愛のコント劇場『お茶目な秋子さん○十歳の誕生日編』

 ※本作品は拙作『お茶目な秋子さんR誕生日編』との連続性はありません。

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 うふふ

 今日は九月二十三日です

 何の日かご存知ですか

 勿論 分かっていらっしゃいますよね

 海王星の日とか 万年筆の日とか お答えした方

 一歩前に出て 歯を食いしばりなさい

 可憐ちゃんの誕生日とお答えした方

 大事なお話しがありますから 体育館倉庫裏までいらして下さい

 逃ゲテモ無駄デス

 あらあら 私ったら 何かおかしなことを言ってしまいました

 うふふ それでは答えです

 わざわざ解答を口にする必要があるとは思えませんけれど

 今日は私の誕生日です

 わ〜い るんらら〜♪

 私ぐらいの年齢になってしまいますと 誕生日は それだけでは禍々しい凶日に過ぎないのですが

 祐一さんや名雪が お祝いしてくださいますから とっても嬉しい日です

 愛されているということを実感できるのは 素晴らしい喜びですからね

 二人とも 昨日から色々と準備してくれていました

 今日は朝から ケーキを買いに行ってくれています

 誕生日ケーキと言えば ロウソクですけれど

 二十歳以上になったら やっぱりロウソクは立てないものでしょうね

 ぼこぼこと穴が開いてしまっていては 見栄えがよくありませんし

 私のように ○十歳の場合 それこそ直視しがたい事態に

 ズキン

 はぅっ

 やっぱり年齢のことを考えると 下腹部に鈍痛が

 大丈夫大丈夫 楽しいことを思い浮かべるのよ秋子

 すーは すーは 今日は嬉しい誕生日

「ふう」

 落ち着けました

 まあ それはそれとして 私も保護者として 二人の気持ちに応えないといけませんね

 誕生日を目一杯に愉しむというのは勿論ですけれど

 何か他に 趣向を凝らした面白いことを

 うーん うーん

 あ そうです いいことを思い付きました

 うふふっ

 ・
 ・

「お母さん お誕生日おめでとう〜」

「誕生日おめでとうございます 秋子さん」

 ぱちぱちと手を叩きながら 口々に祝福してくれる名雪と祐一さん

「ありがとう 二人とも」

 嬉しさと幸福感で 胸がいっぱいです

 この幸せな気持ちに押し流される前に ちょっとしたお遊びをしちゃいましょう

 私は 年中あたふたしているドジっ子でも えっちなことばかり考えている女でもありません

 お茶目な秋子なんです

 何の話しですか

 それはいいとして 作戦実行です

「名雪 祐一さん」

「はい」

「なあに お母さん」

「大切な お話しがあります」

 私は 笑いを噛み殺しながら 真面目な表情を作って

「今まで 秘密にしていましたけれど」

「はい」

「実は私は 名雪の母親でも 祐一さんの叔母でもないんです」

 どーん

 うふふ どうですか びっくりしたでしょう

 勿論 冗談ですけど

 二人とも 呆気に取られて     いません

「へえ そうなんだ」

「ふーん」

 あ あら おかしいです

 どうして 二人とも そんなに淡泊な反応なんですか

「あ あの 驚かないんですか」

「いえ 別に」

「やっぱりっていう感じだよ」

 ふみゃっ

 あああっ か 考えていた展開と違います

「な なんで どうしてっ」

「だってお母さん いくらなんでも若すぎるもん 不自然だよ」

「みにゃっ」

 それはその 私のせいじゃないのよ

 言うなれば 大いなる宇宙の意志といいますか

「で でも 私のことは お母さんと思ってくれているんでしょう?」

 どきどき

「うーん まあ どうでもいいよ」

 面倒臭そうに答える名雪

 ふみゅう

「生みの親より育ての親って言うし 今のままでもいいかな」

 はううう

 どうして そんなに無頓着でいられるの

 あんなに一生懸命 育ててきたのに

 ぐしゅぐしゅ

 あ そうです 祐一さんのほうは

「あの 祐一さん」

「はい」

 祐一さんも 特に衝撃を受けたご様子はありません

「なんですか 秋子さん」

「ふにゃ」

 あうう なんだか冷たいです

 私が叔母でないということに 何の感慨も抱いて下さらないんでしょうか

 『じゃあ遠慮する必要はありませんね』 なんて言って がばっと襲い掛かってきて下さるものだとばかり

 違います

「あ あの 私 祐一さんの叔母じゃないんですよ」

「そうなんですか」

「何とも お思いにならないんですか」

「うーん」

 祐一さんは少し考え込んで

「そうですね はっきり言って」

「は はい」

 どきどき

「秋子さんに興味がなくなりました」

 がーん

 えっ えっ えええっ

「そ それは どういう意味ですか」

「俺が秋子さんに惹かれていたのは 実の叔母っていう背徳観溢れる存在だったからですよ」

「ふぇ」

「しかも名雪の母親でもないんだったら 親子どんぶりの夢もなくなりますし」

「ふぇぇ」

「そういう魅力がなくなった秋子さんは はっきり言って ただのオバサンです」

「ふぇぇぇぇ」

 がーんがーんがーんがーんがーん

 ただのオバサン

             ただのオバサン

                         ただのオバサン

                                     ただのオバサン (←エコー)

「まあ お世話になってますから 義理で誕生日のお祝いぐらいしますけど」

「うん 義理だね」

 そ そんな そんな そんなぁぁ

「イヤァ――――――」

 ・
 ・

「あああーっっ」

 がばっ

「はっ はあっ はあっ はあっ はあっ」

 ここは 私の部屋です

 チュンチュン チチチ 窓からはまだ弱々しい朝陽が差し込み 外からスズメの鳴き声が聞こえてきます

 私はまだ寝間着のまま

 枕元のデジタル時計の日付は 九月二十三日 午前八時三十分

「ふう はあ ふう はあ」

 夢だったんですか 今までのは

「はっ はあああああ〜〜〜」

 どてっ 全身の力が抜けて 枕に突っ伏しました

「ふう」

 ああ 夢でよかったです

「…えぐっ」

 ほっとした途端 言い様のない恐怖と寂しさがぶり返してきました

「うっ うえっ えううっ えぐ えぐ えぐ」

 止め処なく溢れる涙が 枕に染み込んでいきます

「ぐしゅ ぐしゅ うええ」

 コツコツ

「秋子さん」

「ふぇっ」

「祐一ですけど 起きてますか」

 祐一さん

「は はい どうぞ」

「失礼します」

 がちゃ

「秋子さん 今日のことなんですけど」

「はっ」

 きゅううううん

 祐一さんのお顔を見た途端 また寂しさが胸の奥から込み上げてきて

「祐一さんっ」

 がばあっ

「うわっ」

 どさっ

 思わず祐一さんに 飛び掛かって押し倒してしまいました

 でも どうしても 訊かずにはいられません

「祐一さんっっっ お答え下さいっっっ」

「は はい って何を?」

「祐一さんは 私が名雪の母親でなくても 叔母でなくても 愛して下さいますかっ」

「へ?」

「はっ」

 あ ああっ わ 私 勢いに任せて おかしなことを口走ってしまいましたぁぁ

「秋子さん それはどういう意味ですか」

 ひゃあっ

「で ですから その あの ええと」

 はっ

 ひょっとしたら 現実の祐一さんも 私に冷たくなってしまうのでは

 どっきんどっきんどっきん

「秋子さん」

「は はい」

 祐一さんは 苦笑して

「変なことを言い出さないで下さい」

 私のほっぺたを むにゅっと つまみました

「ふにゃ」

「冗談ですよね 今のは」

「ひゃ ひゃい」
 (は はい)

 ほっぺたをつままれたまま こくこくうなずく私

「冗談でも笑えませんでしたよ」

「ひゅみまふぇん」
 (すみません)

 あの いい加減にほっぺたを離していただきたいんですけど

 でも確かに 今のは私がおかしかったですよね

 祐一さんに怒られるのも 当たり前です

 ふみゅう

「あ それと秋子さん」

「ひゃい」

「俺は虫の好かない相手とつき合えるほど 大人じゃありませんよ」

 ふえ?

「ひょれはどういう意味でひょうか」
 (それは どういう意味でしょうか)

「だから その」

 祐一さんは照れ臭そうに 頭を掻きながら

「俺は秋子さんが親戚とかじゃなくても 秋子さんのことが好きです」

「ふぇ」

 好き

 好きって 今 おっしゃいましたよね

 祐一さんが私のことを 好きって

 ぱああああああ  (←心の中に光が射し込む音)

 りーん ごーん りーん ごーん  (←聖なる鐘の調べ)

 るんらら〜 よかったね〜♪  (←福音の唄声)

「祐一さんっっ」

 がばっ ぎゅううううっ

「うわっ」

 突き動かされるように 祐一さんを抱きすくめてしまいました

「ちょ ちょっと 秋子さんっ?」

 顔を赤くして 慌てる祐一さん

 でも離してあげません

 先程ほっぺたを引っ張られたお返しの意味も込めて もう少しだけ

 むぎゅううううっ

「あうっ」

 もがもが じたばた どすん ばたん

「祐一 お母さん 起きてた?」

 ガチャ

「はっ」

「わあ」

 床の上で絡み合う私と祐一さんを ぽかんと眺める名雪

「あ あの 名雪 これは」

「なあんだ やっぱり私の思っていた通りだったよ」

 名雪は訳知り顔でうんうんとうなずくと ぽややんと呑気な笑顔を浮かべました

「は?」

「お母さん 誕生日おめでとう」

「え あ ありがとう名雪」

 名雪はにこっと微笑むと 私の下敷きになったままの祐一さんを指して

「これ わたしと祐一からの 誕生日プレゼント」

「これ扱いするな」

 私の二の腕の下で 憮然とした声で呟く祐一さん

「ほら祐一 だから言ったんだよ プレゼントは祐一でいいって」

「昨日の夜に言っていたのは 冗談じゃなかったんだな」

「うん」

 ほにゃっと微笑む名雪

 よく分かりませんけど 話しが勝手に進んでいます

「本当は ちゃんとラッピングしたかったんだけどね」

「プレゼントはともかく それだけは ごめん蒙(こうむ)る 」

「残念だよ じゃあ わたしはご飯を作ってくるから 祐一はしっかり躰で奉仕するんだよ」

「嫌な言い方するな」

「祐一のほうがプレゼントなんだから お母さんを縛ったり 叩いたりしちゃだめだよ」

「するかっ」

「じゃあ ごゆっくり〜」

 へろへろと手を振って 部屋を出ていく名雪

「……」

 ええと 祐一さんと名雪の会話から推論しますと

 これは やっぱり あの その ごにょごにょ

「秋子さん」

 びくんっ

「は はい」

 祐一さんは 少し言い淀んでから

「そういうことですから 今日一日 俺がお相手します」

 はううっ やっぱり

「ふぁっ は はいっ」

 ゆ 夢じゃありませんよね これは

 二段夢オチとか言われたら 私は人間不信に陥りますよ

「え ええと」

 どきどき どきどき

「あの それではベッドまで運んでください」

「はい」

 軽々と私を横抱きにして ベッドまで向かう祐一さん

「はふぅ」

 祐一さんは私をそっと降ろしてから 髪の毛を撫でて

「これからどうしますか 秋子さん」

 はにゃああん♪

「で では 祐一さん」

 どっきんどっきんどっきん

「わ 私を あ 愛して下さいっ」

「はい」

 しゅるしゅる するする

「あっ」

 もみもみ ふにふに

「あっ あっ ああっ」

 ぐいっ

「…………………………………………………………………………………………ああん♪」

 ・
 ・

 結局 陽が落ちるまで ベッドから離れられませんでした

 もう へろへろです

「はふん」

 でも くたびれたぶん 充足感と言いますか 言い表しようのない幸福感でいっぱいです♪

「うふふっ ゆ・う・い・ち・さんっ」

「はい って またですか」

「はぁい♪」

 むぎゅっ

「うっ も もう少し休ませてくださいっ」

「だ・め♪」

 ぎゅううっ

「今日一日 祐一さんは私のものなんですから♪」

 ぐりぐりぐりっ

「うっ」

 ぶちっ

「あ 秋子さんっ」

 ぐいっ がばっ

「きゃあん」

 もがもが じたばた どすん ばたん

「あ あっ うふん♪」

 素敵な誕生日です♪


                  愛のコント劇場『お茶目な秋子さん○十歳の誕生日編』 おしまい

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 星牙でございます。
マキ「マネージャーの小原マキです」
 秋子さん、誕生日おめでとうございます〜。
マキ「おめでとうございます」

 超々長編『お茶目な秋子さんR誕生日編』を書いてから、もう一年も過ぎたんだな。月日が経つのは早いねえ。
マキ「正確には『書き始めた』のが一年前の今日じゃな」
 ゲフッ(吐血)。
マキ「書き終えたのは約三ヶ月後、十二月三十一日の大晦日になっておる」
 ゴフッ(喀血)。
マキ「さらに誤字脱字の校正、おまけ編を含めると、三月にずれ込んでおる。総製作期間五ヶ月強、誕生日SSと銘打つのが無理すぎる代物じゃ」
 ギャフッ(頓死)。

 (半死)昨年の反省を踏まえて、今回はあっさり気味です。
 でも『お茶目で可愛くて、あたふたドジばかりして、無論えっちぃ』とゆー秋子さんらしい秋子さんを描けたよ。
マキ「秋子さんらしさはともかく、三つ目はどうかと思うが」
 (無視)ではもう一度、秋子さん、誕生日おめでとうございます。

 お読みいただきありがとうございました。
マキ「それでは、ご機嫌よう」



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