愛のコント劇場『お茶目な秋子さん 冬布団編』
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夜です
窓の外では 北風さんがひゅーひゅー鳴いています
そして私は
「さ〜む〜い〜」
ベッドの中で震えていました
寒い 寒いです
ああ こんなことなら 冬用のお布団をお昼の間にもう一枚出しておくべきでした
ふるふる ふるふる
ああん 寒い 寒いの
冬 人肌の恋しい季節 違います
ぶるぶるっ
はぁっ 寒いぃ
ストーブはまだ物置の中ですし 他の暖房機もありません
はぅ はぅ
あ くしゃみが出そうです
ふぁ
ふぁ
べっくしょ――――い! うぅーい
なんてくしゃみはしません
「はぷっ」
ふみゅ
寒い あああ 寒い 寒いです
寒いばかり言っていても仕方がありませんね
心頭滅却すれば火もまた涼し とも言いますし って涼しくなってどうするんですか 今は寒いんです
ああ そんなことを考えているうちに また寒くなってしまったような
ふるふる ふるふる
ああ 凍えそうです
温もりが欲しいです
人肌が恋し 違います
肉布団が げふん なんでもありません
贅沢は言いませんけれど ぜひ祐一さんのお身体を げふげんげふん
「はふん」
あ そうです 名雪の部屋にはエアコンがありましたよね
いま使っているでしょうから お部屋にお邪魔させてもらいましょう
そうと決まれば
………
………
あああっ 決まったのに お布団から出る勇気が出せません
ううっ 勇気 勇気を出すのよ秋子
まず 足先をお布団から出しましょう
ちょぃ
冷やッ
「ああーんっ」
間髪入れずに足先を引っ込めました
寒い 寒いの
ああ でも お布団から出なければ 名雪の部屋には行けませんし
ううー
耐えるのよ秋子 これは試練です 行くしかありません
すぅ はぁ ふぅ はぁ 深呼吸して精神統一
根性 根性 根性よ
「てぃっ」
気合いの声と共に がばっと布団から跳ね起きました
ビキッ
「ひぅっ」
ああああああっ 寒いぃっ
体中が締め付けられているみたいです
早く名雪の部屋に行かないと 死んじゃいます
カーディガンを羽織って 扉を開けました
ひんやり
「んきゅっ」
またギシッと体が引き締められました
まっ暗な廊下の奥は 見るからに寒々としています
ふるふる ふるふる
ああ 寒いです
でも部屋に戻っても 同じ事です
何故なら 道は前にしか拓(ひら)かれないんですから あ 今のちょっといい言葉ですね
がんばるのよ秋子
「ふぁいとっ ですっ」
てし てし 板敷きの床の冷たさが伝わらないように つま先歩きで進みます
ギシ ギシ 一歩ずつ階段を上ります
はぅ はぅ
寒い 寒いの
ああ 早く温もりを
肉布団 だから違います
名雪の部屋の前に着きました
はぁ よかったです
では お邪魔しましょうか
ガチャ
「あら」
開きません 鍵がかかっています
って ちょっと待って下さい
ああ 名雪 いつから部屋に鍵をかけるような女の子になってしまったの
開けて 開けてぇぇ
名雪の寝付きの良さは筋金入りですから 部屋の外で騒いでも 起きてきてくれるとは思えません
ぶるぶるっ
はぅんっ さ 寒い
ああ またあの冷たい廊下を通って帰らないといけないんですね
「ふみゅう」
しょんぼりです
がっかりして ふと顔を上げると 祐一さんのお部屋が眼に入りました
「……」
祐一さん 暖房を点けていらっしゃるんでしょうか
そっと近付いて ドアノブに手を掛けました
カチャ 開きました
部屋の中は ぽかぽかと暖かい空気に満たされています
「ああん」
ふらふらと部屋の中に入り 扉を閉めました
ああ あったかいです
「ぐー」
祐一さんはぐっすりと寝込んでいます
お布団の中は とっても暖かそうです
「……」
あっ
体が勝手に 布団に引き寄せられて
体が勝手に 布団の端を持ち上げて
体が勝手に 布団の中に滑り込んで
「ほふぅ」
ああ やっぱりあたたかいです
って 何をしているんですか私は
これでは まるで
そ その
よ よ よば 夜這いに 来たみたいで
はふん
「ぐー ぐー」
祐一さんはなんにも気付かずに眠っています
なんだか失礼なことをされているような気がするんですけれど 思い過ごしでしょうか
「……」
まあ それはそれとして これからどうしましょうか
やっぱりいけませんよね こんなこと
でも今さらこのお布団の中から出ていく根性はありません
ましてやあの冷たい廊下に戻るなんて絶対にイヤです
でも祐一さんと同衾してしまうというのも問題がありますし
うーん うーん
いいですよね 別に 添い寝するぐらい (あっさり)
祐一さんは気付いていませんし 何より寒いですし
決まりました
「よいしょ」
もそもそ 祐一さんの邪魔にならないように 手足を丸めました
はぁ あったかい
くんくん お布団の中は祐一さんの匂いがします
なんだか懐かしいような 不思議な感じです
自然と躰の奥が疼くような 違います
「はふん」
もがもがと布団の中で身悶えする私
でもこれで ようやく落ち着いて眠れそうです
では おやすみなさい
「……すぅ すぅ」
・
・
チュンチュン チチチ スズメさんが鳴いています
「………ぅん」
眼を覚ますと ちょうどいつもの時間でした
「ぐー」
祐一さんはまだ寝ています
気付かれる前に部屋に戻っておきましょう
こっそりとお布団から抜け出しました
「ありがとうございました祐一さん これはほんのお礼です」
祐一さんの寝顔に顔を近付けて
チュッ
「うふふ♪」
・
・
【その夜】
「ふわわ〜」
お風呂上がりにテレビを観ていた名雪が あくびをしました
「わたしもう寝るよ おやすみお母さん」
「お休みなさい名雪」
名雪がそう言うと 祐一さんも立ち上がりました
「じゃあ俺も寝ます おやすみなさい秋子さん」
「おやすみなさい祐一さん」
名雪も祐一さんも二階に上がってしまったので 私も部屋に戻ることにしましょう
お昼のうちにお布団を出しておいたので 今日は昨日の夜みたいなことをしなくても大丈夫です
・
・
「名雪」
「なあに祐一」
「今夜はいいだろ」
「えっ…(ぽっ)…うん」
「よし」
がばっ
「あん」
「名雪…」
ごそごそ
「あっ はっ 祐一っ」
ごそごそ ちゅっちゅっ
「んっ あっ あ ああん」
「俺の部屋でいいか」
「…うん」
ガチャ
「名雪っ」
がばっ
「あんっ」
もそもそ
「はあ はあ ゆ 祐一 祐一っ」
どさっ
「あんっ」
「名雪…」
「祐一… あ あっ」
もそもそ
「はんっ んっ あっ あんっ あんっ」
わさわさ わさわさ
「はぁっ あっ あぁんっ ん ぅんっ」
「名雪」
「はっ あんっ ああん あん ……ん?」
ふんふん
「どうした 鼻なんか鳴らして」
「…お母さんの匂いがする」
「え?」
ふんふんふん くんくんくん
「…シーツからお母さんの匂いがする」
「え え」
ユラリ
「祐一 どういうこと」
「な 何がだ」
ゴゴゴゴ(←空気が震えている)
「とぼけないでよ なんでシーツにお母さんの匂いが染み込んでるの」
「い いや 俺もさっぱり」
「昨日はわたし 早く寝ちゃったけど 祐一 お母さんと何してたの」
「な 何もしてない」
パリパリパリ(←放電現象)
「白々しいよ祐一 何もしてなかったらどうしてお母さんの匂いがするの」
「本当に知らないんだって 信じてくれ」
「祐一 正直に話した方がいいよ」
「知らないんだっての」
ジジジジジ(←空気がプラズマ化している)
「どうやってお母さんを抱いたの」
「抱いてない」
「きっとお母さんとわたしを比較したりしたんだね」
「してない」
「お母さん綺麗だし おっぱいもお尻も大きいし」
「ああ そうだな ってそうじゃないな」
「わたしと違って スンゴイことをいっぱい知っていそうだし」
「ああ そうかもな ってだから違う」
「ううううううう なんだかどんどん むかむかしてきたよ」
「お 落ち着け名雪 だから誤解だ」
「誤解も六階も猪八戒もないよ」
「いや だから 待っ」
「名雪スペシャル!!」
ゴギュッ ズドゴォン!!
・
・
…ううん なんの騒ぎでしょうか
ご近所に迷惑ですから 夜は静かにしましょう… すぅ すぅ
愛のコント劇場『お茶目な秋子さん 冬布団編』 おしまい
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星牙でございます。
マキ「マネージャーの小原マキです」
ちょっと時期が遅かったかな。
マキ「うむ」
いま思い付いたんだけど、タイトルを『肉布団編』とかにすると、スンゴイ内容が期待できそうですな。
マキ「するなぁぁっ!」
お読みいただきありがとうございました。
マキ「それでは、ご機嫌よう」
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