愛のコント劇場『お茶目な秋子さん ケーキの食べ方編』

 ※ 今回の秋子さんはいつもに増してどえらい性格になっています。
 ※ 副題 『凶暴な名雪ちゃん』

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「ただいま帰りました」

 なぁんて言ってみましたけど 誰も居ないのは分かっています

 祐一さんと名雪はまだ学校に行っているはずですからね

「うふふふ」

 自然と頬が緩んでしまいます

 だってだって今日は一週間に一回の特別な日

「ケーキさん大集合の日〜♪」

 うふふふ いい歳してケーキが大好きだなんて少し恥ずかしいですけれど

 でもでも 好きなものは好きなんです

 テーブルの上にケーキさん達の入った箱を置いて 軽い足取りで洗面所に向かいます

「らららら ららら〜♪」

 歌なんて歌ってしまいますよ

 手と顔を洗ってから 室内着に着替えてと

 うふふ こうやって自分を焦らして ケーキさん達をうんと美味しくいただくんです

「はぁい お待たせ〜」

 お紅茶の準備をしてテーブルに座りました

「お披露目〜 ぱちぱちぱち」

 ぱかっと箱を開けて中身の確認です

 ケーキさん達が綺麗に並んでいます

「よかったぁ みんな無事で」

 こうやって開けたとき もしケーキさん達がぐしゃってなっていたらとっても哀しくなります

 そんなふうになっているかもって思っただけでも 胸がきゅうってなってしまいます

 さあ どれからいただきましょうか

 レアチーズさん いちごショートちゃん モンブラン君 ショコラちゃん ティラミスさん

 ああん どれもとっても美味しそう

 こういう時って すっごく悩んでしまいます

「ど れ に し よ う か な ♪」

 つい指で選んでしまいそうになってしまいます

 でもでも 気を付けなくちゃいけません

 ずっと前に悩んだとき 目をつぶって指で『これっ』って差したんです

 そうしたらケーキさんにずぶってなってしまって すっごくしょんぼりしてしまったことがあるんです

 もうあんな思いはしたくありませんから

 こんなふうに迷ったときには なんでもいいから好きな決め方で決めてしまいましょう

 じゃあ じゃあ ええと ええと

「あ そうだ♪」

 目をつぶって開いて それで最初に見えたケーキさんを頂きましょう

 いったん目を閉じて

「んっ えいっ」

 ぱっと目を開けました

 ケーキさん達 全部が見えてしまいました

「ああん だめ〜」

 ああん どうしてこんなに私を悩ませるの

 いつまでも見ていろって言うんですか

 でもでも 見ているだけのお預けなんて哀しすぎます

「ううんと ううんと あ そうです」

 ケーキさん達をじぃっと見つめて 私に語り掛けてきてくれるのを待ちましょう

「じ――」

 ケーキさん達をじっと見つめます

「じ―――」

 見つめ合う瞳と瞳〜♪ なんて考えている場合じゃありません

「あ」

 今 モンブラン君が私を呼んだような

「モンブラン君 あなたが最初でいい?」

 念のため 訊ね直して確かめます

 あ いいって

「じゃあ最初は モンブランく〜ん♪」

 箱からモンブラン君を取り出して お皿に移しました

 スプーンを手にとってと 私はケーキさんはスプーンで食べる派です

「いっただっきまぁ〜す♪」

 さく スプーンをモンブラン君の身体に差し込みます

 ごめんねぇモンブラン君 あなたの分も一生懸命に生きるからね

 スプーンいっぱいに乗せて

「あーん」

 ぱく

「んんっ おっいしぃ〜」

 ああ 幸せ〜

 ぱくぱく さらに二口食べて少しのどが渇いてきました

「紅茶ちゃ〜ん」

 ポットを煎れた紅茶ちゃんを呼んで手元に持ってきます

 ティカップに注いで いただきます

「んん〜♪」

 香りを楽しんでから のどを潤します

「はぁっ」

 もう幸せでいっぱいです

 ぱくぱく ぱくぱく

「ごちそうさまでした〜 それじゃあ次は」

 またケーキさん達を見つめて 語り掛けてきてくれるのを待ちます

 あ 今度は早かったね

「いちごショートちゃん♪」

 いちごショートちゃんをお皿に移します

 でもでも 実はいちごショートちゃんは手強いんです

 油断してぱくぱく食べていると 突然『ぱた』って倒れてしまうんです

 もうそうなってしまうと しょんぼりでしゅーんってなってしまいます

 いちごショートちゃんを美味しく食べるのには 実はあるコツがあるんです

 うふふ 私は知っているんですよ

 それは

「秋子のいちごショートちゃんの食べ方教室〜♪」

 細い方から食べていって 残りが小さくなくなってきたら 倒れる前に一口で食べちゃうんです

 あ 今 『それだけかよ』って思いましたね

 でも 案外難しいんですよ 本当ですよ

 じゃあ 私がお手本を見せて上げます

 ぱくぱく ぱくぱく

 最後の一口で食べる見切りが難しいんです

 ぱく もう少し

 ぱく もう少し

 ぱく ぱたっ

「ああ――んっ」

 ぐすん 失敗しちゃいました お皿に生クリームが付いてしまってしょんぼりです

「はあ」

 あ だめよ秋子 落ち込んでいては

 落ち込んでいたら ケーキさん達を美味しくいただけないもの

 そんなことになったら ケーキさん達に対しても失礼だもの

「うん 秋子 ふぁいとっ」

 小さくガッツポーズをして 自分を励まします

 じゃあ気を取り直して 語り掛けてくれるのを待ちましょう

 あ また早かったね

「次はレアチーズさん ごあんな〜い♪」

 レアチーズさんをお皿に移しました

 レアチーズさんも ちょっとした技が必要なんです

「秋子のレアチーズさんの食べ方教室〜♪」

「秋子さん 何をしてるんですか」

「きゃあぁ―――――っっ!」

「うわっ」

 ああああ どうして どうして 祐一さんがドアから顔を出すんですか

「ゆ ゆ ゆう 祐一さん どうして どうしてぇ」

 あああああああ 頭の中がぐるぐるで何も考えられません

「どどど どうして祐一さんが今家に居るんですか」

「今日は半ドンです」

 あああ そんな そんな じゃあ

「もしかして祐一さん ずっと上にいたんですか」

「はい」

「じゃあ ずっと聞いていたんですか」

「えっと」

 祐一さんは困ったように眼を逸らしました

「俺 何も聞いてないです」

 ああん そんな反応でそんな答え 白々しすぎですよぅ

 ああ 私の秘密を知られてしまいました どうすればいいんでしょうか

「ただいまぁ」

 あら 名雪

「あれどうしたの 祐一 お母さん」

「いやぁ それがな」

 あ 祐一さん 意地悪な顔です

 話してしまうつもりなんですね 私の秘密を

「いや やめて下さい祐一さん」

「え」

 私は祐一さんの腕にすがり付きました

「私何でもします ですからお願いです 名雪には言わないで秘密にして下さい」

 祐一さんは面白そうに笑って

「どうしましょうかねえ」

 ああ そんなひどいです

「う えぅっ ひぅっ ひ ひどい」

「わっ 泣くほどのことですか」

 ぽろぽろと涙がこぼれ出しました

「う うぅ 祐一さんの 祐一さんの ばかぁっ」

 タタタタタ 私は居間を後にして 自室に駆け戻りました

「あ ちょ ちょっと 冗談ですよ秋子さん 秋子さーん」

 ズ――――ン (←空気が重くなった)

「う」

「祐一 秘密ってなに」

「え いやそんな秘密って程のことじゃないぞ」

「お母さんを泣かせたね」

「え」

「いくら祐一でも許せないよ」

「待て名雪 違う」

「天誅だよ お母さんの仇だよ」

「話を聞いてくれ って言うか秋子さん死んでないぞ」

「悪党の話に傾ける耳はないんだよ」

 ビシッ バスッ ガスッ ちょ ドカッ バキャ 待って ゴツッ ガツッ 許し バキ ボキ ボキ

 ・
 ・

「ぐすん ぐすん」

 きっと今頃二人は私のことを笑いながらケーキさん達を食べているんでしょうね

 居間の方から凄惨な物音が聞こえましたが気のせいでしょう

「ああ さようなら レアチーズさん ショコラちゃん ティラミスさん」



                           愛のコント劇場『お茶目な秋子さん ケーキの食べ方編』 おしまい

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 星牙でございます。
マキ「マネージャーの小原マキです」

 秋子さんの性格が井○喜久子女史に酷似している(って言うかそのまんま)とゆーのは、君とボクだけの秘密だ。
マキ「秘密だ、じゃない」
 むい。…口調まで秋子さんから離れているような気がするのも、名雪女史の凶暴性が加速度的に上がってきているのも、君とボクだけの(以下略)。

 お読みいただきありがとうございました。
マキ「それでは、ご機嫌よう」


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