愛の劇場 『名雪女』
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第壱幕 吹雪の夜
ゴォォォォー… 凄まじい吹雪が渦を巻いて吹き荒れ、一メートル先も見通すことが出来ません。
雪が降り積もった山道を、二人の男が歩いています。
斉藤「おーい、相沢ぁー。生きているかぁー」
祐一「今にも死にそうだぁー」
斉藤「しっかりするんだー。もうすぐ山小屋があったはずだー」
激しく吹き荒れる吹雪の中を歩いているのは、村の若者の相沢祐一と、その友人の斉藤でした。
二人は都にナンパをしに行き、その帰り道で吹雪に出遭ったのです。自業自得です。
斉藤「相沢、だいたいお前がいつまでも女の子の尻追いかけていたから、こんな事になったんだぞ」
祐一「悪かった。…ちっくしょう、それにしてもあのパー女め! 『アタシィー、田舎臭いヒトってナンか苦手って言うかぁー』だとぉ!? ふざけてんじゃねぇぞ! テメェこそ何処かの島の土人みてえなツラしやがって!」
斉藤「お前、その発言はやばいぞ…」
そうこう言ううちに、二人は山小屋にたどり着きました。
祐一「ふうう、助かった」
小屋に入った二人は、身体に付いた雪を払いました。
祐一「うう、寒い、寒い」
火を起こしたかったのですが、炭も火打ち石もありません。
斉藤「相沢、部屋の真ん中でみのを被っているんだ」
祐一「ああ」
斉藤「朝までには吹雪も止むだろうから、ここでじっとしていよう」
ゴォォォー… ガタン、ガタガタ 吹雪は休み無く吹き続いています。
祐一「寒いー、寒いー」
祐一君は震えています。
斉藤「…」
祐一「…斉藤、お前寒くないのか?」
斉藤「寒い」
祐一「そうか…」
斉藤「……。相沢」
祐一「ん?」
ふと気付くと、斉藤君は祐一君をじっと見つめていました。
斉藤「そんなに寒いのか?」
祐一「ああ。死にそうだ」
斉藤「…暖めて欲しいか?」
祐一「あ? ああ。そりゃあ出来ればな。でも、どうやって…」
斉藤「もちろん、こうやってさ!」
と、斉藤君は祐一君に覆い被さりました。
祐一「うおぁっ! な、何するんだっ!」
斉藤「俺が、暖めてやるよっ」
ガサッ、ガサッ
祐一「ま、待てっ。そこまでしてくれなくてもいいっ。うわぁっ」
斉藤「遠慮なんかすんなよ。俺とお前の仲だろぉ」
斉藤君の手が、妖しく蠢きます。
祐一「俺とお前の仲はこんなんじゃねぇー。ひゃあっ」
斉藤「祐一、祐一ぃ。ああ、俺、ずっと前から祐一のこと…!」
名前を呼んできました。危険です。振り払おうにも寒さで身体が動きません。
祐一「って、何でお前は自由に動けるんだ?」
斉藤「愛さ。愛が俺を無敵にしているのさ!」
イヤな愛です。
ついに押さえ付けられてしまいました。
祐一「ひぎゃあぁぁー! だ、誰か助けてくれぇー!」
斉藤「大丈夫だよ祐一、痛いのは最初だけだっ!」
祐一君の貞操の危機です。
祐一「かっ、神様! 俺、いい子になります! だから助けて下さいぃぃ!」
『困ったときの神頼み』とはこのことです。
斎藤「祐一、愛してるぜ!」
祐一「…雪、雪を見ていた…」
もうだめだ、と祐一君が諦めて現実逃避しようとしたときです。
バターン!! 突然山小屋の扉が開きました。
名雪「そこまでだよっ!」
そして、真っ白な着物を着た女が吹雪と共に飛び込んできました。
斉藤「むう、なに奴!」
祐一「か、神さま!?」
名雪「祐一はわたしの物なんだよっ。ホモ野郎になんか指一本触れさせないもん!」
なんだか迫力があるのか無いのかわかりません。
斉藤「ククク、馬鹿め! 既に祐一の身体は頂いたわ!」
ガァーン!!!
名雪「そ、そんなっ…わたしが寝過ごしたばっかりに、祐一が傷物に…」
祐一「なってねーよ! それよりお前、今聞き捨てなら無いコト言わなかったか?」
名雪「き、気のせいだよっ。良かった、祐一が無事で!」
斉藤「フフン、同じ事だ。夜はまだ長いのだからな…。さあ祐一、続きだっ」
祐一「うわー!」
名雪「危ない、祐一!」
白い着物を着た女は氷柱(つらら)を手にして駆け寄りました。大きく振りかぶって、
名雪「えーいっ!」
バゴッ! グシャア!! 白い(略)女は氷柱で斉藤君の頭を一撃しました。ヤバイ音がしました。
斉藤「ぎゃあっ」
ドサッ。ドクドクドク。倒れた斉藤君の頭から、血が止めどなく溢れ出しました。
祐一「お、おいおい。これはいくらなんでもやばいぞ」
白い(略)女は斉藤君の亡骸に目を落とし、
名雪「…祐一。これは二人だけの秘密なんだよ」
祐一「あ? 秘密って…おい!」
見ると、白い(略)女の姿はだんだんおぼろ気になっていっています。
名雪「わたしの事を誰かに話したら、ひどい目に遭わせるから、覚悟しておくんだよ」
それは明らかに脅迫です。
祐一「ちょっと待て! それって、斉藤殺しの罪を俺一人に押し付けるって事じゃないのか!?」
名雪「そういう事だよ。わかったら、返事! (ギラッ!)」
お母さん譲り(?)の凄まじい眼光です。さすがです。
祐一「うっ。は、はいっ。わかりましたっ」
名雪「わかればいいんだよ〜……」
そう言うと、女の姿は完全に消えました。
祐一「はぁ、はぁ、はぁ…。はぅっ」
ドサッ。気が抜けた祐一君はその場に倒れ込み、気を失ってしまいました。
第二幕 雪山〜山小屋
朝になりました。吹雪も止み、青空が広がっています。
都に行った二人が帰ってこないのを心配した村人達が、山を登っています。
栞 「お姉ちゃん、雪がこんなにありますよ。一緒に大きな雪だるま作りましょう」
香里「栞、あたし達は遊びに来たんじゃないのよ」
栞 「あっ、そうでしたっけ」
美汐「真琴、足下に気を付けて」
真琴「大丈夫よぅ。あっ、…あぅーっ」
ずるっ。ごろんごろんごろん。真琴ちゃんが足を滑らして転がっていきます。
美汐「あっ、真琴っ」
秋子「あゆちゃんも、気を付けてね」
あゆ「うんっ。あっ、…うぐぅー」
ずるっ。ごろんごろんごろん。あゆちゃんも足を滑らして転がっていきます。
秋子「あらあら」
舞 「…面白そう」
佐祐里「あははーっ」
遊びに来ているようにしか見えません。
やっと山小屋に着きました。
真琴「祐一、生きてるー?」
ガラッ。扉を開けると、そこには頭から血を流して倒れている斉藤君と、同じく倒れている祐一君の姿があったのです。
あゆ「…うぐぅ?」
栞 「きゃあっ!」
香里「栞、見ちゃ駄目よ!」
素早く検死をする美汐ちゃんと佐祐里ちゃん。
佐祐里「祐一さんは、まだ生きてますー」
美汐「…。斉藤さんは死亡しています。死因は頭部への強い打撃によるショック死であると思われます」
真琴「あっ! 真琴、こういうの見たことある」
あゆ「え?」
真琴「きっと、二人は…」
(以下、真琴の説明)
吹雪の夜、山小屋の中という密閉空間で極限状態に陥った二人は、お互いの身体を求め合う!
祐一「…斉藤、寒いだろ。俺が暖めてやるよ」
斉藤「祐一…」
祐一「一(はじめ)!」
がしぃっ! 抱き合う二人!
斎藤「あぁっ…くっ、す、すごいよ祐一…うっ!」
祐一「はぁぁ、はぁぁ……一、一ぇ…!」
暗闇の中、二人の身体が重なり合って、絡み合うの! もう誰も二人を止められないっ!
祐一「大丈夫だ一。力を抜いて…」
斉藤「うぁっ、い、痛いよ祐一っ」
祐一の(ピーッ!)が、斉藤の(ダダダダッ!)に(ドッゴーン!)して、(バギューン!)るの!
〈作者註:細かい描写は割愛させていただきます〉
斉藤「うぁぁっ! 止めてくれっ」
必死の思いでなんとか逃げ出した斉藤は、祐一を拒むの。
斉藤「い、嫌だっ! 俺、やっぱり女の子がいい!」
祐一「クッ、そうかよ。…畜生、俺の物にならないのなら、いっそこうしてやる!」
祐一は鈍器を手にして、
斉藤「よ、よせ相沢っ。早まるな!」
斉藤の頭を! バゴッ!
斉藤「ぎゃあっ」
ドサッ。倒れる斉藤。祐一は虚ろな目で斉藤を見下ろして、
祐一「一…。お、お前が悪いんだぞ。俺の愛を受け入れてくれなかったお前が…」
ガクッ。血塗れの鈍器を手に、祐一は罪の重さに耐えられず、気絶。
(説明、終了)
真琴「祐一と斉藤、二人が描く禁断の愛憎劇! 間違いないわっ」
あゆ「ち、違うと思うよ…?」
真琴「どうして? 筋は通っているじゃない」
通ってません。
あゆ「うーん」
悩んではいけません。
佐祐里「あははーっ。つまり、二人は痴情のもつれからこうなったというワケですねーっ」
真琴「うん、きっとそう!」
なんでやねん。
栞 「そ、そんな…。祐一さんが、ホッ、ホモだったなんてっ…」
香里「栞、しっかりして。まだそうと決まった訳じゃないわ」
栞 「お姉ちゃん。でも、でもっ」
香里「大丈夫! まだ相沢君はバイセクシャルだったって言う可能性もあるわ!」
説得の方向性がずれています。
秋子「祐一さんの性癖がどうであっても、このままというわけにはいきませんね」
皆が話し合っている間、祐一君は野ざらし状態でもう凍死寸前です。
秋子「とりあえず、祐一さんを村まで運んであげませんと」
真琴「えーっ。真琴、ホモになんか触りたくないっ。何か伝染りそう!」
それは誤解ですが、まぁ気持ちはわかります。
佐祐里「あははーっ。佐祐里は構いませんよー」
舞 「…祐一は友達だ」
美汐「私もお手伝いします」
あゆ「ボクもっ」
さすが、ここぞという時に頼もしい人たちです。
真琴「あぅー。わかったわよぅ、真琴も手伝う」
香里「栞、あなたは先に村に帰って他の皆を呼んできて」
栞 「うんっ」
戸板に乗せられて、斉藤君と祐一君は運ばれていきました。
第三幕 村〜祐一の家
翌日、祐一君は目を覚ましました。
祐一「う…」
あゆ「あっ。祐一君、目を覚ましたんだね」
布団に寝かされていた祐一君は周りを見回して、
祐一「あゆ…。ここは、俺の家か」
あゆ「うん。大丈夫? どこか痛くない?」
祐一「ああ。何ともない。それより、どうして俺は…」
あゆ「祐一君、山小屋で倒れていたから皆で村まで運んできてあげたんだよ」
祐一「俺が、山小屋で? …!!」
その時、祐一君は全てを思い出しました。
祐一「そうだ。俺は…」
都にナンパしに行って、吹雪に遭って山小屋に転がり込んで、斉藤に迫られて、斉藤が白い服を着た姉ちゃんに撲殺されて、その女に脅迫された!
こうして列挙すると妙な迫力に満ちていますね。
あゆ「ね、ねえ祐一君」
祐一「何だ?」
あゆ「その、祐一君って…ホ、ホ、ホ…」
祐一「あゆ。変な笑い方するな」
あゆ「うぐぅ、そうじゃなくて」
祐一君は、自分にホモ疑惑がかかっているなどとは夢にも思っていません。
あゆちゃんが訊きあぐねていると、
ガラリ。扉が開き、秋子さんが入ってきました。
秋子「失礼します。祐一さん、お起きになられたのですね」
祐一「秋子さん。はい、心配掛けて、すいませんでした」
秋子さんは一瞬暗い顔をしましたが、すぐに毅然とした表情で、
秋子「祐一さん。あなたを斉藤一殺人容疑で逮捕します」
祐一「ええっ!」
秋子「連行します。抵抗をすれば、身の安全は保証しません」
秋子さんの後ろから舞ちゃんと香里ちゃんが出てきました。
香里「相沢君。まさか、あなたをこの手で捕まえることになるなんて…」
舞 「…抵抗しないでほしい。祐一に怪我をさせたくない」
祐一「え、ちょっと、待ってくれ!」
美汐「相沢さん。あなたには黙秘権があります。またあなたには弁護士を雇う権利があり、…」
ガシィ! 両手を捕らえられた祐一君は、そのまま連れて行かれました。
第四幕 秋子さん邸の庭
秋子さん邸の庭です。傍聴席には全員が揃って、庭の真ん中にいる祐一君を見つめています。
上座に陣取った秋子さんが口を開きました。
秋子「祐一さん。あなたは斉藤さん殺害の容疑を認めますか?」
祐一「待って下さいよ、秋子さん! 俺じゃありません!」
検死官の美汐ちゃんが挙手をして、話し出しました。
美汐「斉藤さんの頭部には何者かに依る打撲傷が確認されています。自然死ということは考えられません」
秋子「祐一さん、聞いた通りです。自分ではないと仰るのでしたら、誰がやったと言うんですか?」
祐一「そりゃあ、」
名雪『わたしの事を誰かに話したら、ひどい目に遭わせるから、覚悟しておくんだよ〜』
ビシッ。祐一君は固まりました。
祐一「う、ううっ」
秋子「? どうしたのですか?」
祐一「い、いえ、何でもありません。…斉藤を殺したのは、」
名雪『(ギラッ!!)』
祐一「くっ…。お、俺、です…」
ガクッ。膝をつき、肩で息をしている祐一君。
あゆ「そ、そんな…」
真琴「あぅ、やっぱり」
栞 「祐一さんが…」
三人は口を揃えて叫びました。
あゆ・真琴・栞「「「ホモだったなんて!!」」」
祐一君は目を見開き、
祐一「ちょっと待て! 何だそれは、いつの間にそうなった!?」
真琴「えっ、だって今認めたじゃない」
祐一「ホモだなんて言ってねーよ!」
真琴「えーっ。だって、祐一と斉藤は山小屋で…」
真琴ちゃんの推理を聞いた祐一君は、
祐一「全然、違うわぁぁっっ!! 襲われたのは俺だぁっ!!」
真琴「ええぇーっっっ!?」
祐一「そんなに大げさに驚くなぁっ!」
あゆ「じゃあ、祐一君はホモじゃないんだね!」
祐一「当たり前だぁぁっっ!!」
祐一君は元気になったようです。
栞 「良かった、祐一さんがホモじゃなくて…。うっ、グスン」
香里「栞…。泣きたかったら思い切り泣いても良いのよ」
栞 「お姉ちゃんっ」
祐一「そこ! 感動的に見せるな! 俺にとっては冗談ごとじゃ済まないところだったんだぞ!」
佐祐里「あははーっ。佐祐里はずっと祐一さんのこと信じていましたよー」
祐一「さ、佐祐里さん…(感動)」
舞 「…佐祐里、嘘つき」
佐祐里「舞、何か言いました?」
舞 「…」
祐一君は斉藤君に襲われ、抵抗した際に誤って殺してしまったと話しました。
祐一(いくら何でも信じてもらえないよな…)
諦めかけていると、
秋子「了承」
祐一「え!?」
祐一君は無罪放免されました。
祐一「いいんですか!?」
秋子「斎藤さんですから」
酷いです。不遇な斎藤君の魂は、天に召されるのでしょうか。
第五幕 山道
あの事件から一年が経ちました。季節は再び冬です。あれから祐一君は真面目に山仕事をしています。
祐一君は今日の仕事を終え、山からの帰り道を歩いていました。
祐一「ん?」
ふと見ると、道端に一人の女性が座り込んでいます。
名雪「くー」
寝ていました。
祐一「…」
本能的に嫌な予感がした祐一君は、見なかった振りをして立ち去ろうとしました。賢明です。
ですが女性は起きてしまいました。
名雪「うにゅ…」
目を覚ました女性は祐一君の顔を見るなり、
名雪「あっ。わたし、道に迷って困っているんだよ。だから一晩宿を貸して」
とんでもなく横暴な発言です。
祐一「イヤだ!」
祐一君ははっきり拒絶しましたが、女性は聞いちゃいません。
名雪「わたし、名雪って言うんだよ。よろしくね」
さっさと歩き出しました。
名雪「ゆ…、あ、あなたなんて言うの?」
祐一「ンジョルジャ・パピュロッティーニョ三世」
名雪「ふうん、祐一って言うんだ」
祐一「……(手強い!)」
祐一「それで、あんたはどこに行くつもりなんだ」
名雪「祐一の家」
名雪ちゃんはシレッと答えました。
祐一「…。それで、あんたはどこに行くつもりなんだ」
名雪「ひどいよ祐一〜」
本当に付いてきました。
祐一「憑いてきたの間違いじゃないのか」
名雪「祐一、本当にひどいこと言ってるよ〜」
こうして名雪ちゃんは押し掛け女房になりました。
秋子「了承」
村の皆は綺麗で働き者の名雪ちゃんのことを気に入って、歓迎しました。
祐一「…」
実際、名雪ちゃんは少し(少し?)寝ぼすけさんでしたが、明るくてよく働く上に美人で、そしてとどめにぷりぷりの身体だったので、元来女好きの祐一君は名雪ちゃんの事が好きになり(正確には色香に負けて手を出し)、やがて二人は結婚しました。不潔ですね。
名雪「祐一ったら、お風呂上がりのわたしを無理矢理…ぽっ」
祐一「わー! わーっ! わあーっ!」
最終幕 祐一の家〜吹雪の夜
4年の月日が流れました。祐一君と名雪ちゃんの間には12人の子供が産まれ(伏線)、大賑わいでした。
ある冬の夜のこと。空には雲一つなく、お月様が浮かんでいます。祐一君の家では、子ども達がみんな遊び疲れて眠っています。
名雪ちゃんは珍しく起きて祐一君と一緒に話をしていました。
祐一「…名雪。俺はこうしてお前を見ていると、5年前に出会ったある女のことを思い出すんだ」
ピクッ。名雪ちゃんが一瞬はっとしたような顔をしましたが、祐一君は気付きませんでした。
名雪「…その女の人って、どんな人?」
祐一「ああ。あんまり良い思い出じゃあないんだけどな」
祐一君は話し始めました。
祐一君は吹雪の夜のこと、そこで斉藤君に襲われたこと、そして白い着物の女性のことを話しました。
祐一「それで俺は脅迫されて、前科者になっちまったんだよ。まあ貞操を護ってもらったんだから、文句を言う筋合いはないんだけどな」
名雪「…」
祐一「無茶苦茶怖かったぞ。こう、暗闇の中に白くて綺麗な肌と、蒼い眼…が…」
ふと気が付くと、行燈の火が消え、部屋の中には月明かりが差していました。
名雪ちゃんは暗闇の中から祐一君を見つめています。蒼い瞳で…。
祐一「あ、あ…」
名雪「…話してしまったんだね。誰かに話したら、ひどい目に遭わすって言っておいたのに」
ギラリ。名雪ちゃんの目が輝きました。
祐一「な、名雪。お前があの時の…」
名雪「ひどいよ、祐一。ずっと一緒にいられると思っていたのに…」
祐一「名雪…」
ギン!! 名雪ちゃんの眼の光が増しました。
名雪「死んでもらうんだよっ!」
いつの間にか、名雪ちゃんの手には氷柱が握られていました。
名雪「えーいっ!」
ブンッ! 名雪ちゃんは勢いよく氷柱を振り下ろしました!
祐一「おわぁっ!!」
ガシャン! 祐一君は床を転がって避け、氷柱は床にぶつかり砕けました。
祐一「ちょっと待て! ここで『子どものことを思うとあなたは殺せない』って言うんじゃないのか!?」
名雪「女を裏切ったら怖いんだよ!」
ブン、ブンッ! 名雪ちゃんは問答無用で新たな氷柱を振り回します。
祐一君は床を転がって避けながら、
祐一「ま、待て名雪! 俺はお前を愛しているぞ! だから…」
まるっきり間男のセリフです。
名雪「嘘っ! 祐一はただの女好きじゃない!」
祐一「いや、そんなことはないぞっ」
名雪「じゃあどうして結婚4年で12人の子どもがいるのっ!?」
そう、確かにその通り(伏線回収)。
祐一「クッ、気付かれないと思っていたのに…!」
名雪「去年ぐらいから、なんかおかしいなって思っていたんだよ!」
普通はすぐに気付くのですが。
祐一「…双子とか三つ子とか」
名雪「わたし生んでないもん!」
<問.1 祐一君と名雪ちゃんの子どもはどれでしょう。番号で答えて下さい。(2秒:300点)>
子ども:1 「うにゅ」 子ども:7 「そんなこくなことはないでしょう」
子ども:2 「ことばどおりよ」 子ども:8 「うぐぅ」
子ども:3 「あぅー」 子ども:9「そんなこというひときらいです」
子ども:4 「りょうしょう」 子ども:10 「うにょ」
子ども:5 「くー」 子ども:11 「あははーっ」
子ども:6 「だおー」 子ども:12 「…きらいじゃない」
名雪「村の女の子全員じゃない! …クッ、お母さんにまで手を出していたんだね!!」
祐一「いやぁ、この話では血が繋がって無かったし、つい」
名雪「ついじゃないんだよ! 祐一の人でなし!」
名雪ちゃんは切れました。
名雪「この女の敵! 覚悟するんだよ!!」
バッ! 名雪ちゃんは呪文を唱え、手を振り下ろしました。
名雪「シュトゥルム・ザメルザニィエ!!」
<問.2 和訳して下さい。英語ではありません。(6秒:1000000点)>
ゴヒュウウゥ!! 凄まじい吹雪が放たれました。
祐一「ちょ、ちょっと待て! これはいくらなんでもっ…」
祐一君、大ピンチです。
ガラッ!! その時、突如小屋の扉が開き、
久瀬「相沢っ! キサマ、佐祐理さんを孕ませたそうだな!! 許せん!」
祐一「おおっ、久瀬! いいところに来た、こっちだ!」
グイッ。すかさず祐一君は久瀬の手を引っ張り、盾にしました。
久瀬「なっ、何をっ。…!!!」
ビキィ!! 久瀬の身体は一瞬で凍り付き、
久瀬「はがっ!」
ガシャァーン!! 砕け散りました。
パラパラ…。氷の結晶が月の光を浴びて煌めいています。
祐一「…」
名雪「ええっと…」
と、名雪ちゃんの姿が霞始めました。
名雪「祐一。あなたは許せないけれど、子ども達のことを想うとあなたを殺すことは出来ない…」
祐一「今さらそんなこと言って逃げるなぁっ!」
ガシィ!! 祐一君の見事なタックルが決まって、名雪ちゃんは捕まりました。
名雪「あんっ」
そのままもつれ合って倒れ込む二人。ぱっと見には『若妻に襲いかかる亭主』という感じです。
名雪「祐一、離してっ」
祐一「逃がすか!」
ばたばたと暴れる名雪ちゃんを抑え込もうとする祐一君。何と言うか、ますますアレな雰囲気です。
あまりの騒ぎに、子ども達が起きてしまいました。じゃれ合いながら暴れる(?)二人を見て、
あきこ「あらあら」
みしお「…。おとうさん、おかあさん。わかいのはわかりますけれど、もうすこししずかにあいしあっていただけないでしょうか」
まい 「…みしお、ちょっとろこつ」
さゆり「あははーっ」
かおり「まったく、せいこういをみたこどもが『おとうさんがおかあさんをいじめている』っていうとらうまをもつことがあることぐらいしっておいてほしいわ」
しおり「おねえちゃん、ほんとうにこども?」
名雪「そうじゃないんだよ」
あきこ「どうしたの、なゆき。おちついてはなしなさい」
娘(血は繋がっていませんが)にたしなめられる名雪ちゃん。
祐一「ああ…実はな」
事情を話しました。
あゆ「うぐぅ、たいへんだよ」
まこと「あぅ」
子どもでも違和感がありませんね。
さゆり「あははーっ。そんなことですかー。しんぱいしなくてもだいじょうぶですよー」
祐一「どうしてだい」
さゆり「それはですねえ、くぜさんなんかがいなくなっても、きにするひとはいないからですー」
祐一「おおっ! なるほど、それもそうか!」
それもそうか、じゃありません。
さゆり「ゆきのおかげでくぜさんがこんやうちにきたというしょうこもなくなっていますし、したいもはっけんされないでしょうから、ぜんぜんおっけーですよー。おとうさんもおかあさんもしらんぷりしていればいいんですー」
みしお「そうですね。ゆかにちらばったはへん(凍った肉塊)がとけるまえにほうきででもはいておけば、かんぺきでしょう」
あきこ「りょうしょう」
凶悪です。子どもゆえの残酷さでしょうか。
あゆ「うぐぅ、ちがうとおもうよ」
祐一「さすがだ、俺に似て賢いぞ(←きっと違います)! それに比べて…」
なゆきこ「くー」
こなゆき「だぉー」
ゆきな「うにゅ」
ゆうな「うにょ」
名雪「ひどいよ祐一〜」
祐一「まだ何も言ってないぞ」
名雪「言わなくても分かるよ〜」
祐一「ははははは、さあ夜も遅い。みんな寝よう」
名雪「祐一、爽やかに笑って誤魔化そうとしてるよ〜」
翌日。
空は晴れ渡り、小鳥たちが元気に歌っています。
ガラガラ。扉を開けて、祐一君達がお家から出てきました。
祐一「おお、いい天気だ」
あきこ「ええ、ほんとうですね。ゆういちさんはきょうのごよていは?」
あゆ「あきこさん、それむすめのせりふじゃないよ」
さゆり「あははーっ」
まい「…おなかがへった」
まこと「あぅー、あたしも。おなかすいたぁ」
みしお「おかあさんがまだねていますから、わたしたちがよういするしかありませんね」
かおり「しかたがないわね。しおり、うらからやさいをもってきて」
しおり「はい、おねえちゃん」
名雪「くー」
こなゆき「ごはんだぉー」
なゆきこ「うにょ」
ゆきな「わたしたち、せりふこれだけ?」
ゆうな「そうみたいだぉー」
山奥、雪に閉ざされた村の中、祐一君家族は今日もみんな仲良しです。
めでたしめでたし。
名雪「…ねえ祐一。わたし、何か忘れているような気がするよ」
祐一「ははは、気のせいだ(汗)」
愛の劇場『名雪女』 おしまい
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今日の犠牲者
斉藤 一(さいとう はじめ) 享年16歳 死因:打撲症
久瀬 克彦(くぜ かつひこ) 享年17歳 死因:凍死(?)
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愛の舞台裏
祐一「お疲れーっ…って、あれ? 何で誰も居ないんだ」
名雪「…祐一」
祐一「うわっ! な、名雪か。脅かすなよ」
名雪「…みんなから聞いたよ」
祐一「な、何を? おい、お前眼が光ってるぞ?」
名雪「これが証言MDだよ」
カチャ。
あゆ『うぐぅ。祐一君優しくしてくれるけど、時々赤ちゃんプレイとか恥ずかしいことさせられた』
栞 『祐一さんは…ええっと、拭いてくるんです。私の、その…(もじもじ)』
香里『よくもあたしの栞を……相沢君、覚悟しときなさい!!』
真琴『あぅ…よく狐の耳と尻尾を付けさせられた』
美汐『…相沢さんは、その…お、幼妻プレイを……ゴホン、ゴホンッ』
舞 『…祐一は優しくしてくれた…(ぽっ)』
佐祐理『佐祐理はメイド服のイメージプレイを頼まれることが多かったですねー』
秋子『祐一さんは裸エプロンが特にお気に入りでした』
カチャ。
祐一「……」 タタタタ。無言で逃げる祐一。
名雪「逃がさないよ!!」 ギヌァ!! 名雪の眼が蒼く輝く!!
ビキッ! 祐一の足下が凍りついた!
祐一「うわっ!」
パキッ。パキン。動けない祐一に、ゆっくりと氷を踏みしめながら近付く名雪。
名雪「覚悟は出来てるんだよっ!」
祐一「お、俺は出来てないっ」
名雪「わたしが祐一を殺す覚悟だよっ!!」
祐一「ひあーっっ!!」
ドカバキ、ガス!! ガゴッ、ドカーン!! グシャア!! メキメキメキ!! ……
愛の舞台裏 おしまい
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今日の犠牲者・追加
相沢 祐一(あいざわ ゆういち) 享年17歳 死因:不明
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星牙でございます。
マキ「マネージャーの小原マキです」
斉藤君がホモになったり、久瀬君が死んだり、祐一が死んだり、どえらいことになっていますな。
マキ「そなたが描いたんじゃろーが」
うい。真面目な話になるけれど、この作品で『凶暴な名雪女史』が小生の内部で確立され、以後暴力に訴える名雪女史が『お茶目な秋子さん』等で猛威を振ることになるのだよ。
マキ「ほう」
書いた当初はそんなこと気付きもしなかったもんだけどね。そう思うと、人生何がどう転ぶか分からないもんだ。
お読みいただきありがとうございました。
マキ「それでは、ご機嫌よう」
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