愛の劇場『天使になった女の子』【エピローグ】
桜の花びらが舞う、駅前広場。
落ち着かない様子で、ベンチにちょこんと腰掛けている少女が一人。
「……遅いな…」
しきりに駅前の街頭時計に目をやり、時間を確かめる。
少女は所在なげな表情で道行く人々の顔を見上げているが、待ち人の姿は今だ見えない。
「……」
一分、二分…
「…早く来すぎたボクが悪いんだから…」
三分、四分…
「…うぐぅ」
不安に負けそうになり、俯いて涙を堪える。
「…祐一君…」
タッタッタッタッ
「あっ」
「悪いっ、遅れて。尾行を撒(ま)くのに、手間取った」
「……」
「あ、あゆ? …うわっ、な、なんで泣いてるんだっ」
「……ありがとう」
「え?」
「…来てくれて、ありがとう」
「あゆ……」
「祐一君…」
広場の片隅で、互いに抱き締め合う二人。
と、そこに。
「あっ。みんな、二人ともいたよっ。祐一、あゆちゃーん!」
「……あっ、あぅぅっ!?」
「だっ、抱き合ってますっ!」
「……っ」
突如現れた四人の少女達は、慌てて眼を逸らした。
「うわっ! な、何しに来たんだお前らっ!」
「…え、ええと…」
「…祐一が、あゆに会いに行くって聞いたから…」
「あ、あの、邪魔してしまって、すみませんっ。続けて下さいっ」
続けられるわけがない。
「うぐぅ〜」
少女は真っ赤になった顔を少年の胸に埋めて、隠れようとしている。
「あ、言い遅れたよ。あゆちゃん、退院おめでとう」
「あ、そうだね。あゆ、おめでとー」
「おめでとうございます、あゆさん」
「…おめでとう。元気になって、良かった」
「…うぐぅ…ありがとう、みんな」
「それでねあゆちゃん、これからあゆちゃんの快気祝いに、みんなでおいしい物を食べに行こうって話しになっているんだけど」
「待て。あゆはこれから俺とたい焼きを食べに行くんだ」
「じゃあその後でもいいよ。あゆちゃんはいい?」
「うん、いいよ」
「最初はたい焼きだね。その次は…」
「肉まん食べたいー」
「たい焼き、肉まんと来て、身体が温まったところでアイスクリームですね」
「うん、いいね。次は主食かな」
「…牛丼」
「それでデザートのイチゴサンデーで締め。ばっちりだよっ」
「…当然、全部祐一の奢り」
「待てい」
「わあ、ばっちりですっ」
「待てっつーの」
「イヤよぅ」
「じゃあ、そうと決まれば善は急げだよ。れっつごーだよっ」
「はいっ!」
「おーっ!」
「…おー」
タタタタ
「待て、こらっ! おーい!」
すでに姿の見えない四人。
「まったく…」
「あはは…。なんか、こういうのって楽しいよね」
「まあな」
「うんっ。じゃあ、ボク達も行こうよ」
「おう」
手を繋ぎ、駆け出す二人。
「ねっ、祐一君っ」
「なんだ」
「大好きっ」
愛の劇場『天使になった女の子』 おしまい
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
あとがき
星牙でございます。
マキ「マネージャーの小原マキです」
後は任せたよ。ガク。
マキ「待て、おい。いきなり死ぬな」
むぃ。では蛇足ながら、各話の解説などを。
【第一幕】
舞女史編です。公式設定を無視した暴挙第一段ですな。
マキ「命知らずめ」
うん。まあそれは追々。
個人的意見としては舞女史がお腹に剣を突き立てたのは、親友である佐祐理女史を傷付けたのが自分自身(の力)であったということへの償いの意味が大きかったのだと思われるですよ。
マキ「死んで詫びるということじゃな」
多分ね。でも、違うと思われる描写もあるし、あくまで個人的解釈です。
【第二幕】
栞嬢編です。
マキ「言いたいことがあったはずじゃな」
うん。ここまで読んでいただけた方にはお分かりいただけているかと思いますが、小生の言いたいのは『栞嬢が助かったのはあゆ嬢の力のおかげなどではない』とゆーことです。あゆ嬢が栞嬢に与えたのは『生きようとする意志』なのではないでしょうか。
マキ「そなたはあゆ嬢がお亡くなりになっている栞嬢編のアフターストーリーを見るたびに、不機嫌になるからな」
思い切りなる。取り敢えず一言言わせてもらえば、ゲーム本編の後半『香里女史と栞嬢との仲を取り持たないと栞嬢が帰ってこない理由』を考えて下さい。あれは栞嬢が『生きようとする意志』を強めるための、要のエピソードなんだと思っているのだけど(違うかも)。
マキ「まあ解釈の違いというのは幾らでもあろう」
それぐらいは分かるけれど。…それにしても、いくらなんでも額面通りに受け取りすぎだと思うよ。
もし『奇跡』があるとすれば、それは栞嬢があの日あゆ嬢と祐一と出逢えたことそのものであるはずだから。
【第三幕】
真琴嬢編です。公式設定を無視した暴挙第二段です。
マキ「うむ」
……特に書くことがないんだけど。
マキ「おいおい」
だって中書きで言っちゃったもん。
真琴嬢が帰ってきた(と解釈)した場合、美汐女史の狐さんが帰ってこなかった理由を示さないとならないと思うのだよ。
マキ「ふむ」
たまたま真琴の場合運が良かったとか、美汐女史の想いが足らなかったとかのいい加減な理由じゃ絶対ダメだからね(後者は最悪だし)。無茶は承知で『あゆ嬢が自分の力で妖弧達の力を導いた』としました。
マキ「ホントに無茶じゃ」
ううっ。公式設定で『真琴編、舞編ではあゆの力は働いていない』と言われているからねえ。
でも実際の所、ゲーム本編で真琴嬢が帰ってきたのかどうかすら分からないとゆーのは問題があると思うのだが。
【第四幕】
名雪女史編です。あゆ嬢と並ぶ主軸とも言える話のため、苦労したよ。
マキ「この中書きではぼやいてなかったな」
むぃ。言いたいことがほぼ全て書き込めたからね。とゆーわけで特に言いたいことはないです。名雪女史編ぐらい分かりやすければ、解釈の違いもへったくれもないよね。
……あ、あったよ。
マキ「なんじゃ」
ゲーム本編開始時、名雪女史は祐一に対して恋愛感情は持っていなかったと思う。推測だけど、彼女は『自分は祐一には7年前にすでにふられた』と考えているではないかな。だから名雪女史編に入らない場合、祐一と名雪女史のスタンスはあくまで『いとこ同士』なのではないか。
マキ「…ああ、思い出したぞ。ダーク系のSSで、嫉妬に狂った名雪女史が祐一と付き合い始めた女性を殺すとかゆー話を読み、激憤したときのことを言っているのじゃな」
あたりだ。名雪女史がそんな女性だと思いたくないとゆー個人的な理由だってことは分かってますが。…って言うか、ゲーム本編内でも『ただのいとこだよ』ってエピソードがあったはずだけど…(うろ覚え)。
【第五幕】
最終幕、あゆ嬢編です。
これもお話の中で言いたいことは全て描ききってあるので、特に言うべきことはないです。…敢えて言うとすれば、名雪女史にセリフが集中しすぎたね。
マキ「トンマめ」
うぃ。あの面子で何かを語れるのは、名雪女史しかいないから仕方ないんだよー。芯の強さに関しては間違いなくトップだから。次点は栞嬢になり、彼女もセリフが多い。真琴嬢と舞女史には、語りは任せられないとゆーか。
マキ「暴言じゃぞ」
はぅ。すいません。
作中でのオリジナルキャラクタと化している斉藤や久瀬や石橋先生、正真正銘のオリキャラ巫女原めぐみちゃんに関しては好き勝手やってます。
マキ「するな」
話を盛り上げるには、やっぱり人数は多い方がいいと思ったんだよう。果たして、今後の小生の作品に彼らが出る機会はあるのか無いのか。
そんなこんなで、長々とお付き合いありがとうございました。小生内『KANON』の集大成です。
お疲れ様でした。それでは、ご機嫌よう。
戻る