愛のコント劇場『お茶目な秋子さん 黒い秋子さん編』
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はふん
ああ 私ったら また早とちりしてしまいました
どうして 私はこんなに何度も早とちりしてしまうのでしょう
まるで謀られたみたい
はっ もしかしたら
祐一さん 私をからかって面白がっているのかも
いいえ 考えすぎです
でも 思い当たる節が
いいえ いいえ そんな祐一さんを疑うなんて 保護者失格です
・
・
(翌日の夜)
あうう そんな二日続けて早とちりをしてしまうんて
ぐすん ぐすん
…やっぱり祐一さん 私をからかって遊んでいるんですね 弄んでいるんですね
いいでしょう 分かりました
あなたがその気なら 私にだって考えがありますよ
ええと ええと どうしましょうか
あ そうです
コホン 咳払いをして
「私は昨日までの私ではありません」
「新秋子です ……」
語呂が悪いですね
「ええっと ええっと」
秋子・改 いまいちです
秋子 秋子 秋子 漢字から離れましょう
ネオ秋子 新と同じじゃないですか
秋子X あ ちょっと素敵 でもだめです
髭を生やして ∀秋子 絶対だめです 却下(一秒)です
ううん ううん
黒 あ そうです
「今日から私は 秋子ブラックです」
秋子ブラック いい響きです
下着も紫から黒にします そうじゃありません
「うふふ」
祐一さん覚悟して下さい
今日から私は一味も二味も違いますよ って今日はもう20分ぐらいしかないじゃないですか
仕方がありません デビューは明日ですね
お休みなさい
・
・
チュンチュン チチチ
朝です 昨日は興奮してよく眠れませんでした
今日は日曜日です 祐一さんは今日は一日家にいる予定だと仰っていました
つまりこの秋子ブラックの手から逃れる術はないと言うことです
「うふふふ」
覚悟して下さいね祐一さん
ごめんなさいね名雪 あなたも巻き込んでしまいます
でも躊躇いはありません だって私は名雪の母 秋子ではないのですから
そう 私は秋子ブラックなんですから
「うふふふ」
さあ 秋子ブラック 出撃です
・
・
リビングに着きました
「おはようございます」
あら 誰も居ません
時計を見るとまだ7時です 祐一さんも名雪もまだ寝ているんですね
好都合です 秋子ブラックの恐ろしさを見せて上げます
………何をすればいいのかしら
ええと ええと
ブラックと言うからには 悪いことをしなければいけないんですよね
悪いこと 悪いこと
あ そうです 朝ご飯を用意しておかないというのはどうでしょうか
(以下シミュレーション)
祐一さんと名雪が起きてきて
私は何食わぬ顔をして ソファで新聞を読んでいたりするんです
「おはようございます 秋子さん」
「おはよう お母さん」
朝ご飯を食べようと食卓に向かう二人 でもテーブルの上には何もありません
「あれ 秋子さん 朝ご飯の用意できてないんですか」
「ふふふふ」
私は含み笑いをしながら立ち上がって 二人を見つめるんです
「あ 秋子さん どうしたんですか」
「私は秋子ではありません」
「え どういう事 お母さん」
怯えた表情で私を見つめる二人 ああ 素敵です
二人の視線を浴びながら 私は両手を大きく広げ
「私は 秋子ブラックです」
ガ―――ン
「そ そんな まさか」
「うそ うそだよね お母さん」
うろたえる二人 うふふ
「嘘ではありません その証拠にほら 朝ご飯の用意もしていません」
二人の表情が凍り付きました
「クッ なんてことだ」
「お母さん わたしの知っているお母さんはもう居ないんだね」
「ええ そうです」
傲然と微笑む私
「腹減った 名雪 飯作ってくれ」
「うん いいよ」
あら
ご飯の用意を始める名雪と 洗面所に向かう祐一さん
「あ あの 二人とも」
どうして そんなにあっさり
「あれ まだ居たんですか 秋子ブラックさん」
え
「秋子ブラックさんに用はないんで どっか行って下さい」
え ええ そんな 祐一さん冷たいです
「あ あの名雪」
「邪魔だよ 秋子ブラックさん」
そ そんな そんなぁ
「さてと この家の家族も俺と名雪だけになっちまったな」
「少し寂しいね」
「そうだな 増やすか」
「え」
キッチンに立つ名雪を後ろから抱き締める祐一さん
「子どもをつくろう」
「え やだ もう祐一ったら あっ あぁん」
いちゃいちゃし始める二人
「だめだよぉ お鍋が吹いちゃうよ」
「いいから いいから」
はっ
「あ あのう」
恐る恐る声を掛ける私
「ん 何か聞こえたか名雪」
「ううん なんにも聞こえないよ」
「そうだな」
名雪と祐一さん 二人の身体が絡み合ったまま床に倒れ込んで
(シミュレーション終了)
「いやぁ―――」
あああああ
だめ だめです 朝ご飯の用意すっぽかし作戦はいけません
それならお昼ご飯の用意をすっぽか ってそれじゃあ同じじゃありませんか
どうしましょう
・
・
「いやぁ―――」
第24次計画『お風呂掃除すっぽかし作戦』シミュレーションが終わりました 結果は失敗です
全然だめです
ぐすん 私は一体どうすればいいんでしょう
「ううん ううん」
寝不足で考え事をしていて 頭が熱くなってきました ふらふらします
ううん ううん
はぁ くらくら
うふふ なんだかいい気持ち
ふふふふふ
あ そうです 良いことを思い付きました
祐一さんを誘惑してしまうというのはどうでしょう
これぞまさにブラックという感じです
(以下シミュレーション)
ガチャ 音を立てないように気を付けながらドアを開け 祐一さんの部屋に入ります
カーテンが閉められているので部屋の中は暗いですが ぼんやりと祐一さんのベッドが視認できます
寝息が聞こえます まだぐっすり眠っているんですね
私はとっておきのシースルーのネグリジェ姿です 下着は付けていません
この格好で迫れば 若い祐一さんは見境がなくなるに違いありません
「うふふ」
ベッドの脇に立って 祐一さんの耳元に囁きます
「ゆ・う・い・ち・さん 起きて下さい」
「ん」
小さく呻いて 祐一さんがぼんやりと目を開きしました
「おはようございます」
言いながら カーテンを開けます
「ああ おはようございま」
朝陽を浴びている私の姿を見て 絶句する祐一さん
「くすくす」
「あ あ 秋子さん ど どうしたんですかその格好」
あたふたしている祐一さん うふふふ その顔が見たかったんです
でもまだです 秋子ブラックの恐ろしさはこれからです
私は肩紐に手を掛けて
と その時です
祐一さんの布団が もぞもぞと動きました
「うーん」
名雪が身体を起こしました 裸です
「え あ えっと」
これって つまり その
昨日の夜二人は あ あ 愛し合って
うろたえている私を名雪はぼんやりと見つめて
「変な人がいる」
あああああ なんにも言い返せません
ああ まさかこんな状況になるなんて
肩紐を降ろし掛けたポーズで固まっていると
「祐一 わたし変な物が見えるよ」
「なんだ 変な物って」
「年甲斐もなく派手な格好をしているお母さんの幻覚が見えるよ」
ガ―――ン
そ そんな名雪 年甲斐もなくって いくら何でも酷すぎるわ
と 名雪は身体を祐一さんに擦り寄せて
「ねえ祐一 お母さんとわたし どっちが綺麗」
いやらしい笑みを浮かべ 訊ねる名雪
祐一さんも下卑た笑いを浮かべながら
「名雪の方が良いに決まってるだろ」
布団の中で手を蠢かせる祐一さん
「やん 祐一のエッチ」
「おっと 手が滑った」
「ああん だめ お母さんが見てるよ」
「あんな格好の秋子さんが居るわけがないだろ」
「それもそうだね」
私を完全の無視して えっちし始める二人
「い いやぁ―――」
(シミュレーション終了)
ああああ ああああああ
うううう 全然だめです
どうやっても 私は相手にしてもらえないんですか
もしかして 私ってどうでもいい存在なのでしょうか
二人の保護者のつもりだったのに 本当はただの女中 飯炊きお婆さんだったんでしょうか
そう思えた途端 涙が溢れました
「う うっく ひっぐ」
そうですよね よく考えたら名雪も祐一さんももう大人ですから
私なんて要らないって わずらわしいって思っているんですね
私なんて 私なんて
ソファに突っ伏して 泣き崩れる私
「ひっぐ うっぐ うっ ごほっ ごほ」
泣きすぎて胸が痛いです
「えぅっ ひぅっく」
眠たくなってきました もう何もかもどうでもいいです 寝てしまいましょう
・
・
ガチャ
「あー よく寝た」
ドンドン ドアを叩く音
「名雪起きろ 朝だぞ」
「うー」
とんとんとん 階段を降りてくる音
「おはようございます秋子さん あれ」
祐一さんの声がします
「どうしたの 祐一」
名雪の声
「秋子さんがソファにうつ伏せになってるぞ」
「本当だ 寝てるみたいだよ」
寝てなんかいません ぼんやりと考える私
「珍しいな」
「でも今日はちょうど良いよね」
「ああ そうだな」
何がちょうど良いんですか フン どうせ私をのけ者にして二人で楽しむつもりなんでしょう
「あれ 秋子さん何か苦しそうな顔してるぞ」
ギク
「こんな所で眠っていたら寝心地も悪いよ 祐一 お母さんを部屋に運んであげてよ」
「よしきた」
背中と腰に腕が回されて 身体を持ち上げられました
フン そんな 少しぐらい優しくされたって騙されません
「名雪 ドア開けてくれ」
「うん」
ゆらゆら揺れています 揺りかごの中にいるみたいでいい気持ちです
ガチャ
「よいせ」
ふんわりと優しくベッドに降ろされました
「ご苦労様 お母さんの服を着替えさせてあげるから 祐一は向こうに行ってて」
「おう」
するすると服が脱がされて 肌触りの良いパジャマに着替えさせられました
「おやすみ お母さん」
カーテンを半分閉めた後 名雪は静かにドアを閉めて出ていってしまいました
私はぼんやりと眼を開けて 天井を見つめました
なんだか寂しいです
「ぐすっ」
やっぱり名雪も祐一さんも 私なんかいなくても平気なんでしょうか
「ひっく ううぅ」
また涙が溢れ出しました
なんだか疲れてしまいました 眠りましょう
・
・
「ううん」
目が覚めると 部屋の中には夕陽が射し込んでいました
はっ いけません 寝過ぎてしまいました
慌てて飛び起きて 着替えようとした時
「あ」
名雪も祐一さんも 私のことなんか必要としていないことを思い出しました
のろのろと服を着替えて居間に向かいます
居間には電気が点いて 中から名雪と祐一さんの笑い声が聞こえました
やっぱり
私なんて 居ても居なくても変わらないんですね
このまま部屋に戻って もう一度寝てしまいましょう
と ドアが開かれて名雪が顔を出しました
「あ お母さん 起きたんだ」
「え ええ」
ぎこちなく微笑み返す私
祐一さんも名雪の後ろから顔を出して
「どうも 秋子さん」
「あ はい」
戻るに戻れなくなってしまいました
「ちょうど良かったね」
「ああそうだな」
何がですか
「お母さん ちょっとこっちに来て」
名雪が楽しそうに私の手を引っ張ります
「なんですか 一体」
どうせ私が居ない間 二人で楽しんでいたんでしょう
「ここで待っていて下さい」
祐一さんがテーブルの陰から何かを持ってきました
「?」
名雪と祐一さんは持ってきた何かを後ろに隠して 並んで私の目の前に立っています
二人で眼で合図をして
「はい お母さん」
「どうぞ」
同時に後ろに隠していた物を差し出しました
真っ赤な花束です
「え え これは」
「カーネーションです」
ええ 見れば分かりますけれど
「今日は母の日だから」
母の日 そう言われれば
「私と祐一でお金を出し合って買ったんだよ」
「俺も名雪も普段から秋子さんにお世話になってばかりですから せめてものお礼です」
「祐一と前から話して 今日はゆっくりしてもらおうと決めていたんだよ」
「秋子さんも疲れていたみたいだったし ちょうど良かったですよ」
ああ それでちょうどいいって言っていたんですね
「…えっと」
名雪と祐一さんは真面目な顔になって
「お母さん いつもありがとう」
「これからも よろしくお願いします」
頭を下げる名雪と祐一さん
「え ええと」
あまりの衝撃に呆然としていた私を 心細そうに見つめる二人
いけない 何か言わなくちゃ
「あ」
その瞬間ぐっと胸が詰まって 瞳の奥が熱くなりました
こんな こんなのって ずるいですよ二人とも
「あ ありがとう 名雪 祐一さん」
声が震えます
泣き出しそうになるのを必死で堪えて 花束を受け取りました
「とっても嬉しいわ」
二人とも ほっとしたみたいです
「どういたしまして」
名雪と祐一さんがもう一度頭を下げました
私も深く頭を下げて 心の中で謝りました
ごめんなさいね 二人とも あなた達の心を疑ってしまって
本当に私は保護者失格になるところでした
「そうだ お母さんお腹空いてない ご飯出来てるよ」
「ええ そうね いただくわ」
「じゃあ 俺持ってきます」
私も と手伝おうとして祐一さんに止められました
「秋子さんは今日の主賓なんですから座って待っていて下さい」
「はい」
名雪のつくった料理を祐一さんが運んできてくれました
「いただきます」
「どうぞ」
丁寧に作られたお料理は 二人の気持ちが詰まっていてとっても美味しかったです
「ごちそうさまでした」
「あれ もういいんですか」
「ええ」
「美味しくなかった?」
心配そうに訊ねる名雪
「いいえ とっても美味しかったわよ」
でも もう胸がいっぱいで食べられないんです
「名雪 ずいぶん料理が上手になったわね」
「そうかな」
頬を染めて照れています 本当に可愛い名雪
「祐一さんのためでしょう」
「な 何言い出すんですか秋子さん」
「うん そうだよ」
「名雪 お前も」
うふふ 困っていますね
「祐一さんもいつまでも名雪のことを助けてあげて下さいね」
「え ええ はい」
照れながらもしっかりと頷いてくれる祐一さん
二人とももう一人前
「私の出番はもうありませんね」
ふと漏らした途端 名雪と祐一さんの表情が変わりました
「やめてよお母さん そんなこと言うの」
「そうですよ 縁起でもない」
「お母さんずっと元気でいてね」
口々に言う二人
いけません また泣き出してしまいそうです
「ええ そうね」
本当に可愛い子ども達 大好きです
うふふ 面白いことを考えつきました
「祐一さん」
そして名雪 とこっそり心の中で付け加えて
「はい」
「愛しています」
「え」
「ええぇっ」
二人の顔が凍り付きました
「私は少し疲れているから もう休ませてもらいます おやすみなさい」
呆然としている二人を残して 早足で居間を出ていく私
廊下の端で立ち止まって 聞き耳を立てます
「ええと」
「祐一 どういうこと」
冷たい声の名雪
「え いや どういうことって 俺も何がなんだか」
「まさか祐一 お母さんとそんな関係だったの」
「ち 違う 待て名雪 何考えてるんだ」
くすくす 祐一さん声が震えています
「お母さん 綺麗だもんね」
「ああ そうだな いや違う 確かに綺麗だけど」
「スタイルもすごくいいし」
「そうだな だから違う いや違わないが」
「祐一 今朝お母さんを抱っこして部屋に運んでいたとき 本当に嬉しそうだったもんね」
「ギク」
「こうして話していたら どんどん怒りが湧いてきたよ」
名雪の声が加速度的に刺々しくなっていきます
「俺はもう寝る おやすみ名雪」
ガタンと席を立つ音
「逃がさないよ」
「待て名雪 話し合おう 人は分かり合えるはずだ」
「待てないよ」
ドゴ バギャ ごぁっ グワシャ ゴギァ 待て ガキッ ガキン 許し ズド ズド
くすくすくす
どうですか祐一さん これが秋子ブラックの恐ろしさですよ
でも 秋子ブラックは今日限りで引退です
明日からはまた あなた達の保護者の秋子です
おやすみなさい 名雪 祐一さん
愛の劇場『お茶目な秋子さん 黒い秋子さん編』 おしまい
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星牙でございます。
マキ「マネージャーの小原マキです」
タイトルからは想像も出来ないよーな、心温まる話ですな。
マキ「自分で言うでない」
うい。発表したときは『母の日スペシャル』と銘打っていたと言うのも懐かしい想い出だネ。
マキ「こっそり名雪女史の凶暴性が上がってきているのがそなたらしいな」
お読みいただきありがとうございました。
マキ「それでは、ご機嫌よう」
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