愛の劇場『お茶目な秋子さんR誕生日編 当日その十二』
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「…はあ♪」
顔を濃い薔薇色に火照らせた秋子さんが、晴れ晴れとした笑顔を浮かべながら、髪の毛をかき上げた。
「………」
深い疲労感の中、絨毯の柔らかみに身を委ねている俺。
「はふ」
秋子さんは生まれたままの格好で、ぼんやりとしている。
ふと、秋子さんと眼が合った。
「……うふふ」
陸揚げされたマグロ状態の俺を見た秋子さんは、媚笑を浮かべて躰を起こした。
「えいっ」
秋子さんが可愛らしい掛け声と共に、やけに軽やかな仕草で覆い被さってきた。
「ああー」
覇気のない悲鳴を上げる俺。
「んんっ……はふぅ」
もにゅもにゅ躰をくねらせながら、器用に手足を絡めた秋子さんは、満足げにのどを鳴らした。
「ああ、ううー」
ふんわりした柔らかみと共に、秋子さんの少し高めの体温がほわほわと伝わってきて…うー。
「あ、あの、秋子さ…秋子」
「はぁい? なんですか、あ・な・た」
にこーっと微笑み、うりゅうりゅと躰を揺さぶる秋子さん。
「ああああっ…あの、ちょっと…離れて下さい」
「いいじゃありませんか……んぅっ」
秋子さんはにっこり微笑み、唇を押し付けてきた。
「んぐ」
「んっ、んぅ、んっ…んぅ…ぅ…ふぅ…、……うふふ」
唇を離した秋子さんは、腕と脚を絡めて、躰を密着させた。
「はふぅ…祐一さんの温もりが…ああ♪」
秋子さんは幸せそうに顔をほころばせて、甘えた声音で呟いた。
「あー、じゃないですー」
太ももが、乳房がふにょふにょと…あううあー。
「んんっ…うふふ、いいじゃありませんかぁ…♪」
柔らかく微笑みながら、ほわんと間延びした声で囁く秋子さん。
「うぐぐ…よくないですよっ」
俺が強めに言うと、
「……。…うー」
秋子さんは一瞬黙り込み、瞳を細めて唇を尖らせた。
「む〜〜〜…祐一さん、甘えさせて下さるっておっしゃったのにぃ〜」
秋子さんはそう言うと、駄々を捏ねるように、もがもがと躰を揺すり始めた。
「ああーっ」
量感のある乳房が、ぼゆんぼゆんと激しく跳ねる。
「むー、あれは嘘だったんですか〜?」
「う、嘘じゃないですっ。分かりましたから、躰を揺するのはやめて下さいっ」
「…うふー」
ぴたっと身じろぎをやめた秋子さんは、にっこりと微笑んだ。
「…はふぅ」
秋子さんは俺の胸板に頬ずりしながら、またのどを鳴らした。
「…こうしていると、すごく気持ちが安らいできます…」
「は、はあ」
俺は気持ちが昂ぶってきているんですけど。
「…祐一さん、背中を抱いて下さい」
「はい」
断るとまたもがもがだろうから、素直に背中に腕を回す。微かに汗ばんでいる、柔らかな絹肌が手に触れた。
「あ…ん…」
秋子さんは信頼しきった様子で、満足げに溜め息を吐いた。
「…ん…ちゅ…、…ん…うふふ」
秋子さんは時折キスをしたり、頬ずりをしたりしては、幸せそうに顔をほころばせている。
「はぅー」
俺がへろへろになっていると、秋子さんがふと顔を上げた。
「……あら、もう九時ですか…」
時計を見ながら呟く秋子さん。俺としては、まだ九時だったのかとゆー気持ちだ。
「祐一さん」
「はい? ……んむぐっ!」
いきなり秋子さんの腕が首の後ろに絡まり、唇が押し付けられる。すぐに、秋子さんの舌が口の中に滑り込んできた。
「んんっ、んぅ、ぅちゅっ…んふっ、ぅんんっ…んちゅ、ちゅっ…んふっ、ぅん、うぅん…」
秋子さんは激しく舌を動かしながら、のどを鳴らしてキスを堪能している。
「…う、うぅー」
秋子さんの情熱的なキスに、意識がぼやけ始めた。
「んんっ、んちゅっ…んっ、んんっ…………、…んふ……ぁふぅ」
唇を薄く開いた秋子さんが、ゆっくりと顔を離した。
「…う…」
まだぼんやりしたまま、秋子さんの瑠璃色の瞳を見つめる。
「うふふ、私は後片付けをしてきますから」
秋子さんはにっこり微笑んでそう言うと、躰を起こしてパジャマを羽織った。
「祐一さんはゆっくりなさっていて下さいね」
空になった食器を持って、台所に消える秋子さん。
「……」
放心状態で天井を見上げる。どうやら、今のは秋子さんの離れ際の挨拶(?)だったよーだ。
・
・
秋子さんが台所に向かってから、俺ものろのろとパジャマに袖を通した。名雪がお湯割り用に持ってきていたポットでそそいだお湯を飲み、一息つく。
「ふう」
「…ふゅ〜…すょ〜」
名雪は床に髪の毛を撒き散らかしたまま、ぴよぴよと安らかな寝息を立てている。
「……」
広がっている名雪の髪の毛を一房手に取り、軽く撫でる。
「…んにゃ」
名雪が眼を閉じたままふにふにと唇を動かして、小さく身悶えた。
神経は通っていないはずなのに、髪の毛を撫でると、名雪はうにゃうにゃと躰を揺する。
「…んっ…うゅ〜…にゅ〜…」
さらさらふわふわの髪の毛を手の中でしばらく弄んでいると、
「…んっ、んっ、ん〜……」
名雪がゆるゆると身じろぎをしながら呻き声を上げ、瞳を開いた。
「…ふわぅ…んん」
名雪はとろんと寝惚けたような表情で呆けてから、ぱちぱちとまばたきをして、大きく伸びをした。
「……んにゅ、んにゅ」
猫のように手の甲で顔をこする名雪。
「おう、おはよう」
寝起きでぽけーっとしている名雪に、軽く声を掛ける。
「…うにゅ………おはおー」
『おはよう』だと思われる返事が返ってきた。
「んんぅー…うにゅ、ふにゅ…う〜」
胡座をかいて座っている俺を見つめていた名雪は、もにょもにょとした動きでにじり寄ってきて、
「……んにゃ」
俺の脚を枕にして、また横になった。
「おーい、寝るな」
躰を丸めた名雪の頭を、軽く揺する。
「うゅっ、ぅゆっ、うゅっ、ぅゆっ……」
頭を揺さぶられた名雪が、顔を上げた。
「…う〜〜」
「な、なんだよ」
名雪は据わった目つきで俺を見据え、
「………………ふかーっっっ!
猛獣のよーにのどを鳴らして威嚇してきた。ビクッとして、思わず手を引っ込める。
「…………うにゅ」
満足げに唇を鳴らし、また躰を丸める名雪。
「……」
名雪の剣幕のどえらい迫力に、まだ心臓がバクバクいっている。
「…んく…すぴゅー…」
いかん、名雪が本当に寝入ってしまっては、起こす手だてがなくなる。
「名雪、起きろ〜。起きて下さ〜い」
今度は刺激しないように、出来るだけ優しく呼び掛ける。
「うにゃ…やら(やだ)」
名雪は眼を閉じたまま肩を揺すって、ほえっと答えた。
「あのな」
「…うにゅ、うにゅ」
名雪は顔をほころばせ、ふにふにと身じろぎしている。
「あらあら、うふふ」
いつの間にか、洗い物を終えた秋子さんが戻ってきていた。
「名雪、もう眠いの?」
秋子さんの呼び掛けに、
「…ん〜……うん…おねむ…」
もにゅもにゅと口の中で答える名雪。
「それじゃあ、部屋に戻って、ゆっくりお休みなさい」
「…ん〜……うん……」
名雪は起きようとしているのか、へろへろとお尻を揺すりだした。
「…う〜…う〜…」
名雪は力が入らないらしく、もそもそ躰を揺すっている。密着している俺には、その動きがダイレクトに伝わってきて大変だ。
「ううっ…は、早く起きろ、名雪」
「う〜…起きれない〜」
へろへろと泣き言をいう名雪。
「ああ、もう」
俺は名雪の脇の下に手を差し込み、起き上がらせようと力を込めた。その途端、
「きゃっ、ひゃあっ! あははははっ!」
突然、名雪が弾けるように笑い出し、躰をばたつかせ始めた。
「うわっ」
驚いて手を離すと、名雪はしがみつくように倒れ込んできた。
「うおっ」
名雪を受け止めて、肩を支える。
「…ふっ、ふはぁっ、はぁ…ふふふ」
名雪はまだ肩を震わせて、可笑しそうにくすくす笑っている。
「…う〜…おとーさんがくすぐったー」
笑いが収まった名雪が、むーと唇を尖らせて俺を見据えた。
「偶然だ」
弁解しても、名雪は信じてくれていないようだ。
「うー、おとーさんのえっちー」
俺にしがみついたまま、文句を言う名雪。ちょっとカチンときた。
「違うって言ってるだろ……ていっ」
言うや否や、もう一度名雪の脇の下に手を差し込み、激しくくすぐる。
「ひゃああっ、あははっ、あはははっ! あっ、あはははっ! あはははははっ!」
全身を震わせ、大きな声で笑い出す名雪。面白いので、さらにくすぐる。
「はははは、あはっ、あははっ、あはははっ! はっ、やっ、やぁっ、やめてっ、だめっ…あはははははっ!」
名雪は髪の毛を振り乱しながら、泣き笑いの表情で悲鳴を上げる。
「あっ、あはっ、あははっ! あはっ、ははははっ、あはははははは! やっ、ひゃっ、あはははははっ!」
名雪は躰をよじり、転がって逃げようとした。
「逃がすか」
俺は逃げられないように名雪を抱え込み、くすぐり攻撃を続ける。
「ひゃっ、ひゃあっ、あははははははは! きゃはははははははは、はははは、うふふふはははははっ!」
ぶるぶると全身を痙攣させ、笑い声を弾けさせる名雪。
「ひゃふふははははは、あはははははははは! ご、ごめっ、ゆるしてっ、死んじゃう…にゃはははははははっ!」
名雪は顔を真っ赤に紅潮させて、じたばた身悶えながら歓声を上げている。
「ふひゃはははははは、にゃははははははは! だ、だめっ、ふふふふ、ほんと、はははは、死んじゃはははははははっ!」
「うりゃうりゃ」
指を立てて、攻撃を激しくする。名雪の躰はぷにぷに柔らかいから、ついでにその感触も愉しむ。
「ひゅふふふふ、ふひゃははははは! お、おねがい、ゆるして…へひゃふふふふふははははははははははははははははははははっ!」
名雪は笑い顔のまま、ぽろぽろと涙をこぼして懇願した。
「あらあら。祐一さん、それぐらいにしてあげて下さい」
秋子さんにやんわりと諫められて、くすぐり攻撃をやめる。
「…………はぁっ、あ…ぁふぅ」
名雪はふらふらと頭を揺すりながら、また倒れ込んできた。
「…はっ、はあっ、はふっ、はあっ……ふふふふふ…」
名雪はまだ余韻が残っているのか、俺にしがみついたまま背中を震わせている。
「ふぅっ、ふぅ、う〜…ひどい〜」
ようやく笑いが収まった名雪が、ほっぺたを膨らませてへろへろと非難した。
「はぅ…わたし、もう笑えないよ」
「嘘つけ」
脇の下に入れっぱなしの指を軽く動かす。
「ひゃふふふふふふふ」
力なく笑う名雪。
「ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ……うー」
名雪は俺にしがみついたまま、むーと唇を尖らせて俺を見据えている。
「うー、ひどいよー」
「ひどくない」
「ひどい〜ひどい〜」
駄々を捏ねるようにもがもが身悶える名雪。
「う〜う〜う〜………あ、そうだ」
しばらく唸りながら俺を見つめていた名雪が、何か思い付いたのか、瞳を輝かせて顔を上げた。
「なんだよ」
「えへへ……え〜い」
気合いの感じられない掛け声をあげながら、名雪が手を俺の脇の下に突っ込んだ。
「ん」
「えいえいえいっ」
そのまま、ごそごそと俺の脇の下をくすぐり始める名雪。
名雪はしばらく俺の脇の下をいじってから、俺が無反応なことに気付いて、ほえっと顔を上げた。
「あれ…お父さん、くすぐったくないの」
「全然」
俺は脇の下は強いし、名雪のくすぐり方も甘すぎる。
「えー、どうして。お父さん、やせ我慢してない?」
「してない」
「うー、うー、どうして」
名雪は納得がいかないのか、もしょもしょとしつこく指を動かしている。
「うー、うー、えいっえいっ」
気合いが空回りしている名雪のくすぐり攻撃は、全く効果がない。
「…うー」
ようやく諦めた名雪は、ぷくっとほっぺたを膨らませて俺を睨んだ。
「分かったよ。お父さんは、不感症なんだね」
こけそうになるのを、耐える。
「きっとそうなんだよ。マグロさんなんだよ」
「人聞きの悪いことを言うな」
名雪の鼻をつまむ。
「うにゅー」
「うー、いふぁいおー、はなひて、おふぉーふぁん」
ふぃふぃと鼻に掛かった声で、名雪が言った。俺が指を離すと、名雪は両手で鼻の頭をさすりながら、上目遣いに俺を睨んだ。
「うー、お父さん意地悪だし、ひどいし、えっちだよ」
悪し様な言われように、またカチンときた。
「名雪」
「なあに?」
ほえっと可愛らしく小首を傾げる名雪。
「さっき俺をくすぐってくれた、お礼をしてやるぞ」
「えっ」
名雪の顔が強張る。
「い、いいよ、遠慮するよ」
「ははは、名雪は謙虚だな」
どうやら俺は怖い表情をしているらしく、名雪は首を竦めてずりずり後ずさり始めた。
「わ、わたし、もう寝るよ。おやすみなさいっ」
名雪はそう言うと、立ち上がって逃げようとした。
「逃がさんっ」
飛び掛かって、名雪の躰を抱きかかえる。
「わー」
怯えた表情を向ける名雪。おお、燃える(←?)。
「そりゃ」
柔らかいわき腹に腕を回して抑え込みながら、くすぐり攻撃を開始した。
「きゃああ〜、いや、いやいや〜」
ぶるるっと全身を震わせ、名雪は大袈裟に狂喜し始めた。
「喜んでなんてないよ〜…ひゃっ、きゃふふふふふっ!」
名雪の顔が真っ赤に染まり、ふにゃふにゃほころぶ。
「きゃわっ、わっ、あはははははっ! ははははっ、あはっ、ひゃははっ、あはははっ! あっ、あっ! やだっ、えっち…やっ、あっ、あんっ! あははははははっ!」
・
・
「はっ、はぁっ、はぁっ………んっ、んん…」
笑い疲れてへろへろになった名雪を抱きかかえる。
「はぅ、ふぅ、へぅ、はふぅ…」
名雪の熱い吐息と弾んだ息遣いが、やけに色っぽい。抱っこしている名雪の躰も、ほんのり火照って温かいし。…いかん、変な気持ちになってきた。
「ふにゅ〜…お父さんのせいで、眼が覚めちゃったよ」
名雪が顔を上げて、ふにふにと鼻を鳴らしながらぼやいた。
「ほう、それはいいことを聞いた。これから名雪を起こすときは、くすぐって起こすことにしよう」
「え」
名雪が怯えた表情で俺の顔を見上げた。
「いやだよ、やめてよー」
もがもがと躰を揺すりながら懇願する名雪。
「だったら、自分で起きろ。起きなかったら、くすぐる」
名雪はむーっとほっぺたを膨らませた。
「うー、ひどい交換条件だよ。一方的盟約だよ。不平等条約だよ」
「なに言ってるんだ。笑いながら眼を覚ませるなんて、果報者だぞ」
「いやだよ、嬉しくないよ」
「じゃあ名雪は、どういう起こし方がいいんだ」
俺がそう訊くと、名雪はうーんと考え込んで、
「ええとね、お父さんが優しくちゅーしてくれたら」
「却下(一秒)」
「うー。じゃあ、激しくちゅー」
「大却下(0.7秒)」
「うー、早いよー」
うにゅうにゅと鼻を鳴らしながら、名雪がもがもが身悶える。
俺と名雪のやり取りを見つめていた秋子さんが、ほぅと溜め息をついた。
「む〜…羨ましいです…」
秋子さんはうずうずと躰を揺すりながら、絨毯に『の』の字を描いている。
「…祐一さん、先程もお訊きしましたけれど、やっぱり私は起こしていただけないんですか?」
上目遣いに俺を見つめ、何かを期待するよーな眼差しを向けて呟く秋子さん。
「私としては、枕元で愛を囁いていただきたいんですけれど……ぽ」
秋子さんがほほに手を当てて、恥じ入るように瞳を伏せながら呟いた。
「え」
「あ、わたしもそれがいいー」
名雪が瞳を輝かせながら言った。
「微睡んでいるわたしの耳元で、お父さんが『朝だよ、僕の可愛い名雪』って言って、起こしてくれるのー」
どて。全身から力が抜けて、こける俺。
「そのままお布団の中に、お父さんの手が入ってきて…えへへ」
何を想像しているのか、名雪がふにゅふにゅと顔をとろけさせ始めた。
力を振り絞り、躰を起こす。
「えへへじゃないっ。やらないぞ、そんなこと」
「えー、どうして」
むーっと唇を尖らせる名雪。
「どうしてもだ。第一、そんな程度じゃ起きないだろうが、お前は」
「起きるもん」
「名雪の『起きるもん』ほど信用ならない言葉はない」
「うー、お父さんがひどいこと言ってるー」
「あの、祐一さん」
秋子さんが名雪と同じように、瞳をきらきらと輝かせながら話し掛けてきた。
「はい?」
「…私は、優しく揺り動かしながら、『秋子、おはよう。今朝も綺麗だね』と耳元で囁いていただきたいんですけれど」
夢見る少女のよーに瞳をきらめかせ、無茶な注文をする秋子さん。
「しませんっ」
脱力しかけながらそう言うと、秋子さんと名雪が、親子揃ってぷくっとほっぺたを膨らます。
「うー、お父さんのけち〜」
「祐一さんのいけずぅ〜」
秋子さんと名雪は、二人して腕を俺の首に絡めて、躰をすり寄せてきた。心地よい温もりが左右から押し付けられる。
「う」
秋子さんと名雪は、そのまま俺を二人がかりで揺さぶって、おねだりし始めた。
「ねー、ねー、いいでしょ〜」
「ああっ、ちょっと…うう」
子どもっぽい仕草でおねだりしながら、豊満な肢体を惜しげもなく押し付ける名雪と秋子さん。
「あぐっ…だ、駄目と言ったら駄目だ」
名雪はむーっと唇を尖らせて、
「う〜、けちー」
「けちでも何でも、駄目だ」
「おねがいします……あ・な・た」
秋子さんが俺のほほを撫でながら、甘く囁いた。
「はぅっ…だ、駄目ですっ」
「ねー、ねー、ねえったら〜」
名雪が躰を起こして、胸元を俺の顔に押し付けてきた。ぽゆぽゆと柔らかな固まりが顔を圧迫する。
「うう、駄目…むぐっ」
ばふっとした感触と共に、今度は秋子さんの胸に口を塞がれる。
「いいじゃありませんか……ね?」
俺の頭を抱きかかえた秋子さんが、瞳を細めて薄く微笑みながら囁く。
「うう、うー」
ふっくらとした温もりに、頭がくらくらしてきた。
「む〜…こんなに頼んでもだめなの」
名雪がむくれた表情で呟く。
「うー、分かったよ」
「…分かりました」
絡めていた手をほどき、秋子さんと名雪が同時に離れた。
秋子さんと名雪は女の子座りをしたまま、ずりずりと壁際まで這っていく。
「あ、あの?」
俺の呼び掛けを無視して、壁を向いてビシッと正座を組む二人。
「………」
無言の背中がコワイ。
背中から放たれる重圧にビクつきながら、恐る恐る近寄る。
「名雪。秋子さ…秋子?」
「…………………………………………………………………(黙)」
「…………………………………………………………………(黙)」
二人の後ろ頭から、頑(ガン)とした意志が伝わってくる。
無言の重圧に、身がゴリゴリと削られていくよーな気がしてきた。明日の朝は紅しょうがフルコースと、デザートに例のオレンジ色のジャムを出されるのではなかろーかとか、ろくでもない想像ばかりが脳裏をよぎる。
「うう」
いっそ何かしら喋ってくれれば、こんなに怖くはないんだろうけど。
「わ、分かりました」
とうとう抗いきれなくなり、白旗を揚げる。
根負けした俺がそう言った途端、名雪と秋子さんが振り向いた。
「本当ですか?」
ぱっと顔を輝かせて、明るく訊ねる秋子さん。
「わーい。ありがとう、お父さん」
にこーっと微笑み、心底嬉しそうにはしゃぐ名雪。
「…でも悪いけど、休みの日限定にしてくれ」
俺がそう言うと、二人ともすぐさまむーっとほっぺたを膨らませる。
「えーっ」
「…どうしてですか」
俺の返答如何に依っては、また飛び掛かろうと身構える二人。
「毎日は身が保たない」
毎朝、愛の囁きをして下さいとか言われたら、俺はもう故郷(くに)に帰るしかない。
秋子さんと名雪は少し考え込んで、
「仕方ありませんね。分かりました」
「うん、わたしもそれでいいよ」
にっこり微笑む秋子さんと名雪。よかった、折衷案が通った。
「えへへ、今から楽しみだよー」
「うふふ、そうね」
秋子さんと名雪はにこにこ嬉しそうにはしゃいでいる。…まあ、二人とも嬉しそうだし、いいか。
《当日 その十三に続きます》
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星牙でございます。
マキ「マネージャーの小原マキです」
小生の中で、名雪女史の株が大幅に上がっていっているよ。
小説を書いている方なら同意いただけるかと思いますが、やっぱり描いているうちにその子がどんどん可愛く思えてきてしまうね。
マキ「なるほど、それで秋子さんの影が薄くなりがちなのじゃな」
ゴフッ(喀血)。
お読みいただきありがとうございました。
マキ「それでは、ご機嫌よう」
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