愛の劇場 『浦島太郎』

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 【第一幕】

 昔むかし、あるところに浦島太郎という名前の猟師がいました。太郎は毎日、山に入って獣を獲り…。
祐一「違うだろ!」
 もとい、漁師がいました。舟で沖に出て、魚を捕って暮らしていました。

 ある日の夕方、一仕事終えた太郎は、家に帰ろうと砂浜を歩いていました。
祐一「ん?」
 ふと足元を見ると、一匹の亀が砂浜に埋められていました。
秋子「どうも、祐一さん」
 こける太郎。

 太郎は顔に付いた砂粒を払いながら立ち上がりました。
祐一「…この際、秋子さんが亀役なのはいいとして、なんで埋まっているんですか?」
 亀は砂に埋まっていた腕をもそりと動かし、ほほに手を当てて、
秋子「ええ。それが、私をいじめる役はイヤだと、皆さんがおっしゃいまして…」
祐一「なるほど」
 深く納得する太郎。
秋子「仕方がないので、こうして砂に埋まって祐一さんをお待ちしていました」
 亀はにっこり微笑み、
秋子「そういうことですから、早く私を砂から掘り出して、助けて下さい」
祐一「はぁ…。分かりました」
 太郎は亀を掘り起こし始めました。

 しかし、太郎は何やら怖ず怖ずとした手つきで砂を掘っていくので、なかなか作業が終わりません。
秋子「どうかしたんですか、祐一さん」
祐一「い、いえ。別に…」
 さくっ。
秋子「あんっ」
 ビクリと手を引っ込める太郎。
祐一「……」
秋子「…うふふ。どうぞ、続けて下さい」
祐一「は、はあ」
 さく、さく。
秋子「あっ…、ああっ」
 太郎が指を動かすたびに、亀は悩ましげな悲鳴を上げています。
祐一「秋子さん、変な声出さないで下さいよ!」
 亀はにっこり微笑み、
秋子「自然に出てしまうんですよ。気にしないで続けて下さ…あぁんっ」
祐一「ぐおお」

 ようやく亀の肌が見え始めました。
祐一「はぁ、はぁ。…もう立ち上がれるでしょう」
 やけに疲れた様子の太郎。
秋子「そうですね」
 ざっ。亀は微笑んで体を起こしました。

祐一「うわ!」
 眼を見開く太郎。
 砂から起き上がった亀は、全裸に荒縄を巻き付けた格好でした。縄の縛り方は、六角形が組み合わさった…。
祐一「ウソつくなぁっ! ただの水着姿だろうがっ!」
 冗句です。大人しめなデザインの、白のワンピースです。でも太郎は興奮しています。
祐一「………」
 ふっくらと柔らかそうに盛り上がった胸元に、太郎の視線は釘付けです。

秋子「うふふ。祐一さん」
祐一「は、はい?」
 亀は太郎の顔を覗き込むように見つめ、
秋子「祐一さんが見たいとおっしゃるんでしたら、私は構いませんよ?」
祐一「何をですか?」
 亀はほほを赤らめて、太郎の耳元に唇を寄せ、
秋子「ふぅっ……」
 息を吹きかけました。
祐一「うわ! なっ、何するんですかっ!」
 驚いて身を退く太郎。亀はほほに手を当てて微笑みながら、
秋子「すみません、つい…」
祐一「ついじゃないでしょう。それで、なんなんですか」
秋子「ですから…荒縄を………(ぽ)」
 亀は恥ずかしそうに体をくねらせ、目線を逸らしました。
祐一「……えっ、ええっ!? …ガフッ〈喀血〉!」
 想像し、血を吹き出す太郎。

祐一「……ゴホッ、ゴホッ…。あ、秋子さん、話を進めましょう」
秋子「そうですね」
 亀は微笑むと、ゆったりとした動作で仰向けに寝そべりました。
秋子「では、竜宮城にご案内します。私の上に乗って下さい。……祐一さん?」
 太郎はこけていました。

祐一「………。秋子さんに乗れって言うんですか」
 砂浜に突っ伏したまま声を絞り出す太郎。
秋子「ええ。さ、どうぞ」
祐一「………」
 大人しめのデザインの水着とは言え、メリハリの利いたボディの美女が着込んでいれば、悩殺力はかなりの物です。しかもその人が仰向けに寝転がって『乗って下さい』などとゆーのは、ある意味犯罪です。
祐一「うううう」
 懊悩(おうのう)する太郎。

祐一「……」
 太郎は仰向けになっている亀の肢体に目をやりました。
 仰向けになっても型くずれしていない、豊かな乳房が上を向いています。
祐一「…ゴク」
 腰はスッと細く、地面に着いているお尻はプニッと柔らかそうに形を変えています。
祐一「……はぁ、はぁ」
 太郎の息が荒くなり始めました。

秋子「どうかなさったんですか?」
 亀が邪気のない顔で訊ねました。
祐一「……。あ、秋子さん、すいませんけど、せめてうつ伏せになってくれませんか?」
秋子「嫌です」
 にっこり微笑みながら、即答する亀。
祐一「嫌ですって言われても…。そうだ、俺が下になりますよ」
秋子「駄目です」
 また即答する亀。
祐一「………で、でも…」
 うろたえる太郎。
秋子「遠慮なさらずに、どうぞ」
 亀は首を傾げ、無防備な格好でもう一度言いました。

祐一「ううっ…。すいません、本当に頼みます。うつ伏せになって下さい」
 尊厳も誇りも捨て、本気で懇願する太郎。
秋子「………ぶぅ」
 亀は残念そうな顔で、体を転がしてうつ伏せになりました。
祐一「すいません。じゃあ、乗ります」
秋子「はい」
 太郎は恐る恐る亀の細い体にまたがりました。
秋子「んっ…あぁん」
祐一「変な声出さないで下さい!」

 太郎を乗せた亀は、しばらく動きません。
祐一「秋子さん? どうかしたんですか」
秋子「…え? …あ、いえ…。こんなふうに組み伏せられるのも、素敵だなって思って…」
 首を傾げて、やけに潤んだ瞳で太郎を見つめ返す亀。
祐一「もういいですから、早く竜宮城に運んで下さい!」
秋子「はいはい」
 亀は太郎を乗せたまましずしずと海に入りました。


 【第二幕】

 亀の背中で揺られ、しばらく海の中を進んでいくと、豪華できらびやかな宮殿が見えてきました。
祐一「あれが竜宮城ですか」
秋子「……はい」
 亀は沈んだ声で答えました。

 亀がゆっくりと門に入り、太郎は竜宮城に到着しました。
祐一「すごいな、ここは」
 太郎がお上りさんのように豪華な内装に眼を奪われていると、紗(うすぎぬ)を巻いただけの格好をした竜宮城の女性達がぞろぞろと現れました。
 「ようこそ竜宮城へいらっしゃいましたぁ〜」
 「お待ちしておりました〜。ささ、どうぞこちらへ〜」
 「お客様一名、ご案内〜」
祐一「あっ、ちょっと…」
 太郎は引きずられるように奥の間に連れて行かれました。
秋子「……しゅん」
 亀はしょんぼりとその光景を見つめていました。

 大広間に連れてこられた太郎は、乙姫と名乗る派手な女性の接待を受けていました。
乙姫「ようこそいらっしゃいました。お好きなだけ、ご滞在なさって下さいませ」
祐一「はぁ」
乙姫「さあさあ、皆のもの。宴の用意をしなさい」
 すぐに豪華な料理とお酒が用意され、宴が始まりました。

 ・
 ・

 テケテケテンテンテンテンテン、テケテケテンテンテンテンテン♪
 音楽に合わせて、舞台の上では何人もの少女が、身にまとっていた紗を脱ぎ捨てていきます。
乙姫「さあ太郎様、どんどんお呑みになって下さいませね」
祐一「え、いえ。俺は、酒はちょっと…」
 落ち着かない雰囲気に気圧されている太郎。
乙姫「…お疲れでしたら、すぐに寝所の用意をさせますわ。お目当ての娘もご一緒に……」
 乙姫はニヤリと唇を歪めて言いました。
祐一「い、いえ。結構です」

 あまりに毒々しい雰囲気に気分の悪くなった太郎は、さっさと休むことにしました。
祐一「あの、俺疲れてるんで、もう休ませてもらえませんか」
乙姫「分かりました。では、こちらです」
 乙姫に引きずられるように、太郎は奥の寝所に連れて行かれました。
乙姫「さ、どうぞ」
 言いながら、乙姫も部屋に入りました。

祐一「ありがとうございました。じゃあ」
 お辞儀をした太郎の手を、乙姫がつかみました。
祐一「ちょ、ちょっと…?」
乙姫「ウフフフフ……」
 禍々しい色気を放ちながら、乙姫は羽織っていた単衣を脱ぎ去りました。
祐一「うわ! ま、待って下さい!」
乙姫「いやよ、わたしは待つのは嫌い……」
 言うが早いか、白襦袢姿になった乙姫は太郎を押し倒しました。

乙姫「ふふふふ…男の匂い……」
 乙姫は太郎にのし掛かり、下帯に手を掛けました。
祐一「クッ……、待った! 俺は、こういうのは嫌いなんですよっ!」
乙姫「きゃあっ」
 太郎は身をよじり、乙姫の下から抜け出しました。

乙姫「なによ、焦れったいわね! なに意地になってるのよ!」
 本性を現した乙姫は、口汚く太郎を罵りました。売り言葉に買い言葉で、太郎も言い返しました。
祐一「俺は、会ったばっかりの相手と寝る趣味なんかないんだよ! 大体、あんたみたいな派手な女の人は趣味じゃないっ!」
乙姫「フン、気取っちゃって。バカみたい」
祐一「何と言われても、これが俺の性分なんでね…。帰らせてもらいます!」

 乙姫は憎々しげに太郎を見つめていましたが、やがてフッと溜め息を吐き、
乙姫「…分かったわよ。フン、帰ればいいじゃない」
 パンパンと手を叩き、侍女を呼び、
乙姫「お帰りになるそうよ。おみやげに、玉手箱を差し上げなさい」
 ニヤリと唇を歪めました。

 ・
 ・

 太郎は行きと同じように、亀に乗せられて帰りました。
秋子「あの…、すみませんでした」
祐一「え?」
秋子「嫌な思いをさせてしまっただけみたいで…」
祐一「いえ、いいんですよ。秋子さんのせいじゃありませんし、ただ俺が気に入らなかっただけです」

 浜辺に着きました。
祐一「わざわざありがとうございました」
秋子「いえ、どういたしまして。……」
 亀は何かを言いたそうにもじもじしています。
祐一「どうかしましたか?」
秋子「…あ、あの…。そ、その、玉手箱…」
祐一「はい」
 太郎は自分の手の中の、乙姫に押し付けられるように渡された玉手箱を見つめました。
秋子「絶対に、開けてはいけませんよ。どんなことがあっても…」
 真剣な表情で言う亀。
祐一「え? なんでですか?」
秋子「どうしてもです。お願いですから、絶対に開けないと約束して下さい」
祐一「はあ…。分かりました」
 悲痛な表情の亀の気迫に圧倒され、うなずく太郎。

 亀はほっとしたように微笑み、
秋子「では、私はこれで。くれぐれも玉手箱は開けないで下さいね」
祐一「はい」
 亀はお辞儀をすると、海に潜っていきました。


 【第三幕】

祐一「さてと、遅くなったけど家に帰るか」
 太郎は浜辺を後にし、村へと帰りました。
 しかし…。
祐一「知らない顔が多いな…。祝言でもあるのか?」
 村の道行く人は、どれもこれも知らない顔ばかりです。

 太郎が首を傾げながら歩いていき、家の前まで辿り着いたとき、
祐一「ああっ!」
 なんと太郎の家は、壁は腐り落ち、柱は折れて、何十年も前に潰れたようになっていました。
祐一「どういうことだ…」
 太郎が呆然と立っていると、村人が近付いてきました。
村人「この家がどうかしたんですか?」
祐一「あ、ああ…。この家、いつからこうなっているんだ?」
 太郎が訊ねると、村人は腕を組んで考え込み、
村人「この家は、私が子どもの頃からこんなふうですよ。聞いた話によると、うちの爺さんが若い頃、ここには腕のいい漁師が住んでいたそうなんですが、ある日ぷっつりと行方知れずになったとか…」
祐一「………」
 太郎はぼんやりと話を聞いていました。

 ・
 ・

 気が付くと、太郎は砂浜に腰掛けて夕陽を見つめていました。
祐一「……」
 話を整理して考えると、どうやら太郎が竜宮城にいる間に、陸では100年近い時間が流れてしまっていたようなのです。
 もう知った顔も、聞いた名前もありません。
祐一「………」
 絶望した太郎は、ただ沈みゆく夕陽を眺めていました。

 ふと手元を見てみると、玉手箱がありました。
祐一「………くそっ」
 やけになった太郎は、腕を振り上げると、玉手箱を砂浜に叩き付けました。

 ガランッ。縛られていた紐が解け、玉手箱のふたが開きました。
祐一「ん?」
 と、玉手箱の中から、白い煙がもくもくと溢れ出しました。
祐一「な、なんだ」
 本能的に危険を感じ、太郎は立ち上がって煙から離れようとしました。ですが、煙は意志ある物のように太郎ににじり寄ってきます。
祐一「……っ」
 太郎は振り返って駆け出しました。

 煙は、獲物を追う蛇のように、太郎を追い掛けてきます。
祐一「くっ」
 必死で逃げる太郎。
祐一「うわっ」
 と、太郎は流木につまずきました。
祐一「く…いてっ」
 どうやら、足首を挫いたようです。痛みで走ることが出来ません。

 煙がじりじりと太郎に近付いてきます。
祐一「ここまでかっ……」
 煙が大きく広がり、太郎を飲み込もうとしたとき、
? 「祐一さんっ!」
 暗がりから影が飛び出し、太郎を突き飛ばしました。
祐一「うわっ!」
 バシャッ! 海に倒れ込む太郎。
祐一「…あっ、秋子さん!?」
 太郎を突き飛ばしたのは、亀でした。

秋子「祐一さん、逃げて…あっ、きゃああーっ!」
 煙が亀の体を包み込みました。
祐一「秋子さん!」
 太郎は立ち上がり、駆け寄ろうとしました。
秋子「来てはだめっ! 海から出てはいけません!」
 亀が必死の声で押しとどめました。

秋子「あ、ああっ…」
 煙は完全に亀を取り囲みました。
祐一「秋子さん、その煙は一体!?」
秋子「ゴホッ…こ、これは、呪殺法《老屍屠》……」
 煙の中から、息も絶え絶えに答える亀。

祐一「呪い!? なんでまた…」
秋子「…乙姫様は…ゴホ! …遙か昔から、自分の思い通りにならない男の方を、ゴホッ! …こうして、呪ってきたのです…」
祐一「そんな…。くっ、俺が玉手箱を開けたばっかりに!」
 煙が、じょじょに亀の体の中に吸い込まれていきます。
秋子「ああっ、あああ……」
 亀は声を震わせ、煙の中でうずくまりました。

祐一「秋子さん!」
秋子「…ゴホ! …いいんです…。…私のことは…気にしないで…グッ、ゴホッ!」
祐一「そんなわけにいきませんよ!」
 太郎が海から出ようとすると、
秋子「だめです、近付かないでっ! どのみち、もう手遅れです!」
 亀は手を伸ばし、太郎を制しました。
祐一「そんなっ…!」

祐一「なんで、なんで俺なんか助けたんですかっ!」
 亀はしばらく黙り込み、
秋子「…ふふっ…どうしてでしょうね…。…やっぱり、好きになってしまったからでしょうか」
祐一「…! 秋子さんっ!!」
 と、煙が全て亀の体に吸い込まれ始めました。
秋子「あっ、うああっ! あああーっ!」
祐一「秋子さーんっ!!」

 やがて、煙が晴れました。
 砂浜の上には、うずくまった亀の姿がありました。
祐一「……秋子さん?」
秋子「近付かないで下さいっ!」
 近付こうとした太郎を、悲鳴のような声で止める亀。
秋子「呪殺法《老屍屠》の煙に包まれた者は、100年以上老化させられてしまうんです…。…祐一さん、お願いですから、私を見ないで下さい…」
 肩を震わせ、亀はか細い声で言いました。

祐一「………」
 亀の背中を見つめていた太郎は、そっと近付いて、震える亀の肩に上着を掛けました。
秋子「祐一さん…? あっ」
 砂浜に突っ伏して両手で顔を覆ったままの亀を、太郎は優しく抱き寄せました。
秋子「い、いや…。み、見ないで下さい…」
祐一「見てませんよ。目をつぶっていますから」
 言う通り、太郎は目を閉じていました。

 亀を抱き寄せ、目をつぶったままの太郎は、静かに言いました。
祐一「…秋子さん。俺は、秋子さんがどんな姿になっていても、秋子さんが好きです。俺は、秋子さんの外見に惹かれた訳じゃありませんから」
秋子「えっ…」
祐一「…秋子さん、結婚して下さい」
 亀の体がビクリと硬直しました。

秋子「な…何をおっしゃっているんですか!? わ、私は、亀ですよ?」
 祐一の腕の中で、わずかに身じろぎをする亀。
祐一「亀でも蛇でも構いません。俺は、秋子さんが好きです」
秋子「そ、そんな…。だめです、いけません…」
 太郎は、怯えさせないように気を付けながら、亀をもう一度抱き締めました。
秋子「あっ」
祐一「秋子さん、俺のこと好きだって言ってくれたじゃないですか」
秋子「そ、それは…」
祐一「嘘だったんですか?」
 亀は慌てた様子で、
秋子「ちっ、違いますっ。…ほ、本当、です……」
 亀は語尾を小さくしながら言いました。

祐一「だったら、結婚して下さい」
秋子「……わ、私…。人間じゃありませんよ?」
祐一「構いません」
秋子「……おばあちゃんですよ?」
祐一「構いません」
秋子「………」

祐一「秋子さん」
 太郎は腕の力を緩めました。
祐一「俺との結婚が本当に嫌だったら、俺が目を閉じている間に消えて下さい」
秋子「えっ…」
 太郎は、目を閉じたまま腕を地面に降ろしました。
秋子「……」
 やがて、目の前にあった亀の温もりが遠くなりました。

祐一「…………」
 太郎が諦めかけたとき、
秋子「…ずるいですよ、祐一さん…。…あんな言い方、卑怯です」
 細く柔らかい腕が、太郎の頭を包み込みました。
祐一「秋子、さん?」
秋子「……私、もう離れませんからね? …後悔、しませんか?」
祐一「するわけないです」
秋子「…ひょっとしたら、私、乙姫様より質が悪いかもしれませんよ?」
祐一「望むところです」
秋子「……信じて、いいんですね?」
祐一「…はい」
秋子「………じゃあ…。目を、開けて下さい」
祐一「………」
 太郎がゆっくりと目を開くと、目の前には変わらない笑顔の亀の姿がありました。

祐一「…って、待って下さい! 何にも変わってないじゃないですか!」
 亀はほほに手を当て、にっこり微笑んで、
秋子「ええ。煙で歳は取りましたけれど、私は亀ですから。100年ぐらい、どうってことありません。ほら、よく言うじゃありませんか。『亀は万年』って」
祐一「…いえ、秋子さんの場合、それ以外の理由がありそうなんですけれど」
秋子「…何か言いました?〈キラリ〉」
祐一「い、いえ。なんにも」

 こうして一緒になった太郎と亀は、人目を避けるために沖にある小さな小島に移り住み、いつまでも幸せに暮らしました。

秋子「ふぅ、ふぅ…。…祐一さん……」
 仰向けになっていた太郎に、荒い息を吐きながら覆い被さる亀。
祐一「ま、またですか? もう休んだ方が…」
秋子「嫌です…。私はずっと、おあずけさせられていたんですから…」
 ごそごそ…
祐一「う」
秋子「うふふ。年増の持つ、圧倒的な情欲を甘く見ないで下さいね」
祐一「あっ、ちょっと…ううっ!」
秋子「はぁ…幸せ…」
 めでたし、めでたし。

                                               愛の劇場『浦島太郎』 おしまい

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 星牙でございます。
マキ「マネージャーの小原マキです」
 読んでいただければ、秋子さんが亀役とゆーのは自然だと分かっていただけるかと思います。ついでに言うと展開を考えた時点で、乙姫役は名無しキャラにすることが決まってました。
マキ「ほう」
 『鶴の恩返し』『牡丹灯籠』と本作品で通して言い続けていますが、相手が鶴だろーが幽霊だろーが亀だろーが気にしちゃいけません。気にしたら負け、と言っても過言ではないです。
マキ「明らかに言い過ぎじゃろ」

 個人的には、原典の乙姫を現実描写したら、絶対あんなふうだと思います。『振られた腹いせに呪いの玉手箱を渡した』っていうのは筋が通ってるし。

 お読みいただきありがとうございました。
マキ「それでは、ご機嫌よう」


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