愛のコント劇場『お茶目な秋子さん 寝間着編』

 ※えっちです(端的)。

 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

「ふう」
 祐一は枕元の電灯に照らされた天井を見上げ、一人溜め息を吐いた。障子と雨戸で隔てられた向こうでは、未だに雪混じりの風が舞っている音が聞こえる。
 稀にみる大雪で街道が封鎖され、ここ民宿『皆瀬』に閉じ込められて早四日。食料などに問題はないとはいえ、やはり身動きが取れないという厳然たる事実は、祐一の気を重くさせていた。

 自然の猛威の前に為す術もなく、極限状態とも言える状況で、祐一はよく耐えていた。…しかし、人の精神力は無限ではない。

 眠る前に用を足しておこうと、祐一は布団から出た。刺すような肌寒さを凌ぐために、備え付けの丹前を羽織り部屋を出ていく祐一。
「……」
 人気の感じられない廊下を、足音を忍ばせるようにして進んでいく。人気がないのは至極当然、今この宿に人間は祐一を除けば一人しかいないのだから。
 用を足し、洗面所で手を洗った祐一は、来た道を引き返していった。
「…あれ?」
 ふと廊下の先に人影があることに気が付き、声を上げる祐一。
「あら…祐一さん、どこにいらしていたんですか?」
 廊下の奥から、この民宿を一人で切り盛りしている女将、そして現在この建物にいるもう一人の人間である皆瀬秋子が姿を現した。

(…えっ…は、裸!?)
 一瞬、息が詰まるほどの緊張感と共に、秋子の躰を見つめ直す祐一。
「どうかなさいましたか?」
 全く動じた素振りを見せずに妖然と微笑み、祐一を見つめる秋子。
 寝間着だろうか、秋子はシースルーのネグリジェを身に纏っている。ブラジャーはしておらず、端から見ればほとんど全裸と変わらない秋子を、祐一が裸と見間違えたのも無理はなかった。
「…い、いえ。…なんでもないです」
 しどろもどろになりながらも、秋子の肢体から眼を離すことの出来ない祐一。

 透き通るような紫色の薄布は、秋子の躰の線を際立たせるように浮かび上がらせている。流麗な線美を描く撫で肩と、それに続く女性的な腕。細指はごく自然な仕草でほほに添えられている。
 ふっくらと形よく盛り上がった乳房は秋子の呼吸に合わせて微かに上下し、その頂点には乳房の大きさには不釣り合いなほど慎ましやかな乳首が芽吹いているのが見て取ることが出来る。
 精緻な細工を施されたショーツは、透き通る薄布よりは肌を隠す用を為しているものの、秋子の肢体をより艶やかに魅せているだけとも言えた。

「……う…っ」
 熟れた凄艶な肢体を目前に供えられ、軽く目眩を覚える祐一。
「うふふ」
 秋子はうっとりと媚笑をたたえながら、その豊満な乳房を持ち上げるように腕を組んだ。左右非対称に盛り上げられた乳房が、波打つように震える。
「んぐっ」
「…ふふっ」
 息を飲む祐一を愉しそうに見つめる秋子。

「祐一さん」
 しばらく祐一の視姦を甘んじて受け止めていた秋子が、鼻に掛かる声で名前を呼んだ。
「は、はい?」
 突如声を掛けられ、祐一の煮立つように熱くなっていた頭が冷えた。
「少し、祐一さんにお話ししたいことがあるんですけれど…私の部屋にいらして下さいませんか?」
 祐一の眼を見つめたまま、緩慢な口調で話す秋子。
「え?」

「……」
 こんな夜更けに男を自分の部屋に呼ぶ秋子の真意が読めず、考え込む祐一。
「…だめでしょうか」
 黙り込んだ祐一を見つめ、秋子はふらりと躰をよろめかせ、組んでいた腕を揺さぶるように動かした。腕に持ち上げられた豊満な乳房が、波打つように震える。
「…うっ」
 思わず身を乗り出し掛け、慌てて躰を退く祐一。
「祐一さん…」
 答えない祐一を焦れったそうに見つめて、秋子は潤んだ瞳を逸らさずに肢体をくねらせる。
「あう、うっ…」
 祐一の頭の奥はジンと痺れたようになり、思考がまとまらなくなってきた。

「あ…い、いえ。もう遅いですから」
 祐一は理性をかき集め、震える声でそれだけを言った。
「そうですか…?」
 秋子は悄然とした表情を隠そうともせず、憂えた視線を祐一に向ける。
「……」
 秋子は何か考え込むように黙り込んだ。と、秋子の瞳が妖しいきらめきを帯びる。
「…ふふっ」
 見る者を畏怖させるような媚笑を浮かべ、秋子は祐一に背を見せた。

 部屋に戻るのか、と祐一が安堵と落胆の入り交じった溜め息を漏らし掛けるのと同時に、秋子はネグリジェの裾を指で摘み、おもむろにネグリジェを捲り上げ始めた。
「なっ…!」
 想像もしていなかった秋子の行動に、息を飲む祐一。
 優雅とも言える仕草でネグリジェの裾が捲り上げられ、それにつれて秋子の真珠色に輝く肌が露わにされていき、祐一の眼を射抜く。細く引き締まったふくらはぎと、対照的に肉付きのいい太ももが眩しく映った。
 祐一が制止の声を掛けることを思い付く間もなく、ネグリジェの裾は秋子の臀部の上まで捲り上げられた。
「…う…」
 大人の女性でなければ持ち合わせ得ない、優美な曲線を描く秋子の双丘に、祐一は三たび息を飲む。

 真円とハート型の中間の形をした双丘と、その谷間に半ば埋没している小さなショーツに祐一が眼を奪われている間に、秋子は臀部の膨らみの上に捲り上げたネグリジェの裾を引っ掛けた。
「…ふふふふ」
 秋子は首を振り向かせて妖艶な瞳で祐一が見ていることを確認すると、前に向き直り、紫紺色に光沢を放つ布切れの縁に指を掛け、引き下ろした。
「あ」
 ショーツが音もなく、秋子の尻を滑り落ちる。
 申し訳程度に隠されているだけでほとんど剥き出しだったとは言え、一応下着で覆われていた双丘が、何の飾り気もなくし祐一の眼前に晒された。

 太ももの上までショーツをずらし、器用に片足ずつ持ち上げて、ショーツを脚から抜き始める秋子。右脚を持ち上げたとき、真後ろにいた祐一の眼に、秋子の秘部が映った。
「…ふう」
 吐息混じりの呼気を漏らして、ショーツを床に落とす秋子。ぱさ、と微かな音が廊下の空気を揺らした。
 臀部の上に引っ掛けていたネグリジェを降ろし、軽く叩いて裾の形を整えると、秋子はゆっくりと首を振り向かせ、
「…祐一さん。私の部屋にいらして下さい」
 祐一が拒否できないことを確信しているように、傲然と言い放った。
「…っ、…は、い」
 秋子の凄絶な色香に飲み込まれ、既に理性を失い掛けていた祐一は、瘧(おこり)のように首を何度もうなずかせ、答えた。

「…うふふ」
 祐一の応えに満足したのか、或いは悦楽の予感にか、凄艶な媚笑を浮かべる秋子。
「では、行きましょうか」
 足元にうち捨てられた自分のショーツに気を留めることなく、秋子は祐一を先導するように歩き出した。
「……」
 見えない鎖で引きずられているかのように、おぼつかない足取りで秋子の後に付いていく祐一。

 悠然と廊下を進む秋子が脚を動かすたびに、祐一の目の前で双丘が震える。
「う、うう」
「…うふふ」
 秋子は背後で呻く祐一の声が聞こえたのか、いかにも可笑しそうにのどの奥で笑った。

 長くもない廊下を10分以上時間を掛けて渡り、ようやく秋子の寝室の前に着いた。
「どうぞ」
 襖の脇に身を控えさせ、秋子は祐一に先に入るように促した。
「……」
 拒否することを思い付けず、半ば夢想状態で秋子の寝室に入る祐一。秋子は祐一の後に部屋に入り、襖を閉めた。

 秋子の部屋には既に布団が敷かれていた。秋子は祐一に背を向け、
「今、布団を片付けますから」
 秋子が屈み込んで、尻を祐一に向けて突き出すようにして言った瞬間、祐一の理性が決壊した。
「あっ、秋子さんっ!」
 叫ぶように名前を呼ばわりながら、祐一は秋子の細い柳腰に腕を回し、押し倒した。
「あっ! な、何をするんですか!?」
 祐一に組み敷かれ、うつ伏せに布団に押さえ付けられた秋子が、白々しく悲鳴を上げた。その仕草に、祐一の情欲が刺激される。

 祐一は応えないまま、秋子の躰の下に手を差し込み、ネグリジェ越しに秋子の肢体を揉みしだき始めた。
「ああっ、いやぁっ」
 言葉とは裏腹に口元をほころばせ、秋子が身悶える。薄手の生地越しに豊満な乳房をまさぐられ、秋子の躰が跳ねた。
 視姦されているうちに興奮していたのか、秋子の躰は既に熱く火照っていた。よく熟れた大人の女の肢体の感触に、祐一の意識が溺れ始める。
「…あ、秋子さんっ」
 祐一は乱暴とも言える力強さで、遠慮会釈なしに秋子の躰を揉み捻った。
「んっ…! …あっ、ああっ、あーっ!」
 秋子はくねるように躰を揺すりながら、掠れた嬌声を上げた。

「はあ、はあ」
 祐一は秋子をうつ伏せにしたまま身を離すと、秋子の足首を掴み、大きく左右に開かせた。
「あっ、はああっ!」
 首を振り向かせ、被虐的な快楽に潤んだ瞳を向ける秋子。大きく開かれた脚の間の秘部は、既にしとどに濡れそぼっていた。
「…うっ」
 秋子の蜜壷から香る濃い女の匂いに、むせ掛ける祐一。それと同時に、祐一の情欲がさらに刺激される。
「……っ」
 祐一はネグリジェの縫い目に指を掛け、一息に引き裂いた。薄手の生地は、何の抵抗もなく左右に引き裂かれ、秋子の背中の肌が露わにされる。
「ああっ」
 驚きと興奮の入り交じった溜め息を漏らす秋子。

 祐一はネグリジェを裾まで引き裂くと、身につけていた服を引きちぎるように脱ぎ捨て、秋子のわき腹に手を添えて腰を持ち上げさせた。
「ああっ」
 快楽の予感に打ち震え、秋子が低い声を上げる。溢れた蜜が太ももを伝い、電灯の灯を受けてつやつやときらめいた。
「秋子さんっ」
 祐一は場所を合わせると同時に腰を前に突き出し、躊躇なく秋子の中に押し入った。湿った音と共に、秋子と祐一の粘膜が絡み合う。
「あっ、ああーっ!」
 待ち望んでいたものを与えられ、身を仰け反らせながら歓声を上げる秋子。秋子の唇から、堪えきれない愉悦の嬌声がほとばしる。
「…ふうっ」
 軽く息を吐いて呼吸を整え、祐一は荒々しく秋子の内部をえぐり始めた。
「んああっ! あっ、あーっ!」
 体内をかき回され、秋子が大きく身悶えながら悲鳴を上げる。

 狭い寝室に、肉のぶつかり合う破裂音と粘着質な水音が響き渡り、それに混ざって秋子のかん高い嬌声が空気を震わせる。
「ぅんっ、んっ、んぁっ! ぅあっ、あっ、はぁっ、ぁはぅっ!」
 低音と高音が不規則に入り乱れる喘ぎ声を上げながら、秋子は自ら躰を前後に揺さぶる。
「ぅふぅっ、ふぅっ、うぅっ、ぅんっ、んぅっ、うう〜!」
 震える指でシーツを握り締め、全身を濃い桜色に染め上げながら、悦楽を享受する秋子。その表情は溶け掛けたように緩み、唇の端からは薄く涎が糸を引いていた。

 祐一も熱く火照る粘膜に包まれ、秋子の蜜壷の感触に我を忘れていた。既に躰が自分の意志の思い通りにならないまま、引きずられるように秋子の深奥を突き崩すように責め立て続ける。
「んぁっ、はぁっ、はぁっ、あぁっ! はっ、はぁっ、ぁはぁっ、ぁはぁっ、はぁぁっ!」
 秋子は祐一の苛烈な攻めに半ば過呼吸に陥りながら、それでも尚快楽と愉悦を求め、躰を揺すり続ける。
 祐一が深奥を貫き、子宮口をえぐるたびに秋子の全身を重い戦慄と込み上げるような快感が襲い掛かる。また祐一が蜜壷を戻るときは、祐一に絡まる粘膜が引きちぎられるような感覚と共に、気が狂わんばかりの寂寥感と快感に包まれた。
「ああ、あっ、あああっ! はぁっ、はぁんっ、はぁんっ、んんっ、んっ、んぁぁーっ!」
 何度も何度も軽い絶頂を迎え、貞淑な仮面をかなぐり捨てた秋子は、牝のように尻を持ち上げて、快楽を追い求め続けた。

 やがて、祐一と秋子に限界が近付いていくる。
「はあっ、はあ、はあっ…ああ、あっ…!」
 秋子の声が徐々に切羽詰まったものになり、掠れるように震え始めた。
「…う…あ、秋子さんっ」
 僅かな差で、祐一が先に絶頂を迎える。呻くような声と共に祐一の動きが止まり、肩が震えた。秋子の体内に、情熱の固まりが注ぎ込まれる。
「あん、んっ!」
 体内で生じた高熱が引き金になり、秋子も絶頂を越える。一瞬声を引きつらせた後、汗ばんだ身体を振るわせ、秋子の唇から長い悲鳴がほとばしり出た。

「ああああああああああああああああああああ―――っっっっっっっっっ!!!!!!」

 悲鳴と共に バンッと音を立てて文庫本を閉じました

 はあ はあ はあ はあ

 ソファに腰掛けて息を整えました

「ふう」

 溜め息を吐きながら タイトルを見ます

 『皆瀬秋子シリーズ28 情欲旅籠(はたご)』

 ああ もう どうして私の名前が官能小説に使われているんでしょうか

 おまけにそれがすでに27冊 これで28冊目ですよ

 もう 信じられません

 しかも以下続巻なんて書いてありますし

「はふんっ」

 ちなみに内容はと言いますと

 山奥の寂れた民宿

 そこに偶然立ち寄った旅好きの高校生 この方が祐一さんで

 その宿をたった一人で経営しているのが 皆瀬秋子さんで

 他に宿泊客はいなくて

 大雪で街道に出られなくなって

 世間から隔絶された空間に 男女が二人きり

 それでまあ 後は ごにょごにょ

「あああああああああ――――っっ」

 ああ もうっ

 本気でこの出版社に抗議してしまいましょうか

 作者の方は ええと 星牙さん

 『せいが』でしょうか それとも『ほしきば』でしょうか

 まあ どっちでもいいです

「はあ」

 それにしてもどうしてこのお話の私 いえ 皆瀬秋子さんはこうもふしだらなんでしょうか

 いえ まあ そうじゃないと官能小説にならないってことぐらい分かりますけれど

 いくらなんでも恥じらいが少なすぎると言いますか

 だって いきなりネグリジェの裾を持ち上げて お尻を向けたまま パンツを降ろしてしまうなんて

 私だって シースルーのネグリジェぐらい持っていますけれど

 でもだからって 祐一さんの前に出る勇気はありません

 ましてや 裾を持ち上げて パンツを降ろすなんて

 そ そんなこと もう考えただけで 身体が熱くなって 違います

 考えただけで 疼き 違いますっ

 考えただけで 濡れ 違いますっ

 考えただけで 熱く火照ってしまいます え どこがって 顔がですよ もちろん

 いえ まあ その

 わ 私だって 女を捨てたわけじゃありませんし

 別の所が熱く火照ったり     しません

 あまつさえ濡れたり     し しませんよ ええ

 ほ ほっ 本当ですよっ

 はあ はあ はあ

「………」

 シースルーのネグリジェで 祐一さんの前に立って

 おっぱいを見せ付けたりしながら

 後ろを向いて ネグリジェの裾を持ち上げて

 パンツをゆっくりと ずり降ろ

「あああああああああ―――――っっっっっっ」

 ばんっ ばんっ ばんっ 目の前のテーブルを叩いて気を落ち着かせる私

 はあ はあ

 な な 何を考えているんですかっ

 祐一さんは甥です 預かり物なんです 大切に扱わないといけないんです

 誘惑するなんて そんな

 ましてや 傷物にするなんて

 傷物

 祐一さんを傷物に

 大切な物を台無しにすることで得られる 背徳的な充足感

 はあ はあ はあ

「って 息を荒げて どうするんですかーっ!」

 ばんっ ばんっ ばんっ

 はあ はあ はあ

 大体 祐一さんは私なんて 相手にしませんよ きっと

 ズキン あ 痛い

 何かしら 今の胸の痛みは

 ええっと 私が祐一さんに相手にしてもらえないって あ 痛い 痛いです

 はあ はあ

 相手にしてもらえない

 そ それは まあ 当たり前ですよね

 親と子ほど年齢が離れていますし 祐一さんからすれば 私は恋愛対象外でしょう

「………………」

 なんだか いい気持ちがしません

 わ 私だってまだ若 くはないですけれど でも まだまだいけますよ って どこにですか

 え ええと ええと

 お肌だって 張りと潤いを保っていますし

 お腹だっておっぱいだってお尻だって 弛んだり緩んだりなんていませんし

 運動だってしていますから 締ま げふんげふん 何でもありません

 ぜ 全部 本当ですよっ

「ううっ」

 居ても立ってもいられない気分になってきました

「……っ」

 ソファから立ち上がり

 ダダッ 部屋に駆け戻って タンスを開けます

 ごそ ごそ ええと ええと

 あ ありました

 シースルーのネグリジェ 色はピンクです

「うっ」

 これを通信販売で購入したころは 私だってこれが似合う年齢だったんです

 でも 今は ピンクなんかより 紫が似合う年齢に

 ああああっ

「はう」

 この件については考えないことにしましょう

 タンスから引き出しました

 虫に食われたりはしていませんね

 サイズも変わっていませんから 着られるはずです

 もし着られないとしたら それは生地が縮んだんです

 私が太ったわけじゃありません ええ 決して

 コホン

 では 覚悟を決めました

 ネグリジェをベッドに置いておいて 服を脱ぎます

 カーディガン ブラウス スカート ストッキング

「……」

 下着はどうしましょうか

 うーん うーん

 決めました 脱いじゃいましょう

 ぷち するする

 服を脱ぎ終えて ネグリジェを手に取ります

「ふう」

 緊張してきました

 大丈夫よ秋子 怖がらないでも大丈夫 って何がですか

 意を決して ネグリジェを頭から被りました

 ひんやり

 ああっ つ 冷たいですぅ

 するっ

「ひぅ」

 さらっ

「んぁっ」

 あう あう ぞくぞくしますぅ

 はあ はあ はあ

 身体を小さく縮み込ませながら 袖を通して裾を降ろします

「ふう」

 着ることは出来ました どこかが突っ張っているなんてことはありません

 ただ ちょっと

 胸が 正確には先っぽが

 ええと その ネグリジェの生地に擦れて

 固くなっちゃ

「ああああ――っ」

 何でもありませんっ 何でもないんですっ

 ふう はあ ふう はあ

 落ち着いて秋子

 さてと 気を取り直して 鏡の前に立ちます

 大丈夫 大丈夫よ

 ドキドキドキドキ

 ああ すごくおかしかったらどうしましょうか

 うー うー

 あ そうです 髪の毛を下ろしておいた方がいいかもしれませんね

 現実を見据える覚悟を決められなくて 先延ばしにしているわけじゃありません

 ほ 本当ですよっ

「コホン」

 三つ編みを解いて 頭を振って 髪を下ろしました

 ああ うう もう何もすることがありません

 き 緊張してきちゃいました

 はあ はあ はあ はあ

 大丈夫 大丈夫

 踏み出す前は怖くても やってみたら案外どうってことはないってことなんて いくらでもあるじゃありませんか

 ふぁいとっ ですっ

 勢いを付けて

 えーい

 すたっ

「……」

 ホッ 別にどこもおかしくはないですね

 ああ 良かったです

 まだまだ いけるじゃありませんか だからどこにですか

 ふぁさっ なんて髪の毛をかき上げたりなんかして

 こう胸の下で腕を組んで 揺らしたりして

 たぷたぷ ぽゆぽゆ

 うふふ これなら祐一さんを一撃で陥落させることが しませんっ

「はう」

 でも本当に 変なところはなくて一安心です

 おっぱいだって 左右とも綺麗に張っていますし

 お腹も弛んでいませんし

 全然平気です

 強いて おかしいところと言えば

 パンツ一枚でシースルーのネグリジェを着ている私自身

「ああああああああああああああ―――――っっっっ」

 やっと我に返りました

 な 何をしているんですか私はっ

 こ こっ こんな格好を名雪や祐一さんに見られたら人生の終わりです

 き 着替えないと

 って こういうときに限って 誰か帰って来ちゃうんですよ きっと

「ただいま〜」

 ほら案の定 帰って来ちゃいました って えええええっ!?

「あれ お母さん?」

 どうやら名雪一人みたいです

「お母さーん いないの〜?」

 えっ あっ ど どうして真っ直ぐこっちに近付いてくるの

 ガラッ

「あ」

「あっ」

 布団に飛び込む間もなく 扉が開け放たれました

「……」

「……」

 無言で見つめ合う名雪と私

「ううー」

 名雪が呻きました

「わ わたし 何も見てないよっ」

「え えっとえっと と 時計を見てたから 変な格好をしてるお母さんなんて見てないよっ」

 わたわたと手を振りながら必死で言う名雪

「わーっ」

 恐怖に駆られたのか 名雪は逃げ出してしまいました

「はっ」

 ああ ちょ ちょっと待って名雪

「ただいま」

 あっ 祐一さん

「ああ 祐一ぃ」

「うわっ どうした名雪 顔が真っ青だぞ」

「あ あう あう あー」

「落ち着け 何があった」

「お おっ おかっ お母さん お母さんが お母さんがっ あっ あっ」

「秋子さんがどうした」

「あ あ あー あーっ あーっ ああーっ ああああーっ」

「お おい名雪」

「う あっ わっ わた わたしっ わたし 何も見てない 見てないよぉっ」

「な 何があったんだ おいっ」

「うーあー うーあー けろぴーが けろぴーが飛んでっちゃうよー」

「しっかりしろ名雪 気を確かにするんだ って言うかお前 瞳孔が全開になってるぞ おいっ 待て死ぬなっ」

 ちょ ちょっと名雪 いくらなんでも錯乱しすぎなんじゃないですか

 そんなに破壊力があるっていうんですか この格好

「秋子さん いますか」

 ビクゥッ! ゆ ゆっ 祐一さんっ

「は はいっ」

「名雪が大変なんです」

 え ええ 名雪が大変なのは知っていますけれど

「入りますよ」

「え あ 待って」

 ガラッ

「あ」

「あ」
































                         刻が停まりました


















「あ 秋子さん」

 あ あっ ああっ ゆ 祐一さんが 祐一さんが見てます 見られています

「あ あの あの えっと」

 あああ ど どうしたら

 ええと ええと こういうときは

 背中を向けて ネグリジェの裾を持ち上げて パンツを下ろして って してどうするんですかっ

 事情を話さないと

 大丈夫 順を追って説明すれば 祐一さんならきっと分かってくれます

「あ あの祐一さん 聞いて下さいね」

 祐一さんを刺激しないように 抑えた口調で話し掛ける私

 って もうこれ以上ないほど刺激しているような気もしますけど

「は はい」

 ああ 祐一さんが射るような視線で じっと私を見ています

 ドキドキドキドキ

 はあ はあ はあ

 なんだか身体が熱くなってきちゃいました

 ああああああああああーっ

 お おち 落ち着くのよ 秋子っ

「ええとですね」

 って 何から言えばいいんでしょうか

 官能小説を読んで 祐一さんに私の魅力が通じるかどうかが気になって こんな服を着てみたんです

 なんて言えません

 あ でも そうなったら当然 祐一さんに効果を訊いてみないといけないわけで

 そうしたら 祐一さんは何て答えて下さるんでしょうか

『全然ダメです 萎え萎えです』

 ガ――――ン

「ふえぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「うわっ ど どうしたんですか 秋子さんっ!?」

「えうっ えう な なんでもありません」

 思わず泣き出しちゃいました

 そ そんなこと おっしゃいませんよね 祐一さん

 私 祐一さんのこと信じていますから

「あの 秋子さん」

 ビクッ

「いやっ 何も言わないで下さいっ」

「え あ はい」

 ええと 祐一さんの答えが はい だった場合

 私に魅力を感じてくれているということで

 ええっと そうなると

「秋子さん」

「はい?」

 いつの間にか祐一さんが近付いてきていました

「もう我慢できません」

「え?」

「すいませんっ」

 がばっ どさっ

 抱き締められて ベッドに押し倒されました

「あっ」

 なるほど こうなるわけですね

 って 落ち着いていてどうするんですかっ

「あ ま 待って」

「無理ですっ」

「あっ あっ だめ ゆ 祐一さんっ」

 じたばた もがもが

「秋子さんっ」

「あ あっ だめ ああ ああ あっ」

 あ そんなっ

 あっ ああっ

 あ

「………………………………………………………………………………あん♪」

 ・
 ・

 もう真夜中です

 私が居間で呆けていると

 ガチャ とたとた

「うー」

 寝惚けまなこの名雪が居間に顔を出しました

「あら名雪 目が覚めたの」

「うん」

「ご飯?」

「ううん いいよ それより お水ちょうだい」

「はいはい」

 ストンとソファに腰掛ける名雪

「はい 名雪」

 名雪に水を注いだコップを手渡しました

「ありがとう」

 こくこく

「ふー」

 名雪はなんだか疲れた表情で 溜め息を吐きました

「ねえお母さん わたし学校から帰ってきてからの記憶がないんだよ」

「あら そうなの」

 記憶から抹消されるほど アレは強烈だったということですね

「いつの間にか部屋のベッドで寝ていたし」

「疲れていたのよ きっと」

「そうかな」

「ええ」

 きっぱり言い放つ私

「うん じゃあもう一眠りするよ」

 眠るのと疲れを癒すのは違うようにも思えますけど まあいいでしょう

「おやすみ〜」

「おやすみ名雪」

 二階に上がる名雪を見送って 一息つきました

「はふぅ」

 私もちょっと いえ すごく疲れているので休みましょう

 どうしてかっていうと それは昼間 祐一さんと

「うふふふ」

 あらあら いけませんね また思い出しちゃいました

 まあ昼間のことは 極秘機密ということで

 たまには ああいうことがあってもいいですよね

 では おやすみなさい


                 愛のコント劇場『お茶目な秋子さん寝間着で誘惑編(←本来のタイトル)』 おしまい

 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

 星牙でございます。
マキ「マネージャーの小原マキです」

 お預かりいただく段になり、『情欲旅籠』部分を全面改定してみました。大筋はいじってないですが、描写とかを丁寧に書き込んでみました。
マキ「大して変わっとらん」
 むい。改めて思ったのは、三人称での官能表現の難しさですな。
マキ「しみじみ語ることではないぞ」
 ういい。小生は官能小説は女性一人称、男性一人称、三人称の順番で経験してきたけれど、やっぱり男性視点が一番描きやすいですな。これから官能小説を書く方は、男性一人称をお奨めするヨ。
マキ「明るい口調でいかがわしいことを教授するなぁぁっ!」

 お読みいただきありがとうございました。
マキ「それでは、ご機嫌よう」


戻る