愛の劇場『お茶目な秋子さんR誕生日編 当日その十一』

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「ちゅっ、ちゅっ、んっ……はむっ、んっ、うぅん…」
 名雪は耳たぶまで真っ赤に火照らせながら、飽きずに俺の顔を吸ったり舐めたり噛んだりしている。
「んちゅ、ちゅっ…んっ、んふ、んふぅ、ぅん、んっ♪」
 幸せそうに顔をほころばせた名雪が、うずうずと躰を揺する。そのたびに、俺に密着した名雪の乳房がぽゆぽゆと柔らかく弾んで…ううー。
「…んっ、んん、んちゅっ…れる、れる…うぅん」
 のどを鳴らしながら、舌を出して俺の鼻の頭を舐める名雪。
「うー」
 酔いも手伝って、頭がくらくらし始めている。しっかりと抱きかかえられていて、動きがとれないし。…これは新手の拷問なのだろーか。

「…ん、うぅん…はぐ、はぐ」
 名雪は何が嬉しいのか、満面の笑みを浮かべながら俺のほほの肉を甘噛みしている。
「ううー」
 俺はこのまま名雪に食べられてしまうのだろーか、と本気で心細くなったのと同時に、
「はむ、んむ……、…ん…、……う」
 突然、名雪がガクンと大きくうなずいて、俺に覆い被さってきた。
「……名雪?」
 恐る恐る呼び掛けてみる。
「………ん…、……すょ〜」
 名雪はふにゃふにゃと顔をほころばせたまま、安らかな寝息を立てていた。

「……ほっ」
 安堵するのと同時に、勿体なかったような気もしてきた。
「はあ」
 取り敢えず、名雪にどいてもらうために、躰を持ち上げる。
「よっ……うお」
 眼の前で、剥き出しの乳房がゆらゆら揺れていた。

 名雪の艶姿は無の心で見えないことにして、脱ぎ捨てられていたパジャマと半纏を羽織らせる。
「……すょ〜……すゅ〜………」
 裸で腕を上げたり下げたりさせられても、安らかな寝顔でくーくー寝続ける大物の名雪。
「ふう」
 ようやく終わり、一息つく。
「うふふ。お疲れ様でした、祐一さん」
 独りお酒を愉しんでいた秋子さんが、微笑みながら言った。
「はあ…本当に疲れましたよ」
 お湯割り用のお湯を飲んで、一息つく。

 ふんわり穏やかに微笑んでいた秋子さんが、ふと真面目な顔付きになった。
「祐一さん。名雪を怒らないであげて下さいね」
「へ?」
 秋子さんは名雪の側に寄り、毛布を掛けてあげながら、
「名雪は甘えることに慣れていない子ですから、いざ甘えてもいい人を相手にしてしまうと、行き過ぎてしまうんです」
 独り言のように小さな声で呟く秋子さん。

 名雪を見つめる秋子さんの瞳には、深い慈愛と微かな哀切が映っている。
「ええ、まさか怒ったりはしませんよ」
 俺がそう言うと、
「ありがとうございます」
 秋子さんはにっこり微笑んで、深々とお辞儀をした。

 俺も秋子さんに倣って、名雪の側に寄ってみる。
「……んくー」
 名雪の空色の髪の毛を一房手に取り、軽く撫でてやる。
「名雪に甘えられるのは慣れてますからね」
 毎朝起こしたり、イチゴサンデーを奢らされたりするのはともかく、裸で顔を舐められるのは甘えの範疇に入るのだろーか、と頭の片隅で思ったけど、まあいい。
「あら、そうなんですか? 名雪が羨ましいですね」
 ほほに手を当て、にっこり微笑みながら言う秋子さん。
「どうしてですか」
 俺がそう訊くと、秋子さんはふんわり微笑んだまま、
「うふふ、私は甘えるような歳でもありませんから」
「……」
 なるほど、とうなずいていいのかちょっと迷う。

「ええと、秋子さ…秋子も、甘えてもいいと思いますよ」
 取り敢えず、当たり障りのないことを言うことにする。
「え?」
 きょとんと可愛らしく瞳をまたたかせる秋子さん。
「普段、俺とか名雪に甘えられてばかりなんですから、たまには甘えたって罰は当たらないでしょう」
「……」
 秋子さんは俺をじっと見つめたまま、黙って聞いている。
「まあ、全然頼りにならない俺がそんなこと言っても、説得力がないかもしれませんけど」

「本当ですかっ?」
 突然、秋子さんが勢い込んで訊ねてきた。
「へ?」
 身を乗り出した秋子さんは、瞳をきらきらと輝かせている。
「祐一さん、本当に私を甘えさせて下さるんですか?」
「え、ええ。はい、俺でよければ」
 秋子さんの迫力に、思わずうなずいてしまった。
「ああ…!」
 秋子さんは感極まったよーな淡い吐息を漏らし、うっとりと微笑んだ。

 胸の前で指を組みながら、少女のように瞳をきらめかせている秋子さんに、『すいません、やっぱり取り消して下さい』とは言えない。
「うふふ、ありがとうございます、祐一さん。お言葉に甘えて、うんと甘えさせていただきますね」
 喜色満面の笑顔で、本当に嬉しそうに言う秋子さん。
「は、はあ」
 秋子さんの『うんと』の部分に、そこはかとない…と言うか、底知れない恐怖を感じた。

 ・
 ・

「祐一さん、こちらへどうぞ」
 秋子さんに手を引かれ、名雪の側から離れる。
「座って下さい」
「はあ」
 ちょっと不安になりながら、言われた通り絨毯の上で胡座をかく。
「それでは、失礼します」
 秋子さんはそう言って、いきなり体重を掛けてしなだれかかってきた。
「って、最初からですかっ」
「うふふ。いいじゃありませんか、あ・な・た……んっ」
 にっこり微笑んで、俺のほほに唇を当てる秋子さん。
「うっ。あ、あの、でも…」
 ごそごそと俺が落ち着きなく身じろぎしていると、秋子さんの瞳が寂しげに曇った。
「…やっぱり、お嫌ですか?」
「え」
 俺を見つめた秋子さんの瞳が、見る見るうちに滲んでいく。
「……そうですよね。私みたいなお婆さんが甘えていても、気味が悪いだけですよね…」
 まぶたをわななかせながら下唇を噛み、何かを堪えるように声を震わせる秋子さん。
「うっ…すみません、祐一さん。見苦しい老醜をさらしてしまって、申し訳ありませんでした。もう結構です」
 そう言って、秋子さんが躰を浮かし掛ける。

「あっ。待って下さいっ」
 慌てて秋子さんの肩を掴み、引き留める。
「そんなことありません。嫌じゃないですっ」
 秋子さんは潤んだ瞳で俺を上目遣いに見つめて、
「……本当ですか?」
「本当です」
「…お嫌じゃありませんか?」
「はい」
 俺がうなずくと、ようやく秋子さんはにっこりといつもの微笑みを浮かべてくれた。
「ありがとうございます。それでは、失礼しますね」
 秋子さんの躰が、流れるように腕の中に滑り込んできた。
「あぅっ…く」

「…はあ」
 秋子さんは俺に体重を預けながら、うっとりと溜め息を吐いた。
「うう」
 密着した部分から、秋子さんの少し高めの体温が染み入るように伝わってくる。しかも秋子さんは下着を付けてないらしく、重い乳房の圧迫感が随分と顕著で……あああ。
「…はんん……ああ」
 秋子さんは愛おしげにのどを鳴らし、俺の肩に添えていた手を背中に回した。
「ああー」
 いかん、落ち着け俺。秋子さんは甘えているだけなんだから…多分。

 深呼吸をして、気持ちを落ち着かせよう。
「すー、はー」
 頭の下の秋子さんの髪の毛から、ほわっとした温かい空気と共に、華のような芳香が漂ってきた。
「ううー」
 事態が悪化しただけだった。

「んんっ……はふぅ」
 秋子さんが悩ましげにのどを鳴らし、熱い吐息を吹きかけてきた。
「あぐっ」
 …無の心だ。明鏡止水…曇りのない鏡面と、静かな水面(みなも)の如き心。
「…はぁぁ…」
 秋子さんが躰を揺さぶるように身じろぎをした。柔らかな膨らみが、ぽゆぽゆとたわみながら押し付けられる。
「あうう」
 ……無心無心無心無心。

「祐一さん」
 俺が心の中で呪文のよーに『無心』と唱えていると、秋子さんが顔を上げて俺の顔を見つめた。
「は、はい?」
 秋子さんは少し言い淀んでから、恥じ入るように瞳を伏せて、
「…抱いて下さい」
 ビシッ(←心の鏡面にヒビ)。

「ああ、あっ、あきっ、秋子さんっ?」
「あ・き・こ」
 前髪の隙間から、上目遣いで俺を見据え、拗ねた口調で呟く秋子さん。
「あ、秋子…あの、その、抱いてって」
 俺は余程慌てた顔をしているらしく、秋子さんはくすくすと可笑しそうに笑った。
「うふふ、違いますよ祐一さん。抱っこして下さいということです」
「へ? …あ、ああ。抱っこですか」
 …情けない。深読みした自分が、恥ずかしい。

「分かりました」
 秋子さんの小さな背中に腕を回し、軽く力を込める。
「あふ…」
 満足げな吐息を漏らし、うっとりと顔をほころばせる秋子さん。
「はあ…ありがとうございます、祐一さん」
 秋子さんはとろんと潤んだ瞳で俺に微笑み掛け、にっこり微笑んだ。
「どういたしまして」

 秋子さんは上目遣いに俺を見つめて、
「ところで祐一さん、どうして今あんなに慌てていらしたんですか?」
「え」
 ギクリと躰が強張る。
「え、ええと、それは、その」
「うふふ」
 あたふたしている俺を、可笑しそうに見つめる秋子さん。
「…祐一さん、変なことを考えていらしたんでしょう」
 ゴフッ(吐血)。

「…すいません」
 泣きたくなるような情けなさに、自然にうなだれる。
「うふふ、祐一さんたら。慌てなくても、それは後でお願いしますから」
 秋子さんがふんわり微笑んだまま、さらっと言い放った。
「え」
 意味を冷静に考えてみる。
「あの、それって……うっ」
 秋子さんがうりゅうりゅと躰をこすり付けてきて、言葉が途中で途切れる。
「うふふ。……ぅんん…はぁぁ」
「ちょっ、ちょっと…うう」
 秋子さんは濡れた瞳で俺を見上げて、
「お願いします…もっと強く、抱いて下さい…」
 ガフッ(喀血)。

 ・
 ・

「はうー」
 へろへろになりながらも、頑張って秋子さんを抱っこし続ける。
「うふふ」
 秋子さんはぴったりと寄り添ったまま、幸せそうに顔をほころばせている。

 突然、秋子さんは俺のほほに手を伸ばして、撫で始めた。
「祐一さん、赤くなっていますね」
「そ、そうですか」
 秋子さんの瞳が可笑しそうに細められる。
「うふふ、酔っていらっしゃるんですか?」
 秋子さんの白魚のような細指が、俺のあご先をかすめた。
「あぅっ。…そういうわけじゃないです」
 いっそ酔えていれば、こんなに苦しくないんだろーな。

「秋子さ…秋子は、酔ってないんですか?」
 かなり呑んでいるはずなのに、秋子さんはいつもと変わっていないような、根本から変わってしまっているような微妙な感じだ。
 秋子さんはほほに手を当ててふんわり微笑み、
「私は、普通の方よりお酒が回るのが遅いんですよ」
「へえ」
「あんまりゆっくりですから、自分でも分からないぐらいなんです」
 のほほんと微笑みながら言う秋子さん。

 名雪は絡み酒(の一種)だったけど、秋子さんが酔ったら、どうなるのだろう。秋子さんが声を上げて笑ったり、眼を三角にして怒ったり、泣きじゃくったりするというのは考えにくいな。
「…はふ」
 ふと、秋子さんが微かな吐息を漏らした。見ると、秋子さんのほほがほんのり紅くなっている。
「んんっ…はあ」
 秋子さんは少し息苦しそうに溜め息を吐き、もそもそと身じろぎをした。慣れ掛けていた重みと柔らかさが、またズンと躰の奥に響く。
「あぐっ。…あ、あの、どうかしたんですか」
「いえ…少し、暑くなってきたような気がしたんです」
 そう言って、秋子さんはパジャマの襟元に指を掛け、軽く引っ張った。
「う」
 火照って綺麗な桜色に染まった秋子さんの柔肌が、わずかに垣間見えた。

 気のせいか、秋子さんの瞳が潤んでいるよーな。
「はあ……すみません、祐一さん。ちょっと失礼しますね」
 秋子さんは羽織っていたカーディガンを脱ぎ、たたんで床に置いた。
「……ふう」
 まだ落ち着かないのか、秋子さんは物憂げな溜め息を吐いている。
「…祐一さんは、暑くないんですか?」
 秋子さんが濡れた瞳を向け、上目遣いに俺を見つめながら、微かに上擦った声で呟いた。
「い、いえ。俺は気になりませんけど」
「……そうですか……はぁ」
 耳たぶに掛かった髪の毛をかき上げ、また溜め息を吐く秋子さん。
「……」
 なんだか、変な雰囲気になってきた。

「…はふぅ〜」
 秋子さんの熱い吐息が、俺の首元に吹き付けられる。
「うっ。…あ、あの、秋子さん?」
 恐る恐る呼び掛けると、秋子さんが妙に据わった目つきで俺を見据えた。
「…祐一さん」
「はい」
 秋子さんの手のひらが伸びてきて、俺のほほを撫でる…と思いきや、いきなりぎゅーっと引っ張られた。
「あいてて」
「う〜…秋子と呼んで下さいと、何度も言っているじゃありませんか」
 唇を尖らせた秋子さんが、拗ねた表情で俺を睨んでいる。
「す、すいません。…あの、秋子」
「はいっ。なんですか、あなた♪」
 ころっと明るい表情になり、にっこり微笑む秋子さん。
「ええと、酔っているんじゃないですか?」
 俺がそう言うと、秋子さんの表情がまた不機嫌になる。
「むー、酔ってなんていませんっ」
 秋子さんは唇を尖らせてそう言い、ぷいっとそっぽを向いた。

 子どものように拗ね顔になった秋子さんは、上目遣いに俺を見据えた。
「さっきも言ったじゃありませんか。私は、酔うのは遅いんですよ」
 ふてくされたような表情で、もがもがと身じろぎを始める秋子さん。ああ、胸が、お尻がっ。
「あぅぅっ、で、でも」
「む〜〜」
 もがもが、むにむに。
「でも…」
「む〜〜〜〜」
 もがもがもがもが、むにむにむにむに。
「……すいません、俺が間違ってました」
 唇を尖らせた秋子さんの可愛い仕草と、ぽよぽよの肢体の温もりの波状攻撃に押し負け、あっさり謝る。
「…うふー」
 にこーっと微笑む秋子さん。
「そうですよ〜、私は酔ってなんていないんですから……うふふふふふ」
 ……やっぱりこれは、秋子さんの酔いの症状なんだろーな。突っ込んだらきっとまたもがもがむにむにだろうから、言わないでおこう。

 ・
 ・

「…うふふふふ〜」
 秋子さんは俺の肩口に頭を乗せて、ほえーっとくつろいでいる。
「……うー、うー」
 俺は、秋子さんの豊潤な肢体の温もりに耐えている。
「はぁ〜…。…ねえ、祐一さん…」
 うりゅうりゅと体全体をすり付けながら、秋子さんが呟いた。
「は、はい?」
「…いま私、すご〜く気持ちがいいんですけれど〜、どうしてでしょうかぁ〜」
 ほわほわと間延びした口調で、秋子さんが言った。
「……」
 ほろ酔い加減だからじゃないですか、と言いたいけれど、言ったらどうなることやら分からん。

 取り敢えず、当たり障りがないよーに、黙って秋子さんの背中を撫でる。
「ふぃっ…んゅ〜」
 くすぐったそうに首を竦めて、軽く身じろぎをする秋子さん。
「…んっ、ん〜…………ほゅゅ」
 もにゅもにゅと躰の位置を整え直して、秋子さんが満足げに溜め息を吐いた。
「はふぅ…祐一さぁん…」
 秋子さんが顔を上げて、俺の顔を覗き込む。潤んでいるせいか、秋子さんの瞳の瑠璃色がいつもより濃いような気がする。
「うふふふふふふふ…私〜、すご〜く愉しくなってきちゃいましたよ〜」
 潤んだ瞳をに〜っこりと細めて、本当に幸せそうに微笑む秋子さん。
「そ、そうですか?」
 微笑み返して、秋子さんの背中を撫でると、秋子さんは柔らかい肢体を弛緩させて、さらに柔らかくなった。
「はふゅ〜」

「んっ、ん〜、んん…」
 背中を撫で続けていると、秋子さんは駄々を捏ねる子どものように、うずうずと身悶えし始めた。
「うぐ。…どうかしたんですか?」
「…ふぃ」
 俺が訊ねると、秋子さんはほわんと焦点の合わない瞳を向けた。
「……うふー」
 しばらく俺の顔を見つめていた秋子さんは、急ににこーっと微笑み、
「…ぅんっ」
 いきなり唇を押し付けてきた。

「う!」
 不意を突かれている間に、秋子さんの腕が首の後ろに絡まり、舌が口の中に滑り込んできた。
「んっ、んんっ」
 秋子さんの熱い舌が、口腔内を緩慢な動きで舐め取っていく。
「んんっ、ふっ…ぅん、うぅん…」
 うっとりととろけるような表情を浮かべ、夢中でキスを堪能する秋子さん。やっぱり名雪と秋子さんはこういうところが似ているなぁ。って、感心している場合か。
「んぅ、うぅ…んっ、んぅ……」
 秋子さんの唾液と共に、俺の躰の奥に快感が流し込まれてきているような錯覚に陥る。背筋が震えるほどの愉悦に、頭が沸騰したように熱くなり始めた。
「ううー」

「んっ…ぅ、ぅん、んっ……、……ふはぁ」
 顔をほころばせた秋子さんが、満足げな吐息を漏らしながら唇を離した。
「ぷはっ、はあっ…あ、秋子さ…秋子?」
 大きく息を吐いて、秋子さんを見つめる。
「ふぅ…すみません、祐一さん。…祐一さんのお顔を見つめていたら、つい…」
 秋子さんは瞳を細めて、うっとりとした媚笑を浮かべながら答えた。
「ついでキスしないで下さい」
「うふふぅ…いいじゃありませんか……んっ」
 また唇を塞がれる。
「むぐっ」
「んっ、んふっ、んぅっ…うぅん」
 秋子さんの舌がとろとろと口の中を這い回り、また頭の中がぼーっとしてきた。
「うー」
「んっ、んんっ………うふふ…」
 艶めかしく舌を出したまま、秋子さんが顔を離した。

「んふぅ〜…ゆ・う・い・ち・さんっ」
 へにょーっと顔をほころばせ、また顔を寄せる秋子さん。
「ちょ、ちょっと待って下さいっ」
 慌てて背中を反らし、秋子さんから身を遠ざける。
「あっ………む〜」
 秋子さんは唇を尖らせて、拗ねた表情で俺を見据えた。
「う〜…祐一さん、先程まで名雪とあんなに仲睦まじくキスをしていたのに、どうして私とはして下さらないんですかぁ…」
「え? どうしてして下さらないんですかって、いま二回も…」
「む〜、どうしてですか〜」
 秋子さんは聞いてくれていない。
「いえ、あの…」
「む〜、どうしてどうしてどうして〜」
 秋子さんは上目遣いに俺を見据えたまま、もがもがと身じろぎし始めた。
「ああああ」
 む、胸が、お尻がっ。

「わ、分かりましたっ、分かりましたから、躰を揺するのはやめて下さいっ」
 秋子さんは身じろぎをやめて、俺を見つめた。
「ん〜…じゃあ、キスしてもいいですか?」
「う…は、はい」
 駄目ですとは言えない。……そもそも嫌じゃないし。
「うふー」
 ぱっと顔を輝かせた秋子さんは、にっこり微笑んで細腕を俺の首の後ろに巻き付けた。
「あの、お手柔らかに……むぐ!」
「んちゅっ、ちゅっ、んむ、ふっ…、…んっ、んぅ、うぅんっ♪」
 あああ、いきなりスパートが掛かっているー。
「ちょ、ちょっと…うぅー」
「んふ、んっ、うぅん…んふ、んっ、んっ…ん〜…うふふぅ…」
 ああああー。

「んっ、んぅ、んん、……はぁ…」
 しばらく顔をほころばせてキスをしていた秋子さんが、ふと険しい表情で唇を離した。
「どうかしたんですか?」
「む〜……暑いんですぅ…」
 焦点の合わない瞳で呟くと、秋子さんはおぼつかない手付きでパジャマのボタンを外し始めた。
「ああっ、ちょっとっ」
「……はふ」
 前をはだけさせた秋子さんが、満足げな吐息を漏らして微笑む。パジャマに隠れて乳首は見えていないけど、豊かな膨らみが半円を覗かせていて…ああああ。
「あっ、秋子さんっ、前、胸っ」
 俺がそう言うと、秋子さんはとろんとした瞳で俺を見据えて、に〜っこりと微笑んだ。
「うふー…いいじゃありませんかぁ…私と祐一さんの仲ですし…」
 確かに一緒にお風呂に入っているし、それ以上のこともしているし、騒ぐほどのことじゃないか…って、納得し掛けてどーする。

「それでも駄目です。仕舞って下さいっ」
「……駄目ですか?」
 唇を尖らせた秋子さんが、上目遣いに俺を見つめる。
「絶対に駄目です」
「………………………………………………うゅ」
 俺をじっと見つめていた秋子さんの瞳が、じわっと潤んだ。
「え……あ、秋子さん?」
「……ふぇ……う…、…えっ、えぅ…」
 秋子さんの唇がわななき、顔が伏せられたと思うと、秋子さんはしゃくりをあげて泣き始めた。

「…えっ、えっ、えぅっ、うぇぇ……」
「ああっ? あ、秋子さんっ、あの、ええと」
 慌てて呼び掛けて、肩に手を添える。
「…えぅっ、えぅっ、えぐっ…」
 秋子さんは手の平で顔を覆ったまま、肩を震わせて泣きじゃくっている。
「…えぅ、えぅ……、…祐一さんは、私の萎びてでろでろになったおっぱいなんて見苦しいと、そうおっしゃりたいんですね…えぅ、えぅ…」
「そんなこと言ってませんっ」
「えぐ…いいんです、どうせ私のおっぱいは名雪みたいにすべすべふわふわしていませんから…」
 確かに、名雪の胸は柔らかくて揉み心地がよかった。…って、そうじゃない。
「えぅぅ〜、やっぱり〜…」
 しまった、声に出していたらしい。

 俺が口ごもっていると、秋子さんは弱々しくかぶりを振って、
「…ふぇっ、えぅっ…やっぱり私みたいな老いさらばえた女よりも、若く瑞々しい名雪の方がいいんですね…えぅっ、えぅっ」
「秋子さんだって充分若々しくて綺麗ですよ」
「…すん、すん…でも、名雪に比べたら…」
「名雪は名雪、秋子さんは秋子さんでしょう」
 秋子さんの言葉を遮るように、声を強くして言う。
「名雪は可愛いし綺麗だと思いますけど、秋子さんは秋子さんで魅力的ですよ」
「ふゅ…本当ですか?」
 すんすんと鼻を鳴らしながら訊ねる秋子さん。
「本当です」

 秋子さんは前髪で顔が隠れていて、表情は見えない。
「……んゅ…じゃあ、祐一さん…」
 秋子さんは一旦言葉を切ってから、
「…証明して下さい」
「へ?」
「……えいっ」
 いきなり、秋子さんが体重を掛けて俺を押した。
「うわっ」
 そのまま押し倒されて仰向けになった俺に、秋子さんは素早く覆い被さってきた。

「はふぅっ…祐一さん…」
 秋子さんは潤んだ瞳で俺を見据えながら、凄艶な媚笑を浮かべ、パジャマを肩から滑らせるようにして脱ぎ去った。
「あああっ」
 目の前で、秋子さんの張りのある乳房が大きく揺れながら露わになる。
「ちょ、ちょっと、秋子さんっ?」
 秋子さんは唇を尖らせて、
「秋子です」
 躰をずらして、胸で俺の顔を挟み込んだ。
「むぐぅっ」
 柔らかく温かい乳脂が、包む込むように俺の顔を圧迫する。
「秋子ですよ、祐一さん♪」
「う、うう…秋子〜」
 俺がくぐもった声でそう言うと、秋子さんはくすぐったそうに躰をくねらせた。
「あふっ…祐一さんの、息が…ああん♪」
 秋子さんが躰を揺するたびに、俺の顔を包んでいる乳房がぼよんぼよんと波打つ。
「あううあー」

「ううっ…あ、秋子さ…秋子っ?」
 秋子さんの胸の谷間から、声を振り絞る。
「はぁい? なんですか、あ・な・た♪」
「あの、今のって泣き真似だったんですか?」
 秋子さんはにっこりと微笑んで、
「うふふ、秘密です」
 はぐらかされた。

「はぁっ…祐一さん…」
 うっとりと溜め息を吐き、うずうずと躰を揺する秋子さん。
「あああっ、ちょ、ちょっと…うー」
「んんんっ…あはぁっ」
 秋子さんは俺の息がくすぐったいのか、瞳を伏せて肩をわななかせている。

「ううー、むぐぅ」
 …いかん、理性が押し流される。
「うふふ、大丈夫ですよ祐一さん」
「何がですか」
 秋子さんは潤んだ瞳で俺を見据えて、
「これから起こることは、お酒の上の不埒ですから♪」
 子どもっぽい微笑と、情婦のような媚笑とが入り交じった笑顔を浮かべる秋子さん。
「それは普通、男が言い訳に使う言葉ですっ」
「いいじゃありませんか……えい♪」
「あー」

 ・
 ・

「…はふ♪」
 汗を含んでしっとりと重くなった髪の毛をかき上げ、秋子さんが満足げな溜め息を吐いた。
「うふふ、お疲れ様でした…」
 ねぎらうように俺のほほを撫でながら、にっこり微笑む秋子さん。
「…、……」
 俺は疲れすぎていて、声も出せない。
「…あふぁ…」
 まだ余韻が残っているのか、秋子さんは惚けた表情でふらふら頭を左右に揺らしている。

「ふぅ…大丈夫ですか、祐一さん」
 俺の顔を覗き込みながら、秋子さんが囁いた。まだ濃い薔薇色に紅潮したままの目元が艶めかしい。
「……はい」
 ぐったりとなったまま、うなずいて答える。
「あのー、ところで秋子さ…秋子、訊きたいことがあるんですけど」
「はい、なんでしょうか」
 ほえっと小首を傾げる秋子さん。
「今、酔ってるんですか、酔ってないんですか?」
 秋子さんはほほに手を当てて、少し考え込んでから、
「うふふ、秘密です」
 またはぐらかされた。

「さ、祐一さん、一休みできましたね?」
 秋子さんはそう言うと、躰を浮かせて俺に覆い被さった。
「え!? ちょ、ちょっと待って下さい、もう無理ですよっ」
「私は大丈夫です」
 のほほんと言い切る秋子さん。
「秋子さんは大丈夫でも、俺は無理ですっ」
「何をおっしゃっているんですか、お若いのに」
 秋子さんは可笑しそうに微笑み、俺のほほを撫でる。
「それにほら、こうすれば…」
 秋子さんが呟くのと同時に、下腹部から背骨、脳髄までを、電撃のような快感が走り抜けた。
「うっ!」
「うふふ、大丈夫みたいですね。…それでは♪」
 秋子さんは瞳を細めて微笑むと、腰を浮かせた。
「あー」

                                      《当日 その十二に続きます》

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 星牙でございます。
マキ「マネージャーの小原マキです」

 お酒を呑むと確実に寝てしまう(本当)小生が描ける酒宴はこんなもんです。
マキ「祐一が酔っておらんぞ」
 うぃ、すいません。切腹。

 お読みいただきありがとうございました。
マキ「それでは、ご機嫌よう」

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