愛のコント劇場『お茶目な秋子さん ぷくぷく編』

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「名雪 祐一さん ご飯ですよ」

 階段の下から 二階の二人に声を掛けました

「は〜い」

「はい」

 食器を並べて準備をしていると 名雪と祐一さんが降りてきました

「今日は栗ご飯ですか」

「ええ」

「わーい 栗ご飯 栗ごはーん」

 二人にも手伝ってもらって 晩ご飯の準備が出来ました

「いただきます」

「いただきま〜す」

「はい 召し上がれ」

 ぱく もぐもぐ

 うん 美味しい 今日も上手に出来ました

「秋子さん お代わりお願いします」

 うふふ 祐一さんたら 食いしん坊さんですね

「はい」

「あ わたしも〜」

「はい はい」

 二人につられて ついつい私もお代わりをしてしまいました

 ぱくぱく ぱくぱく

「あ 今日は食後のデザートに柿がありますから」

「わたし食べる〜」

「俺もいただきます」

「うふふ 分かりました」

 ぱくぱく ぱくぱく ぱくぱく

 ………

「ふぅ〜」

「苦しいよ〜」

 ソファに転がっている名雪と祐一さん ちょっとお行儀が悪いですね

 でも 私もお腹が一杯で ちょっと苦しいです

 昨日も一昨日も たくさん食べてしまいましたけれど ご飯が美味しいんですから仕方がありませんよね

 ・
 ・

 ガチャ

「ふふふ〜ん ふふ〜ん♪」

 浴場から脱衣所に入った私は バスタオルを体に捲いて 髪を拭き始めました

 ふぅ さっぱりしました

 やっぱり日本人ならお風呂ですよね

「るんららら るるらら〜♪」

 鼻歌を歌っていると ふと脱衣所の隅にヘルスメーターがあるのが見えました

 そういえば 体重なんてずいぶん量っていなかったですね

 うふふ 久しぶりに乗ってみちゃいましょう

「えい」

 がっしゃん

「えっ…………………………」

 なっ なに この数字は

 うそ うそですよ こんなわけありません

 だって だって 前に量ったときは もっと少なかったんですよ

 これは うそです そうに決まっています そうじゃないとイヤですぅ

 はぁ はぁ はぁ

 お 落ち着くのよ秋子 落ち着いて考えるのよ

 …あ 分かりました きっと針がずれているんですね

 もう それならそうと最初から言ってくれればいいのに

 よいしょ ヘルスメーターから降りました

 かしゃん

『0.00〈ぴったり〉』

「いやぁ――――――っ」

 あ あっ あああっ

 ばっ バスタオルを脱いですっぽんぽんになって もう一度乗ってみました

 がっしゃん

「……っ」

 さっきと全然変わっていません

 そ そんな そんなぁぁ

「う うぅ うぇ――ん」

 涙が溢れ出しました

「秋子さん どうかしたんですか」

「ふぇっ」

 脱衣所の扉の向こうから祐一さんの声がしました

「ひっぐ うっ な なんでもありませぇん」

 いくら家族でも 男性の祐一さんにこんなことを知られたくありません

「でも今 悲鳴みたいなのが」

「ひっぐ えぅぅっ ぐっ ごほぅっ な なんでもないんですぅ」

 嗚咽が混ざって 上手く声が出てきません

「祐一 何してるの」

 扉の向こうで名雪の声がしました

「あ 名雪 起きてきたのか」

 先に寝ていたはずの名雪も 起きてきてしまったみたいですね

 ガラッ 扉が開いて 寝惚け顔の名雪が顔を出しました

「…………」

「…えぅ えぅ」

 すっぽんぽんで泣いている私と眼が合いました

「………」

 ピシャッ 扉が閉じられました

「…裸んぼで泣いているお母さんと脱衣所の前の祐一」

 なんだか名雪の声が重いです

「謎は全て解けたよ」

「何を言ってるんだ 名雪」

「お風呂上がりで無防備なお母さんに 祐一がひどいことをして たった今出てきたんだね」

「な なんだそりゃ」

「状況が全てを物語っているよ」

「ま 待て名雪 お前 勘違いしてるぞ」

「問答無用だよ」

 ヒュッ ビシッ ぎゃ ゴッ ガツッ ぐぁ ドッ ドムッ 待て ボゴッ ガッ

 ようやく落ち着いた私が バスローブを羽織っていますと

「お母さん もう大丈夫だよ」

 また扉を開けて 名雪が顔を出して言いました

「あ あの名雪 祐一さんは別に何も悪くないんですよ」

「えっ」

 私が脱衣所を出てみると 祐一さんが血溜まりの中にうつ伏せになって倒れていました

 ・
 ・

「はぁ」

 部屋に戻った私は 一息つきました

 祐一さんを介抱して上げて そちらはもう大丈夫だと思いますけれど

「………」

 する する ぱさっ

 バスローブを脱いで裸になった私は 姿見鏡の前に立ちました

「………」

 パッと見た感じは変わっていないみたいですけれど

 むに 腰のお肉をつまんでみました

 ここら辺とかに知らない間にお肉が付いてしまったんでしょうか

 それとも 目に見えない内臓の方に

 トントン 扉を叩かれました

「はっ」

「秋子さん まだ起きていますか」

 ゆ 祐一さんっ!?

「は はい 起きていますよ」

 し 下着をはかなくちゃ

「なっ 何かご用ですか」

「ええ さっきはありがとうございました」

「ど どういたしまして」

 慌てていた私は 脚を通そうとした途端 思い切り転んでしまいました

 どてっ ごろん

「きゃん」

「秋子さん? どうかしたんですか」

 ヒィッ

「い いいえ なんでもありません」

 と 立ち上がろうとして 床に付いた手首に痛みが走りました

「いたっ」

「秋子さん? 入りますよ」

 ひゃぁぁっ

「いっ いえっ 平気 平気ですっ」

「祐一 何してるの」

 扉の向こうで名雪の声がしました

 ガラッ 扉が開いて 名雪が顔を出しました

 ええと 今の私は 片足をぱんつに通して床に寝そべっているんですけれど

「あ あの 名雪」

「…………」

 ピシャッ 音高く扉が閉じられました

「ゆういち」

 あっ また名雪の声が重いです

「お風呂場で満足できなかったから 今度は部屋に押し掛けて お母さんにひどいことをしたんだね」

「してねぇっ」

「祐一 鬼畜だよ 外道だよ 人非人だよ」

「だから違う 名雪お前 寝惚けてるだろ」

「わたしはちゃんと眼を覚ましてるおー」

「その『おー』が寝惚けてる証拠だっ」

「祐一 言い訳がましいおー」

「待て だから違っ」

 ボギッ ぎゃ メリィッ ゴギンッ

 ようやく立ち上がった私は バスローブを羽織って扉を開けました

「待って名雪 祐一さんは何もしていませんよ」

「えっ」

 私が部屋を出てみると 祐一さんの首がヘンな方に曲がっていました

 ・
 ・

「行ってきます」

「行ってきま〜す」

「はい 行ってらっしゃい」

 名雪と祐一さんを送り出して ほっと一息です

 昨日の夜は 祐一さんの手当てで大変でした

「ふぅ」

 さてと 休んでいる暇はありません お掃除をしなくちゃ

 じゃあ床掃除を始めましょう

 バケツと雑巾を用意して

「よいしょ」

 と屈み込んだと同時に

 ベリィッ

 お尻のところでイヤな音がしました

「…………」

 しばらく屈み込んだ姿勢で動きを止めてしまいました

 はぁ はぁ お 落ち着くのよ秋子

 空耳 そう空耳かもしれませんよ

 ドキドキ 震える指をお尻のところに持っていきます

 さわさわ

 こ この柔らかい布地は スカートの生地じゃありません

 ぱんつに直に触っています

 つまりスカートが破けているわけで

 どうして破れたのかというと

 私のお尻が大きいからで

 つまり それだけ私が

 太っ

「いやぁぁぁぁ―――――っっ!!!」

 あっ ああっ あああぁっ

 そ そんな スカートを破いてしまうなんて

 私 知らない間にそんなに でぶでぶになってしまっていたんですか

 はぁっ はぁっ

 ひょ ひょっとしたらこのまま 太り続けて

 腕とか脚が丸太みたいになって お相撲さんみたいな体型になってしまって

 体重も〈ピ――〉キロを超えてしまって

 一歩歩くごとに 地響きが起きて

 ズシーン ズシーン ゴゴゴゴ 大地震 倒壊するビル群

 ドドドドド 逆巻く大津波 薙ぎ倒される湾岸の漁村

 チュドーン チュドーン 大噴火 溶岩と火砕流に飲み込まれる村々

 グワラグワラ ガラガラ 轟く雷鳴 引き裂かれる海と大地

 ぎゃー ワー ヒー 逃げまどう人々 阿鼻叫喚の地獄絵図

 バゴ――ン 地球が大爆発

「ひぃやぁぁぁぁぁぁ―――――っっっっっ!!」

 あふっ はぅっ ああぁっ

 い いや いやです そんなこと

 こ これは由々しき事態です

 もうこれはあれです ダイエットです 減量です 断食です それしかありません

 ・
 ・

 ダイエットを始めて一週間が経ちました

 きゅるきゅる くー

「はふん」

 またお腹が鳴りました

 ご飯を少な目に食べるようにしてから 毎日のように鳴っています

「はぅ〜」

 ご飯 ご飯が食べたいの

 真っ白いご飯 ほかほか湯気を上げているご飯 きらきら輝いているご飯

 ぱくぱく もぐもぐ あああ 美味しい 幸せです

 きょろろろろ

「…ふみゅぅ〜」

 ああ 想像のご飯では お腹の虫は静かになってくれません

 それにしても あんまりダイエットの効果が現れていないんですよね

 ダイエットを始めたらすぐに51キロまで下がりましたけれど それからはちっとも落ちないんです

 お腹のお肉とか減っていると思うんですけれど どうして体重は変わらないんでしょうか

 やっぱり内臓の方に問題があるんでしょうか

 それとも もっと根本的な問題なのかも

 曲がり角

「……………ふゥッ」

 はっ いけません 思わず失神してしまいました

 はぁ はぁ でも もしかしたらその通りなのかも

 わたしは無駄な抵抗をしているんでしょうか

 いいえ いいえ 諦めてはダメよ秋子

 諦めて抵抗をやめてしまうことこそが 人間にとっての本当の敗北なんですもの

「ふぁいとっ ですっ」

 きゅるるるぃ

 あああっ それはそれとして お腹が空きました

 ・
 ・

「いち に さんし に に さんし ……ふぅ」

 寝る前の日課になってしまった有酸素運動を終え 私は一息つきました

「はぁ はぁ はぁ はぁ」

 それにしても なんだか最近は疲れが著しいような

 食べる量を少なくしているんですから 体力が落ちているのは仕方がないですけれど

「はぅ〜」

 体力と言うよりも 胸が苦しくてたまりません

 まさか本当に 曲がりか

 ぶるんぶるんっ 違う 違いますっ きっと …たぶん …もしかしたら

「はぁ」

 今日はここまでにしておきましょう

 上半身だけパジャマを着て 大きく伸びをしました

「う〜〜ん」

 ブチンッ 胸のところのボタンが弾け飛びました

 コンッ コロコロコロ 床の上を転がるボタン

「……」 呆然と見送る私

 はらり 寝間着の前が開きましたけど そんなことはどうでもいいんです

 そ そんな こんなにがんばっているのに

 やっぱり私は 相撲取りさんになってしまうんですか

 どんどん どんどん 太って 最後には象さんみたいに

「…………………はゥッ」

 ああ また失神してしまいました

 いえ もういいんです どうせ もうダメなんです

 このまま寝てしまいましょう ふて寝です

「………すぅ〜」

 ・
 ・

「……んっ」

 あああ イヤな夢を見ていました

 どんどん太っていってしまった私が 祐一さんと名雪に 私って気付いてもらえないんです

「……うううううぅぅ」

 涙が頬を伝いました

 はぁ 今はまだ細いこの指も 明日にはどうなってしまっているか分からないんですね

 と リビングの方が賑やかになりました

「おはよ〜」

「おはようございます あれ秋子さんがいないぞ」

「本当だ お寝坊さんかな」

「名雪じゃあるまいし そんなことはないだろう」

「祐一 ひどいこと言ってる」

 とてとて

「お母さん 起きてる?」

 扉の向こうで名雪の声が

「……はぃ」

「入るよ」

「……はぃ」

 ガラッ

「わ まっ暗 どうして雨戸を開けてないの 今開けるよ」

「……はぃ」

 バタン バタン

「…………」

 陽を浴びた名雪の横顔は若い活力に満ちていました

 フッ……(←遠い眼) 若い人たちは羨ましいですね

「お母さん どうしたの?」

 私の顔を覗き込みながら言う名雪

「どこか調子悪いの? 風邪引いたの?」

「……ぃぃぇ」

 か細い声で答える私

「でも顔色も良くないし 昨日の夜もあんまりご飯食べてなかったよね」

「………」

「風邪は引き初めが肝心だよ 美味しい物を食べて体を清潔にしておけば大丈夫だよ」

 ビクッ

「…ご飯はいりません」

「え でも」

「いいんです」

 今は食べ物は見たくありません

「そう じゃあ 体を拭いておこうよ それぐらいいいでしょ?」

「……ぇぇ」

「うん じゃあわたし タオルと洗面器持ってくるね」

 ぱたぱたと部屋を出ていく名雪

「秋子さん 救急車呼びましょうか」

 祐一さんが心配そうに訊ねました

「え」

 そんな大袈裟な

「い いえ 大丈夫です」

「でも」

「いいんです」

 だってただのふて寝なんですよ とは言えません

「お待たせ〜」

 名雪がお湯の入った洗面器とタオルを持って戻ってきました

「祐一は部屋を出ていて 覗いたらひどいよ」

「おう」

 祐一さんは部屋を出ていきました

「じゃあお母さん パジャマ脱いで」

「えっ ……ええッ!?」

 ぬ 脱いでって そんな そんなことをしたら 今の私の体を見られてしまいます

 そうしたら 名雪はきっと眼を丸くして

『わっ お母さん すごい太ったね』

            すごい太ったね

              すごい太ったね

                すごい太ったね

                  すごい太ったね

                    すごい太ったね (←エコー)

「いや―――っ! 脱ぐのはイヤですッ」

 悲鳴を上げる私

「え 脱がないと拭けないよ」

「い いいです それぐらい 自分でしますッ」

「遠慮なんかしなくてもいいよ ほら 脱いで」

 パジャマのボタンに手を掛ける名雪

「あっ やぁっ いやっ やめっ やめてぇぇ!」

 私は全力で抵抗しましたが 名雪の執拗に蠢く指はボタンを一つ一つ確実に外していきます

「ふふふ お母さん 子どもみたいだよ」

「ひぃっ あっ きゃぁっ あっ ああぁ―――っ」

 ついにボタンが全て外されてしまいました

「ひっ ひぃっ いっ ゆ 許して 名雪」

 体を丸くして 名雪の魔手から逃れようとする私

「いいから いいから」

「いやっ いやっ いやぁぁ―――ッ」

 私の必死の抵抗も虚しく

「さ 脱いで脱いで」

「あ あっ ああっ あああぁぁ―――っ」

 ずるぅっ とうとうパジャマが脱がされました

 ああああああっ もうだめぇ

「わっ」

 あああっ やっぱり 『わっ』って言いましたねっ

「ひぅぅっ」

 もうイヤです このまま消えてしまいたいです

 私は布団に突っ伏して枕に顔を埋めました

「………」

 うううっ 名雪も何か言えばいいのに どうして黙っているんですか

「…お母さん」

 ああっ 来ましたぁぁ

「えっと」

 はぅぅっ 聞きたくありません 聞きたくありませぇん

 イヤ イヤ イヤァァッ

「おっぱい 大きくなってる?」

 いやぁ――――……  …え?

「………」

 恐る恐る顔を上げると 名雪は考え込んでいる様子です

「…ちょっとごめんね」

 と 名雪は手を伸ばし

「はぃ?」

 むんにゅ 私のおっぱいを掴みました

「ぅきゃっ!」

 ぐにっ ぎゅっ ぎゅっ にゅぅっ

「あ あんっ はぅっ うっ あふんっ い いやっ」

 名雪が指を動かすたびに 全身を悶えさせる私

 しばらく指を動かしていた名雪は 手を離して

「お母さん メジャーどこ?」

「はぅ はぅ た タンスの引き出しに」

 もう私は息も絶え絶えです

 名雪がメジャーを持って戻ってきました

「お母さん バンザイして」

「はぃ」

 言われるままに両腕をあげる私

 しゅるしゅる あ ビニールのメジャーが冷たいです あ あっ アッ

 ゾクゾクしてくすぐったいような 気持ちいいような って そうじゃありません

「うわっ すごい トップ91 アンダー70」

 え 91?

「お母さん こんなにおっぱい大きくなかったよね」

「え ええ」

「うー いいなあ こんなに大きくなって」

 むんにゅ

「ぅひゃぅっ」

 たぷたぷと揺らして重みを確かめるのはやめて欲しいんですけれど

 それにしても 知らない間にこんなに大きくなっていたなんて

 ………ちょっと待って下さい ひょっとして

「あ あの名雪」

「なあに お母さん」 たぷたぷ

 だから ひとのおっぱいをいじらないで下さい ってそれは後に回して

「…わ 私 太って見えますか?」

「え? おっぱいは大きくなってるけど」

「いいえ ですから 体全体に」

 ドキドキ

「ううん全然 お母さん 肩とか細いから」

    ううん全然

      ううん全然

        ううん全然

          ううん全然

            ううん全然

              ううん全然 (←エコー)

           ううん全然

         ううん全然 (←揺り返し)

 パァァァァァァァァァ――――――― はっ なんでしょうか この目の前に広がった暖かい光は

 リ〜ンゴ〜ン リ〜ンゴ〜ン あっ 天使さんが鳴らす鐘の音まで聞こえ始めましたよ

 ラーラー ラーラーラーラー ラララーラーラーラーラーララララー ああっ 祝福の歌が

 これは もしかして

『秋子 貴女(あなた)は太っていませんよ』 あああっ 福音の声がっ

 わたし 私は救われたんですね

「名雪っ」

 がばっ まだ私の胸を触っていた名雪を 思いきり抱き締めました

「わっ だめだよ お母さん わたし達女同士だよ」

 何を言ってるんですか

「今は誰でもいいから抱き締めたいんです」

 ぎゅぅ

「う うん お母さん 元気になったんだね」

「ええ」

 窓から射し込む陽が どんな高価な宝石よりも価値あるように見えます

 ああ 世界はこんなにも美しかったんですね

 ・
 ・

「良かった お母さんが元気になって」

「ありがとう名雪」

「じゃあちょっと遅いけど ご飯食べようか あ お母さん ご飯は食べたくないんだっけ」

 まあ なんてことを言うんですか

「いただきますよ もちろん」

「え でもさっき」

「さっきはさっき 今は今です」

 キッパリ言い放つ私

「うん そうだね」

 名雪もあっさり納得してくれました

 居間に行くと 祐一さんが心細そうに座っていました

「あ 秋子さん 立ち上がっていいんですか」

「ええ おかげさまで もう元気になりました」

「良かった」

「じゃあ わたし 朝ご飯の用意をするね」

「あら名雪 いいのよ 私が」

「たまにはわたしがするよ お母さんと祐一は座って待ってて」

 では お言葉に甘えましょうか

「分かりました 気を付けてね」

「うん」

 名雪がキッチンに向かい 炒め物を作る音が聞こえ出しました

「秋子さん」

「はい」

「本当にもう大丈夫なんですか ひょっとして無理しているんじゃ」

 心配そうに訊ねる祐一さん

「いいえ 本当にもう元気ですよ」

「そうですか よかった」

 祐一さん 本当に私のことを心配していて下さったんですね

 あ そうです

「祐一さん 祐一さん」

「はい?」

「実は私 胸が大きくなったんですよ」

「へ」

 話題の転換に付いてこられなくて 呆然とする祐一さん

「へ じゃありません」

 あ もしかして 信じていませんね

「ほら」

 祐一さんの手を取って 胸元に導きました

 ぺたっ

「おぁっ」

 びっくりした祐一さんは 手を引こうとしました

「あ まだです」

 ぐい むにゅっ 祐一さんの指がおっぱいに沈みました

「うっ」

「ほら 本当でしたでしょう」

 むんにゅ むんにゅ

「………」

 祐一さんは 呆然としています

「信じてくれましたか?」

 むんにゅ むんにゅ

「………」

「うふふ 91センチになったんですよ」

 むんにゅ むんにゅ むんにゅ むんにゅ

「………」

「祐一さん?」

 祐一さんはカッと眼を見開き

「………あっ 秋子さんっ!」

 がばっっ! 思い切り私を抱き締めました

「あら」

 祝福の抱擁でしょうか

 うふふ ありがとうございます

 と その時 名雪がキッチンから顔を出しました

「お母さん 祐一 ご飯の用意が出来たよ ………!!」

 ガラ―――――ン フライパンのふたが名雪の手から落ちました

 わんわんわんわんわん ふたが床の上で踊っています

 パタッ ふたが倒れて静かになりました

「……」

 無音です

「な 名雪 あの これはだな」

 祐一さんがしどろもどろになって 何か言おうとしています

「ゆ 祐一」

 名雪はぶるぶると体を震わせています

 と 名雪がカッと眼を見開き

「祐一 今わたしが来なかったら お母さんをテゴメにしていたんだね」

「ま 待て 違う」

「現行犯だよ 三度目の正直だよ」

「い いや 確かに思わず抱き締めたけど そんなテゴメなんかにする気は」

「そんなこと言って男の人は『ここまで来たら我慢できねえ』って言って 無理矢理最後までするんだよ」

「な 名雪 お前 どこでそんないかがわしいことを」

「陸上部の先輩が教えてくれたよ」

 祐一さんが口ごもり 名雪はフライパンをテーブルに置きました

「許せないよ祐一」

 ガシィ! 祐一さんの首根っこをつかむ名雪

「ギャ」

「来て 祐一」

 名雪は祐一さんを引きずって 足音荒く部屋を出ていってしまいました

「…ええと」

 私はどうすればいいんでしょうか

 テーブルの上には出来立てのご飯があります

 はぁ はぁ 美味しそうです

 取り敢えず お腹も空いていますし 冷める前にいただいちゃいましょう

「いただきます」

 ぱく もぐもぐ

 パァァァァァァァ―――――――ッ

 あああ ご飯ってこんなに美味しかったんですね

 もぐもぐ ごっくん

 お代わりです

 もぐ もぐ 食べ物は口の中で30回噛みましょう

 ああ 幸せです

 私が文字通り 幸せを噛み締めていると

「名雪スペシャル!!」

 ドゴ――――――――――ンッ!!

「ギャアァァ―――ァァ―――ァァ―――ッ!」

 表で爆音と悲鳴が響きました 騒がしいですね

 ぱくぱく もぐもぐ

「お代わりです」

 もぐもぐ はぁ し あ わ せ

                               愛のコント劇場『お茶目な秋子さん ぷくぷく編』 おしまい

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 星牙でございます。
マキ「マネージャーの小原マキです」

 徐々に話しがえっちぃ方向に近付きつつあるね。
マキ「だから、そなたが描いておるんじゃろーが」
 むい。『引き裂かれるスカート。千切れ飛ぶボタン。パジャマを容赦なく引き剥かれる秋子さん』とか煽りを入れると、如何にもな感じがして燃えるね。嘘は言ってないし。
マキ「入れるな! 燃えるな!」
 うー。

 お読みいただきありがとうございました。
マキ「それでは、ご機嫌よう」


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