愛のコント劇場『お茶目な秋子さんR 秋子はん編』

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『あさ〜 あさだよ〜』
 カチ
「うーん」
 目覚ましを止めてから、俺は大きく伸びをして身体を起こした。
「…あ」
 しまった、今日は日曜じゃないか。昨日の夜、ついいつもの癖で目覚ましをセットしてしまった。
「まあ、いいか」
 せっかく起きたのに寝直すのも惜しいので、起きることにした。

 着替えて一階に下りると、居間で秋子さんが新聞を読んでいた。
「おはようございます、秋子さん」
 朝の挨拶をする俺。秋子さんは顔を上げて微笑み、
「おはようございます」
 挨拶を返す秋子さん。
 ……? なんか今、妙な違和感があった。
(……)
 ソファに座って微笑んでいる秋子さんを観察してみたが、別に普段と変わったところはない。
(…気のせいか)
 釈然としないまま、もう一度話し掛ける。
「秋子さん、朝ご飯お願いします」
「はい」
 …まただ。なんだ、この違和感は?

 キッチンに向かおうとする秋子さんを呼び止めた。
「あの、秋子さん」
 秋子さんはいつも通りの微笑みで、
「はい。なんですか祐一はん」

 ガ―――ン

「……くっ」
 俺はふらつく全身を叱咤し、倒れないように脚に力を込めた。
 …分かったぞ、違和感の正体が。
(…秋子さんの喋り方が、関西言葉になっている!!)
 とは言え、文字上で分かるわけはないが。

 大袈裟に驚いてはみたが、別に秋子さんの喋り方がどんなになっていても困りはしない。原因は不明だが、まあ秋子さんだし。と言うわけで俺は気にしないことにした。
「どないしたんですか、祐一はん」
 ………。
「いえ、なんでもないです」
 気にしないことにしてみたものの、やはりなんか変な感じだった。

 朝飯を食べ、ソファに腰掛けて新聞を読んでいると、洗い物を終えた秋子さんが戻ってきた。
「祐一はん、今日のご予定はどないなっとるんですか?」
「特に予定はないです」
「そうですか」
 文字上では分かるわけがないが、イントネーションが関西風味だ。
「秋子さんは、今日はどうするんですか」
「うちも今日は家におるつもりですけど」
 うちと来たか。

 秋子さんは窓から外を眺めている。
「ええ天気…。今日も暑うなるんやろなあ」
 関西言葉特有ののんびりと穏やかな言い方で話す秋子さん。
「…」
 なんと言うか、秋子さんが普段持っているバリアみたいな物が無くなっているような気がする。
 横顔を見つめていると、唐突に不思議な艶っぽさを感じた。
「……ゴク」
 立ち上がった俺はふらふらと秋子さんに近付いた。

「祐一はん?」
 俺の気配に気付いた秋子さんが、振り向いて無邪気に微笑んだ。俺は黙って秋子さんの頬に手を伸ばし、
「……」
 むにっとつまんでみる。秋子さんのほっぺたはふんわり柔らかで、すべすべしていた。
「ぁん」
 秋子さんは少し驚いたようだが、すぐに微笑んで、
「もう、祐一はんたら。おいたしたらあかんよ」
 つん、と人差し指で俺の額をつついた。
「くぉっ…」
 もうだめだ。

「秋子さんっ!」
 がばっ! 俺は秋子さんを抱き締めた。
「あっ。ゆ、祐一はん?」
 秋子さんは今度こそ本当に驚き、俺の腕の中で身悶えた。俺は腕に力を込め、さらに強く秋子さんを抱き締める。
「あ、あ…、あかん、あかんよ」
 怯えたように声を震わせる秋子さん。秋子さんの身体の柔らかさと温もりと一緒に、鼓動が伝わってくる。
「秋子さん…!」
 どさ 俺は絨毯の上に秋子さんを押し倒した。
「はぁっ。ああ、あかんって言うてるのに…」
 弱々しく呟く秋子さん。

 羽織ったカーディガンからほのかに香る秋子さんの匂いに、俺は目眩がしそうになった。
「あかんよ、こないなこと…。うちと祐一はんは、甥と叔母やないの」
 いさめる内容でも、今の俺には誘う言葉にしか聞こえない。
「秋子さんっ、俺もう…!」
「あっ、待って、待ってぇな祐一はん」
 弱々しく震える秋子さん。
「ああ〜、かんにん、かんにんや〜」
 俺は秋子さんの胸元に手を伸ばした。

「何してるの」
 ビグゥッ!
「う、あ…」
 恐る恐る振り向くと、そこには憤怒の表情で仁王立ちしている名雪女史のお姿があった。(←混乱している)
「…な、なにって…。別に何もしてないぞ」
「じゃあ、何をしようとしてたの」
「うっ」
 普段の名雪からは考えられないほど鋭い突っ込みだ。

 名雪から凄まじい重圧が感じられる。
「祐一、ちょっと話があるんだよ。表に出て」
「え、いや俺は忙しいし」
 ズ――――ンと重圧が増した。
「表に出て」
「はひ」
 思わず俺は頷いていた。

「……」
 名雪と一緒に部屋を出ていく祐一さんの背中が、なんだか小さく見えます。
 バタン 玄関の扉が閉められ、声が聞こえなくなりました。
 …どうしてこうなってしまったのかしら。
 最初はただ、いつもと違う話し方で祐一さんをからかっちゃおうかななんて思って喋っていただけだったのに、祐一さんたらいつまでたっても突っ込んでくれなくて、それどころか変なところに突っ込んでくれそうに…って、いやです、わたしったらはしたない。
「……」
 でも、惜しかったです…って、そうじゃありませんよぅ。
「もう、いやんいやん」

 一人居間でふるふると身体をくねらせる秋子さん。
 あの、あなたがそんなことをしている間に表で、

 ドゴッ バゴン げぉっ ズガン ドン ドドン ぐぁ バグッ バグッ ぎゃ ゴギァ グシャアッ

 凄惨な音に混ざって祐一君の声が切れ切れに聞こえました。

 ガチャ 名雪ちゃんが居間に入ってきて、
「大変、祐一が車に轢かれちゃったよ」 
 なんだか白々しいことを言っています。
「あん。いややわ、祐一はん。うちそないに軽い女とちゃうんよ。…あぁ、あかんて言うてるのにぃ」
 妄想に耽っている秋子さん。

 水瀬邸正面道路。血溜まりに伏す祐一君。
「……俺、このまま死ぬのか…」
 そうかも。

                             愛のコント劇場 『お茶目な秋子さんR 秋子はん編』 おしまい

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 星牙でございます。
マキ「マネージャーの小原マキです」

 祐一視点での『お茶目な秋子さん』がこの『R』です。15禁の意味じゃないです。
マキ「そなたの場合、本気で15禁ぐらい描きかねないからな」
 大丈夫、小生は描くときは15禁なんて半端な真似はしない。やるなら18禁、20禁! 目指せ発禁レベル!
マキ「目指すなぁぁっ!」

 お読みいただきありがとうございました。
マキ「それではご機嫌よう」


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