう

 と その時

「ただいま」

 ぎくぅっ

 い 今の声は 祐一さん

 あ あわわ こ こんな姿を見られたら 大変です

「あれ 秋子さん いないんですか」

 はぅっ

 ああっ 祐一さんの足音がこっちにっ

 わたわた わたわた ええと ええと

 と とにかく 隠れないと

 まずは流し台の上から 飛び降りて

「にゃっ」

 ぴょん

 つるっ 濡れていた脚が 床の上で滑りました

 ああっ

 ズデン

「にゃあっ」

 痛た 痛いですぅ 

 ううっ 腰を思いっ切り 打ち付けてしまいました

 と 祐一さんが顔を出して

「ありゃ 猫がいる」

 ひっ ひぇぇーっ! み 見付かってしまいました

 あ あわ あわわわ

「にゃ にゃあ にゃっ にゃあ にゃあ にゃっ にゃあ」
(あっ あの ゆ 祐一さん こ これはですね 深い事情が)

 祐一さんは わたわた鳴いている私を見つめて

「どうしたんだ お前 どこから入ってきたんだ」

 しゃがみこんで 優しく微笑みながら訊ねる祐一さん

「にゃ」

 あ そ そうですよね 今の私の姿を見て 私だと分かるわけがないですよね

 ちょっと一安心です

「にゃあ」

 ここは猫さんの振りをしておきましょうか

 しばらく私を見つめていた祐一さんは 軽く触れるように私の頭を撫でて

「あれ お前びしょ濡れじゃないか どうしたんだ」

 ギク

 猫舌だということを忘れて 煮立っているジャムを舐めて あまりの熱さに七転八倒して

 慌てて蛇口をひねって 吹き出た水を頭から被りました

 なんて言えませんね

「にゃー」

 取り敢えず 誤魔化すようにひと鳴き

「まあ いいか 冷える前に拭いておかないとな」

 そう言うと祐一さんは私を優しく持ち上げて お風呂場に向かって歩き出しました

「じっとしてろよ」

 タオルを手にして 私の身体を拭き始める祐一さん

「にゃー」

 ごしごし ごしごし

 柔らかなタオルの感触と 祐一さんの優しい拭き方が とっても気持ちいいです

 はあ 猫さんも悪くないですね

 と 思っていると

 さわっ

「ふにゃあっ」

 タオルが私の脚の間を撫でました

 えっ あ あっ ゆ 祐一さん な なにを

 こしこし

「にゃあああっ」

 い いやっ だめっ

「にゃ にゃあ にゃっ にゃあっ にゃにゃっ にゃあ にゃうっ」
(祐一さん そんなところまで拭いて下さらなくても 結構ですからっ)

 とは言っても もちろん祐一さんに通じるわけがありません

「にゃっ んにゃ にゃあっ」

 じたばたと身体を動かして 抵抗する私

「ほら じっとしてろ」

 祐一さんは片手で抱っこするように私を押さえ付けて ごしごしと拭き始めました

「にゃっ にゃあっ にゃあっ にゃあああっ」

 い いや いやぁぁっ そ そんな そんなところっ

 あっ ああっ い いや いや いやぁぁっ

「ふにゃ ふにゃ ふにゃ ふにゃあぁっ」

 懸命に暴れても そこはねこさんの身の悲しさ 祐一さんの腕の中でじたばたするのが精一杯です

 ごしごしごしごし

 ひゃあああっ やっ やめっ やめてっ

 だ だめです あっ そっ そんな そんな

「にゃ にゃあ にゃっ ふにゃ にゃあ にゃああ」

 い いや いやっ だ だめ だめなんですっ

 そ そんなふうにされたら 私 わたしっ

『じっとしていて下さい秋子さん 拭いてあげますから』

 私を組み伏せて 愉しげに笑う祐一さん

『あっ そんなっ』

 ごしごし

『あっ ああーんっ』

 祐一さんはわざとらしく不思議そうな顔をして

『あれ秋子さん 拭いても拭いてもどんどん濡れてきますよ』

『ああっ そ それは』

 祐一さんは酷薄な笑みを浮かべて

『もっと強く拭かないと駄目ですね』

 ごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごしごし 《※註 あくまで秋子さんのイメージ》

 あ ああっ あっ ああーっ

 だっ だめぇっ そ そんな あ あああ

 おっ おねがい いや 許して

「にゃあ ふにゃあ ふにゃあ」

 やっ あっ ああっ だ だめ だめぇー

「にゃうーっ にゃううーっ」

 あ ああっ わ わた 私 わたし あっ

 ふあっ あっ ああっ

 ぁふぁ ふぁ あ あ あぁ

 あふ あ ああ

 も もう だめぇ

「にゃああ〜〜」

 ・
 ・

「……………」

 私はぐったりとなったまま タオルにくるまれて 祐一さんに抱きかかえられました

 うっぐ うっぐ グスン グスン

 あ あんなことされたの 生まれて初めてです

 初めての相手が祐一さんで良かったです そうじゃありません

 でも祐一さん 優しくして下さって 痛くしないでくれました だからそうじゃありません

 最終的には気持ちよかっ あああああっ そうでもありませんっ

 いえ 気持ちよくなかったわけじゃなくて むしろ天にも昇る心持ち

 あああああああああ――――っっっっ 違う違う違う違うんですぅぅぅ

「にゃうう」

 抱っこをされた私は祐一さんに連れられて 居間に戻ってきました

「秋子さん いないのかな」

 独り言を呟く祐一さん

「にゃ」

 ここにいますよ 猫さんですけれど

「うーん 秋子さんに一言 言っておいた方がいいと思ったんだけどな」

 祐一さん 猫(私です)が居たことを 私に報せておきたいみたいですね

 すみません祐一さん いま私はここです

「にゃー」

「あれ」

 祐一さんが 床の上の私の服を見付けました 

「これ 秋子さんの服か」

 私を抱っこしたまましゃがみ込んで調べる祐一さん

「何でこんなところに落っこちてるんだ」

「にゃー」

 それは私が猫さんになったからです

「ん これは」

 私の服を眺めていた祐一さんが 何か見付けたみたいです

「おっ」

 え

 あっ ああっ そ それは 私のブラジャー

「おおお」

 あっ ああっ そっ それはっ

 わ 私の ぱ ぱ ぱん パンツ

「にゃあああっ」

 じたばた もがもが

 い いやっ 見ないで下さい 祐一さんっ

「おおおおお」

 祐一さん 何を感動しているんですかっ

「にゃあ にゃあっ にゃあっ」

 タオルにくるまれたまま 必死で身体を動かす私

「はっ」

 祐一さんは はっと我に返って 私を見つめました

「と 取り敢えず 秋子さんはいないみたいだな」

 誤魔化すように呟いて 立ち上がる祐一さん

「うにゃ」

 はあ まったくもう祐一さんたら

 いくら若いからって 人の下着を見て興奮するなんて

 どうせ下着なんかでは満足しきれないんでしょうし

 おっしゃって下されば 私はいつでもお相手を げふんげふん 何でもありません

「さてと どうするかな」

 私の頭を撫でながら 独り言を呟く祐一さん

「まだ冷えているみたいだし 外に出すわけにもいかないな」

「うにゃ」

 身体を拭いていただいたとは言っても 一度下がった体温は戻っていません

 外に追い出されたりしたら それこそ どうすればいいのか分からなくなるところでした

 やっぱり祐一さんは優しい方ですね

 惚れ直してしまいました あ い いえ なんでもありません

「お前が名雪に見付かったら また大騒ぎになるだろうし」

 ええ そうでしょうね

 あの子のことですから 私を見た途端に

『ねこーねこーねこーねこーねこーねこー』

 と ねこまっしぐらで 飛びかかってくるでしょう

 それはちょっとコワイので 遠慮したいです

「まあ取り敢えず 俺の部屋に置いておくか」

 そう言って祐一さんは 私を抱っこしたまま階段に向かいました

「にゃ」

                                      《ねこねこ編 後編に続きます》


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