愛のコント劇場『お茶目な秋子さん 母の怒り編』

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「ただ今帰りました」

 あら 返事がありません どうしたんでしょう

 居間の方へ近付くと 名雪と祐一さんの声が聞こえてきました

 最近ますます仲良くなっている二人

 うふふ 何を話しているのか こっそり聞いてみましょう

「堕ろせよ名雪」

 え゛ ちょっと いきなり なんなんですか

「いや 祐一どうしてそんなこと言うの」

 名雪の声は 少し泣き声です

「わたし 祐一のために 一生懸命やったんだよ」

「それなのに 堕ろせなんて」

 お お 堕ろすって まさか

「とにかく 堕ろせ」

 あなたたち まさか 子どもが

 名雪が 妊娠 妊娠 にんしん

 にんじん わたし 人参食べられるよ ってそうじゃありません

 にしん 鯡(にしんと読みます)が八 一匹でも二四んが八 なんなんですかこれは

 ええと なんの話だったかしら

 ああ そうそう 妊娠

 妊娠 お赤飯を炊かなくっちゃ だから違いますってば

「ひどいよ祐一 わたしの気持ち ちっともわかってくれてない」

「お前こそ 子どもじゃないんだから 我が侭言うな」

「子どもだもん」

 やっぱり 子どもなんですね

 名雪に子どもが出来たと言うことは 私はお婆ちゃんになるんですね

 二年後 近所の公園

『お父さん お母さん』

『どうしたの 祐名(←勝手に命名)』

『ほら 見て見て なまけものさんだよ なまけものさん』

『ははは 本当だ』

『祐一さん 名雪』

『あっ ほら祐名 お婆ちゃんが迎えに来たよ』

『え どこどこ あ お婆ちゃーん』

『お婆ちゃーん』

       『お婆ちゃーん』

              『お婆ちゃーん』

                     『お婆ちゃーん』

                            『お婆ちゃーん』 (←エコー)

 ああああああああ

 わ 私は お婆さんて言われるのね

 あああ どうして こんなに哀しいの

 しくしく 涙が止まりません

 一人 廊下で泣き伏す 私

 でも 仕方がありませんよね

 二人に子どもが出来れば 私は 必然的にお婆さん

 《ズキン》 下腹部に激痛が走りました

 ぐっ お婆さんて単語が こんなに痛いなんて

 耐えるのよ 秋子

 新たな命を祝福してあげなくちゃ

 お婆さんなんて あっ痛 言われたって平気 痛 痛た

 はぁ はぁ がんばらなくちゃ

 居間では まだ二人が話をしています

「名雪 絶対に嫌なのか」

「いや」

「そうか 仕方ない」

 どさっ

「あ 祐一何するの やめて」

「嫌だって言うんだったら 俺が堕ろしてやる」

「あ あ 祐一 いや」

 ばたん ばたん 弱々しく暴れる音

「すぐ終わるから 大人しくしていろ」

「いや 祐一 やめて」

 祐一さん なんてことを 器材もないのに (←?)

「ああ いや いやあ あ ああ」

「静かにしていろ名雪 もう少しだ」

「きゃあぁー 誰か 誰か 助けてー」

「うるさい 黙らせてやる」

「むぐ んーんー」

 ばたん ばたん

「んんーっ んーっ」

 ドキドキドキ

 はっ 聞いている場合じゃありませんでした

 祐一さん あなたという人は

 この私が 血の吐く想いをして 覚悟を決めたというのに

 許せません

 がちゃっ

「お待ちなさい祐一さん そこまでです」

 見ると祐一さんは 名雪に馬乗りになっていました

「はっ 秋子さん」

「ぷはっ あ お母さん お帰りなさい」

「ただいま名雪 ってそうじゃありません」

 名雪の服は乱れ 髪もくしゃくしゃです

「祐一さん 母として女として あなたを許すわけにはいきません」

「え」

「お母さん やっぱりお母さんなら わたしの気持ちわかってくれるよね」

「ええ名雪 私はあなたの味方です」

「祐一さん 命を弄ぶあなたの性根を 叩き直してあげます」

「命って 秋子さん そんな大袈裟な」

「祐一わかってないよ 髪は女の命綱なんだよ」

「ええ その通りです え゛ 髪って」

「うん 髪 髭じゃないよ」  

 ええと

「髪って えっと あの 名雪ちゃん」

「わたし 祐一に喜んでほしくて 髪を三つ編みに編んだの」

「でも 祐一喜んでくれなくて 怒って」

「髪 下ろせって」

「すごく時間 かかったのに」

「ひどいよ 祐一」

「お前な 秋子さんの振りして あのジャム食わそうとしたじゃねえか」

「小粋なジョークだよ」

「洒落にならんだろ」

 えっと えっと

 もしかして もしかしなくても 私の勘違いなの

 ああん どうしましょう

「祐一の意地悪」

「お前な」

「ああ 助けて お母さん」

 あ そうです 良い事を思い付きました

「ええ名雪 ここはお母さんに任せておいて」

 祐一さん あなたはこの場を納めるための 生け贄になって下さい

「さあ 祐一さん 覚悟はよろしいですか」

「ちょっと待って下さい秋子さん 何か誤魔化そうとしていませんか」

 まあ祐一さん 勘が鋭いですね

 でも

「いいえ 何も誤魔化そうとしてなんかいませんよ」

「本当ですか秋子さん 俺の眼を見て言って下さい」

 祐一さん 口数が多いと早死にしますよ

「本当です」

「どこを向いてるんですか 秋子さん」

 黙っていて下さい

「えい」

 ズギャ

「ぐふ」

 ・
 ・

 悪は滅びました

「ありがとう お母さん」

「どういたしまして」

 あ そうだ

「名雪」

「なあに」

「子どもを作るときは よく考えてね」 

「え やだ お母さん わたしと祐一は まだ そんなんじゃないよ」

 真っ赤になって言っても 説得力がありませんよ

「ゆっくり よく考えて 思いっきり考えて」

「なんでそんなに 噛んで含めるように言うの」

 ギク

「た た た 大切なことだからよ 名雪ちゃん」

「お母さん 何かあったの」

「何もありません」 

「本当」

「本当です」

「でも 今日のお母さん ちょっと変」

「気のせいです」


                               愛のコント劇場『お茶目な秋子さん 母の怒り編』 おしまい

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 星牙でございます。
マキ「マネージャーの小原マキです」

 『完全無欠のお母さん』とゆー秋子さんのイメージをガラガラと突き崩していく『お茶目な秋子さん』第二弾です。
マキ「これ以後のことを思えばこんな程度、崩しているうちに入らないというのが恐ろしき事実じゃ」
 うん、そうだね。まあ書いていたころは、まさかそんなことになるとは露ほども思っていなかったヨ。
マキ「ヨじゃない」

 お読みいただきありがとうございました。
マキそれでは、ご機嫌よう」


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