愛のコント劇場『お茶目な秋子さん お買い物編』

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 祐一さんが居間のソファで新聞を読んでいらっしゃいます

「祐一さん」

「はい 何ですか秋子さん」

「今 お手透きでしょうか」

「ええ 特に用事はないです」

「じゃあ今から お買い物に出掛けるんですけれど お留守番をお願いしても宜しいですか」

「いいですよ あ それより 俺も荷物持ちについていきましょうか」

「あら いいんですか」

「はい」

 まあ 嬉しいです

「ありがとうございます 祐一さん」

 ・
 ・

 祐一さんと一緒に 商店街に向かいます

 うふふ 祐一さんと二人きりです

 気持ちが自然と浮き浮きしちゃいます

 スキップしてしまいそうです

 でも本当にしてしまっては 祐一さんを驚かせてしまうでしょうから じっと我慢です

 せめて心の中で スキップしましょう

 るんらら〜 よかったね〜♪

 うふふ

 他の人から見たら 今の私と祐一さんは どんなふうに見えているんでしょうか

 叔母さんと甥 って そのまんまです

 姉と弟

 怖がらなくてもいいのよ お姉さんに任せておいて 違います

 だめよ祐一ちゃん 私達 姉と弟なのに ああん だめぇ それも違います

 教師と生徒

 さあ個人授業の時間よ 先生と大人のお勉強をしましょうね 違います

 だめよ祐一くん 私達 教師と生徒なのに ああん ってさっきと同じじゃありませんか

 はふん

 やっぱり ええと その

 恋人同士

 きゃー きゃー きゃー♪

 そんな もう うふふふふ

「秋子さん」

「ひゃいっ! あ は はい」

 びっくりしすぎて 声がひっくり返ってしまいました

 はあ どきどき

「なんでしょうか 祐一さん」

「今の俺と秋子さんって 余所の人から見たら」

 ぴくん

「は はい」

 どきどきどきどき

「母親と子どもみたいでしょうね」

 がくぅっ

「あれ どうしたんですか秋子さん」

「なんでもありません」

「でも つまらなそうな顔をしてますけど」

「気のせいです」

 もう 祐一さんたら 乙女心 もとい 女心を分かっていらっしゃいません

 ぷんぷんです

 母親と息子

 さあ こっちにいらっしゃい ママのおっぱいをあげるわ

 これはこれで 新境地のような気も どきどき 違います

「はふん」

 ・
 ・

 商店街に着きました

「祐一さん 私は銀行に用がありますから 少し待っていて下さいね」

「はい」

 祐一さんに待っていただいて 私は銀行に入りました

 ・
 ・

 用事を済ませて銀行を出ますと 少し離れたところで立っている祐一さんの背中が見えました

 あ そうです

 うふふ 面白いことを考え付きましたよ

 抜き足差し足忍び足 そっと祐一さんの背後に近付きます

 後ろから祐一さんの目元に手を添えて

 えい 目隠しです

「だ〜れだ」

「わっ」

 祐一さんがびっくりした声を上げました

「うふふ 私は誰でしょう」

 祐一さんはしばらく おたおたしてから

「え あ よ 洋子か」

「……」

 ………………………………………誰ですか その人

「チガイマス」

 固い声になってしまいました

「え じゃ じゃあ 和美」

「チガイマス」

「あ 分かった美紀子だろ それとも祥子か 美智子 はるか 小夜子」

 ………………………………………

「ゼンブ チガイマス」

「涼子 いずみ うーん うーん あとは ええっと」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ(←怒気)

 そうですか祐一さん 私の知らないところで そんなに多くの女性と馴れ合っていらしたんですね

 いいでしょう 分かりました

 先ずはこのまま 手に力を込めて あなたの両眼を握り潰して

「秋子さん」

「ほぇ」

 背後から聞き慣れた声がしました

「何してるんですか」

 振り向いてみてみますと そこには不思議そうな顔をなさった祐一さんが

 え え こ これは一体

 祐一さんは二人いらしたんですか って そんなわけないでしょう

 ま ま まさか

 いま私が目隠ししている方は 祐一さんではなくて

 全くの人違いッッッ

 ひゃああああっ

 あっ あっ あわ あわわ

「あっ ああ す すみませんっ」

 慌てて手を離して 謝りました

「え あ あの」

 振り向いた男の方は 何がなにやら分かっていらっしゃらないみたいです

「ほ 本当に申し訳ございませんでしたっ」

 もう一度謝って 居たたまれなくなった私は 脱兎の如く駆け出しました

「あ ちょっと秋子さん えっと お騒がせしました」

 タタタタ

「……(呆気)」

「お兄ちゃん」

「あっ みずほ」

「誰 今の女の人」

「え 知らない人だよ」

「綺麗な人だったね」

「うん そうだな あ いや違う」

 グゴゴゴ(←怒気)

「お兄ちゃん あの人のこと 本当に知らないの?」

「し 知らない 知らないよ」

「あ そう クスクス ねえお兄ちゃん 言い訳ならもっと上手にしたほうがいいよ」

 ズドドドドドドド(←殺気)

「え ち 違う 本当に知らないんだって」

 ヒュッ ボグッ

「げぉっ」

「クスクス 正直に言いなさい 誰 今の人は」

「し 知らな」

 ブンッ ゴガッ

「ぎゅぶっ」

「クスクス 早く吐いた方がいいよ せめて口が利ける間に」

 ゴリッ ボギィッ

「はぅぐっ」

 ビシッ バシ ガスッ ゴツッ 違う ガッ バキッ ドゴッ ズガッ ボグッ ビシッ 信じて バキッ ドグッ ガツッ ドスッ ボギッ やめ ブシュッ ドシュッ ザシュッ

 ・
 ・

 はぅぅ 恥ずかしいです

 祐一さんは気を利かせて 何も訊かずにいて下さってますけれど 恥ずかしくて堪りません

 ふにゅう

 そうこうしているうちに 馴染みのスーパーに着きました

 ふう いつまでも恥ずかしがっていても 仕方ありませんね

 過去は過去 同じ過ちを繰り返さなければいいんです

 ふぁいとっ ですっ

「秋子さん 今日は何を買うんですか」

「お米と牛乳です」

「分かりました」

 スーパーに入って 祐一さんと一緒に店内を回ります

 私と同じように お夕飯の買い物に出てきている主婦の方が たくさんいらっしゃいます

 先程も考えましたけれど 今の私と祐一さんは どんなふうに見えるんでしょうか

 新婚の若夫婦 とか

 毎夜毎夜 しっぽりで どっぷりで ねっとりで 組んず解れつ

 はぁ はぁ どきどきどきどき

 えっ あっ そ そんなことまでっ

 ああ でも私 祐一さんのこと信じていますから

 はあっ あっ あんっ

 はあ はあ わ 私 もう

「秋子さん」

「ふぁいっ」

 あ ああっ び びっくりしました

「は はいっ な なんですか」

「牛乳を置いてあるところ 過ぎてますよ」

「ほぇ」

 乳製品売り場をだいぶ通り過ぎていました

 はふん

「す すみません」

 ・
 ・

 紆余曲折ありましたけど お買い物も終わって 今は帰り道です

 買い物したものも 祐一さんと手分けして持っていますから 重くありません

 でも気持ちは落ち込んでいます

 今日はちょっと(とっても)失敗してばかりでしたので 祐一さんに呆れられてしまったのではないでしょうか

 せっかく祐一さんと一緒にお出掛けできたのに これではダメダメです

 はぅ しょんぼり

 ふと目線をあげて見てみますと 祐一さんと目が合いました

 祐一さんは 少し考え込むように黙り込んで

「秋子さん」

 左手を差し出しました

 え

 ええと これは

 ひょっとして 手を繋ぎましょうという意味でしょうか

 えっ ええっ

「い いいんですか」

 怖ず怖ずと訊ねてみます

「はい」

 はぅっ

 ど どうしましょうか

 勿論 嫌ではありません むしろとっても嬉しいんですけれど

 で でもでも ええと ええと

 どっきん どっきん どっきん ああ 胸がドキドキしてきちゃいました

 お 落ち着くのよ秋子

 ここできちんと落ち着いた態度を示して 名誉挽回です

 ゆ 祐一さんがこうして誘ってきて下さっているんですから 断るのも失礼ですよね

「で では」

 手を伸ばします

 どきどき どきどき

 きゅっ

 あああっ 手っ 手を繋いじゃいました

 祐一さんの手の平は少し荒れていますけれど 大きくて温かくて 頼もしい感じです

 はぁ 幸せ

「あ 秋子さん」

 祐一さんが驚いたような顔で私を見ました

 え ええっ わ 私の手 どこかおかしかったんでしょうか

 ああ 手をもっと綺麗に洗っておくべきでした それとクリームを塗って それから それから

「あの 俺 買い物袋を受け取ろうとしたんですけど」

「ほぇ」

 買い物袋

「秋子さんが重そうだなって思って」

 え えっ ええっ

 ああっ お 落ち着くのよ秋子

 ええと祐一さんは 手を繋ごうとしたわけじゃなくて 私の買い物袋を受け取ろうとしただけで

 つまり私の勘違い

 ああ あああ ああああ

「す すっ すいませんっ」

 ああん また失敗しちゃいました

「はぅ」

 これで三度目です 今度こそ祐一さんも愛想を尽かしてしまうかも

 ぐすん

「あの 秋子さん」

「はい」

「ええと その 手」

 あっ

 祐一さんと手を繋いだままでした

「す すいません」

 慌てて離そうとした私の手を 祐一さんが優しく握り締めました

「あ」

「あっ す すいません つい」

 恥ずかしそうに顔を赤くして謝る祐一さん

「ええと ええと」

 道端で立ち止まって手を繋いだまま お互いにもじもじし合います

「秋子さん」

「祐一さん」

 同時に呼び合って また口ごもってしまいました

「秋子さんからどうぞ」

「い いえ 祐一さんこそ お先に」

 はぅっ いったい何をしているんでしょうか 私達は

「あ 秋子さん」

「は はい」

 どきどきどきどき

「このまま手を繋いで帰りませんか」

「えっ」

 ええと ええと それはつまり

 私がまとまらない頭で考えていますと 祐一さんは寂しそうな顔をして

「秋子さんが嫌だったら いいんですけど」

 そう言って 手を緩めようとしました

「あっ」

 ぎゅっ

 離れ掛けた祐一さんの手を 思わず握り締めていました

「あ」

 繋いだ手と私の顔を交互に見つめる祐一さん

 はぅぅっ

 どきどきどきどきどき 心臓が破裂してしまいそうです

 でも言わないといけません

 私はにっこり微笑んで

「いえ 嫌じゃありませんよ祐一さん こうして帰りましょう」

 はぁ はぁ い 言えました

「秋子さん」

 祐一さんはほっとしたように微笑んで 私の手を握り直して下さいました

「じゃあ帰りましょうか」

「はい」

 二人で手を繋いだまま歩き出します

 うふふ 祐一さんの手は温かくて 私の心もぽかぽかです

 今日はいろいろ失敗してしまいましたけれど 今はとっても幸せな気持ちです

 るんらら〜 よかったね〜♪


                      愛のコント劇場『お茶目な秋子さんお買い物編』 おしまい

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 星牙でございます。
マキ「マネージャーの小原マキです」

 久しぶりに可愛い秋子さんを描けたよ。お茶目な秋子さんというタイトルに偽り無しですな。
マキ「自分で言うな」
 うぃ。

 話しは変わるけど、この間の休みの日に『KANON』のアニメを見たよ(六話まで)。
マキ「ほう」
 小生は元々『其処にある物をあるがままに受け入れる』とゆー人生観の人間なので、ケチを付ける気はないです。気に入らなければ、観るのをやめるだけですので。それで、そんな小生が思うことを一言。

『なんで栞嬢のパンストが大袈裟に取り沙汰されて、顔を赤くした秋子さんの超々々(←強調)色っぽい崩れ落ちシーンが騒がれないんですかッ!?』

 予告であのカットが流れた瞬間、テレビの前で『おおおお』と吼えた小生の気持ちは一体何処へ。
マキ「何処にやるかはともかく、まずは落ち着け」
 うー。秋子さんのラブシーンを入れてくれとは言いません。脱いで下さいとも言いません。せめて一度でいいから髪の毛を下ろしてくれ――――(←精一杯の譲歩)。
マキ「謙虚なのか莫迦なのかよく分からん」

 お読みいただきありがとうございました。
マキ「それでは、ご機嫌よう」



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