愛のコント劇場『お茶目な秋子さん 黎明編』
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今日は日曜日です。空には青空が広がり、大地には花が咲き、小鳥たちも愛の歌を歌っています。
水瀬家では、秋子さんがお掃除をしています。
名雪ちゃんは朝からお買い物、祐一君も出かけています。
穏やかで、牧歌的な平和に満ちあふれている休日。
…しかし、悲劇の舞台の幕は今静かに開かれるのです…
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るるるんるんるん
お掃除お掃除
リビング キッチン ダイニング わたしの部屋 お風呂場 洗面所 階段
二階に上がって 祐一さんの部屋 最後は名雪の部屋です
いつも片付いていますから あんまり やり甲斐はないんですけど
パタパタ
はい おしまい
ふと壁を見ると 名雪の制服がハンガーに掛けられていました
あの子もいつの間にか わたしと同じ位の背になっていたのね
あっ うふふ 面白いことを考えました
スルスル セーターとスカートを脱いで 制服を手に取って 袖を通して
はい 出来上がり
うん 似合ってる
まだまだわたしも捨てた物じゃないですね
鏡の前でポーズをとって みつめていたら
ガタン
えっ
振り向くとそこには 呆然とした祐一さんと名雪
「お お母さん その格好」
「秋子さん まさか」
「ま 待って二人とも 話を聞いて」
「うそ うそだよね お母さん」
「クッ 秋子さんがそんな仕事をしていたなんて」
祐一さんそんな仕事ってどんなですか ってそうじゃないんです
「イヤ イヤ わたしもう何も信じない」
「秋子さん 俺 あなたに憧れていたのに」
「ああ 待って二人とも」
「けろぴー おねがいわたしをたすけて ねえけろぴー なんとかいってよ けろぴー ねえったら」
虚ろな瞳でけろぴーに語りかける名雪
「さようなら 秋子さん」
「ああ あああ 待って 待ってえ」
はっ 夢
よかった夢で
ガタンから夢だったのね ってまだ制服のままじゃないですか
いけない 着替えなくちゃ
「ただいまー」
はっ 祐一さん
「おーい 名雪いるか」
いません
「名雪 入るぞ」
駄目です
た 大変 早く隠れなくちゃ
ええっと そうです クローゼットの中に
と 脚を踏み出した途端
ガンッ 小指を椅子の脚にぶつけました
いたた 思わず床に倒れ込むわたし
ガチャ ドアが開かれて
ぽかんとした顔の祐一さんと目が合いました
ドサッ 祐一さんの手から 紙袋が落ちました
祐一さんがわたしを見ている
ええっと こんな時は そうだ
「そんなに見つめちゃイヤですぅ」
違います ああダメ どうして わたしったら
「秋子さん」
「はい」
「ごめんなさい」
「こんな時 どういう顔をすればいいのか わからないんです」
「笑えばいいと思いますよ」
「それって 普通怒りませんか」
「怒りますね きっと」
違いますってば ああん ダメダメなわたし
見つめ合う わたしと 祐一さん
愛が芽生えそう ってそうじゃありません
そうだ 気絶しましょう
現実逃避にはそれが一番
えい パタッ ドサッ
ふう これで安心 ってどうして祐一さんも倒れているんですか
ひどいです祐一さん 後をわたしに任せるつもりで気絶したんですね
許せません 後でジャムご飯どんぶりスペシャルです
ああ でもどうしましょう いまさら起きあがれません
「ただいまー」
あっ 名雪
「あれ どうしてわたしの部屋のドア 開いてるんだろう」
ああ 駄目よ名雪
「……」
可哀想に名雪 呆然としているわ
でもごめんなさい名雪 わたしには何もしてあげられません
祐一さんと一緒に 強く生きて下さい
さようなら名雪 祐一さん って殺さないで
はっと我に返った名雪
名雪は大きく息を吸って
はっ 待って名雪
「きゃあぁぁぁ――― お母さんと祐一が死んでるーっ」
その悲鳴は ご近所じゅうに響き渡りました
・
・
カタン カタン 食器を並べる音
「……」
「名雪 秋子さんの様子 どうだった」
「ずっと うなされてた」
「そうか」
「グスン」
「泣くなよ名雪」
「だって わたしが悪いんだよ」
「俺にも責任はある」
「だって わたしがあんな 大声上げちゃったせいで 近所の人達が いっぱい来ちゃって」
「お巡りさんとか消防士さんとかまで来ちゃって」
「お母さん あの格好 みんなに見られちゃって」
「あれから気絶したまま」
「名雪」
「グスン」
「後でもう一度 秋子さんに 謝ろう」
「うん」
「飯 食おうか」
「うん」
愛のコント劇場『お茶目な秋子さん 黎明編』 おしまい
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星牙でございます。
マキ「マネージャーの小原マキです」
これが全ての始まりなのだなぁ、と思うと感慨深いもんだ。
マキ「書いた当初は、とある官能小説の緩衝剤として用意されておったとゆーのは、忌むべき過去か」
いいや。生まれた経緯はどうあれ、何だかんだ言って小生に与えた影響は大きいからね。それを隠蔽するつもりはないし、隠す必要性も感じない。
お読みいただきありがとうございました。
マキ「それでは、ご機嫌よう」
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