※原典『牡丹灯籠』をご存知でない方のための簡単なあら筋

 あるところに、恋人同士の男の人と女の人がいました。
 しかしある時、女は病に倒れて世を去ってしまいました。しかし、女は幽霊になって男のところに現れました。
 男は女が幽霊であることに気が付かずに、毎夜女と逢っていました(←意味分かりますね)。
 友人の話から女がすでにこの世の者ではないことを知った男は、お札を貼って女から身を守ろうとします。ですが友人の裏切りによって失敗し、女の幽霊にとり殺されてしまいました。おしまい。

 このあら筋からご察し出来るように、本作品は17禁ぐらいです。お気をつけ下さい。では、開幕です。

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 愛の劇場 『牡丹灯籠』

 〈第一幕〉

 時は江戸時代。とある片田舎に、祐一という男がいました。祐一にはお露という隣町に住む恋人がいました。
祐一「また女の人の方の名前だけ原典通りなのか」
 ある秋の日、祐一はお露を待って駅のベンチに腰掛けていました。降りしきる雪が祐一の上に降り積もり…。
祐一「違うだろ!」
 もとい、橋のたもとにたたずんでいました。

祐一「遅いな、お露さん。…って、お露さん役は誰だよ」
 賢明なる読者の方々は全員(断言)気が付いておられるでしょうから、あえて言いますまい。
? 「祐一さーん」
 明るい声で名前を呼ばれ、祐一は振り向きました。
祐一「あっ、お露さ……ん……」
 そして、そのまま硬直しました。

秋子「お待たせしました、祐一さん」
 お露は息を整えながら、上気した頬を隠すように手を当てて微笑みました。
秋子「あら、どうなさったんですか」
祐一「………」
 祐一はしゃがみ込み、気を落ち着かせるために地面を見つめてから立ち上がりました。
祐一「…どうして秋子さんなんですかっ。この設定だったら、普通あゆでしょう!」
 祐一が語気鋭く言うと、お露は眼を見開き、唇を震わせました。
秋子「ひどい…。出てきた途端にそんなふうに言わなくてもいいじゃありませんか…」
 お露の瞳から涙がこぼれました。
祐一「わっ! な、泣くほどのことですかっ!?」
 慌てる祐一。
秋子「………ぐすっ…、分かりました。もういいです」
 涙を振り払うと、お露は橋を降りて川辺の方に向かいました。
祐一「あ、秋子さ…じゃない、お露さん、どこへ行くんですか」
秋子「死にます」
 言い放ち、ずんずんと川辺に脚を進めるお露。
祐一「ええっ!? ちょ、ちょっと、待って下さい!」
秋子「放っておいて下さい」

 お露は河に脚を踏み入れると、ためらうことなく河の真ん中に向かって歩いていきます。
祐一「秋子さ…じゃない、お露さん、はやまらないで下さい!」
 河に入り、追い掛けながら叫ぶ祐一。
秋子「どうせ私は死ぬんですから同じ事です。幽霊になって、毎晩お皿を数えます」
祐一「それは皿屋敷です!」
秋子「じゃあ、飴を買いに行きます」
祐一「全然違う話ですよ!」
 じょじょに河は深くなり、祐一とお露は胸元まで水に浸かっています。
秋子「……このまま無理心中すれば、お話は終わりですね」
 振り向き、自嘲気味な笑みを浮かべながら言うお露。
祐一「洒落にならないこと言わないで下さい!」
 しかし、このままでは本当にそうなってしまいます。

祐一「…ううっ、俺が悪かったです。すいません、戻ってきて下さい」
 根負けし、祐一は白旗を揚げました。
秋子「…私がお露さんでいいですか?」
 パッと顔を輝かせながら言うお露。
祐一「いいです。もう何でも」
 投げやりな祐一。
秋子「分かりました。じゃあ戻ります」
 お露が身体の向きを反転させ、一歩踏みだした途端、
秋子「あっ…」
 お露は脚を滑らせ、河の深みにはまり込みました。
秋子「ガボッ」
 水を飲んだお露は気を失い、河に流され始めました。
祐一「あっ、秋子さんっ!?」
 祐一が間一髪のところでお露の腕を掴み、引き寄せました。
祐一「くっ、とにかく岸に…」
 お露を抱きかかえ、祐一は岸まで泳ぎ切りました。

祐一「ふう…やれやれ」
秋子「…………」
 気を失い、ぐったりとなったお露を岸に横たえ、祐一は大きく息を吐きました。
祐一「秋子さ…じゃなかった、お露さん、しっかりして下さい」
 肩を掴んで軽く揺さぶりましたが、お露は眼を閉じたまま動きません。
祐一「まずいな、水を飲みすぎたのかな」
 お露の顔色は悪くなる一方です。
祐一「これは…あれだな、…人工呼吸しかないよな」
 誰に確認しているのでしょうか。

 祐一は人目をはばかるように周囲を見回し、お露の首を持ち上げました。
祐一「……………」
 ぷくっと可愛く膨らんだお露の唇を見つめ、硬直する祐一。
祐一「…違う、落ち着け俺。…これは人助けだ、人助け…」
 何やらぶつぶつ言っています。祐一はお露の首の後ろを持ち上げ、鼻をつまみました。
秋子「………」
 お露の唇が小さく開きました。
祐一「………。…すっ、すいませんっ」
 祐一は意を決し、ぐっと唇を押し付けて息を吹き込みました。

祐一「………ふぅ」
 いったん口を離し、深く深呼吸をしてもう一度息を吹き込む祐一。
秋子「…………」
祐一「…………ぅ?」
 ふと気が付くと、投げ出されていたはずのお露の腕が祐一の首に置かれています。
祐一「うっ、むぅっ」
 祐一が離れようとした途端、頭を押さえられ、お露の口から舌が差し込まれました。
祐一「むぅっ、うぅ」
秋子「…んふぅ」
 お露の濡れた瞳がゆっくりと開かれ、祐一を見つめました。
祐一「うっ、ぅっ、むぅぅっ…」
 祐一は唇を離そうとしましたが、お露は深く舌を差し入れたまま離れようとしません。
秋子「うぅ〜…」
 お露は祐一の口の中で舌を動かしながら、うっとりとのどを鳴らしました。

秋子「う…ぅ…、ふはぁ」
 たっぷり数分間唇を重ね、ようやくお露は唇を離しました。
秋子「…ふぅ…」
祐一「……う…」
 祐一とお露の唇を繋ぐように銀色の糸が伸び、顔を真っ赤にした祐一はその場に崩れ落ちました。

 お露は身体を起こすと、脇に転がっている祐一の胸に頬を寄せました。
秋子「ふぅ…。すみません、キスなんて久しぶりでしたから、つい夢中になってしまいました」
祐一「そーですか…」
 お露の舌技に骨抜きになっている祐一。

 二人で横になったまま、しばらくぼんやりしていると、
秋子「祐一さん…」
祐一「はい?」
 お露がやけに艶めいた声で祐一を呼びました。
秋子「…寒いです…」
祐一「え? ああ、そうですね」
 確かに胸元まで濡れてしまっているので、秋空の下ではかなり寒く感じられます。
祐一「じゃあ、家に帰って…」
秋子「いいえ。今あたためて下さい」
祐一「へ?」
秋子「祐一さんの温もりを下さい」
 お露は身体を起こして立ち上がると、帯をほどきました。
祐一「え。ちょ、ちょっと…」
 はらり。お露は肩をはだけさせ、素肌をさらしました
祐一「おっ、おおおおおおおおお」
 成熟した肢体と、冷え切って青白くなった肌が、異様に艶めかしく目に映ります。
祐一「ちょっ…秋子さん、まずいですよ! その…外でなんて!」
 何を言っているのでしょーか。

秋子「はぁっ…」
 掠れた溜め息と共に、祐一に身を預けるお露。豊かに張った乳房が、祐一の胸板を強く圧迫しました。
祐一「あっ、あぅー」
秋子「祐一さん…」
 か細い声で名前を呼ばれた瞬間、祐一の理性が弾けました。
祐一「あっ、秋子さんっ!」
 全身でお露を抱き締め、冷えてつめたくなった身体に手の平を這わす祐一。
秋子「あん、そんな乱暴にしないで…アッ!」

 ・
 ・

 ギャー、ギャー。夕方になり、カラス達がねぐらに帰っていきます。
祐一「…………」
秋子「…はぁ…」
 川辺には、裸で寄り添う二人。
秋子「…うぅん」
 お露は気怠げに身体を起こすと、脱ぎ捨てられていた着物を手に取り、乱れた髪の毛を整えながら袖を通しました。
祐一「…………」
 祐一は仰向けに寝転がったまま、空を見上げています。

 着物を着終えたお露はしゃがみ込んで、寝ている祐一の顔を覗き込みました。
秋子「では、そろそろ…」
祐一「はぃ。また明日…」
 掠れた声で祐一が言うと、
秋子「何をおっしゃってるんですか。これから祐一さんのお宅に行くんですよ」
祐一「へ?」
 間抜けた返事を返す祐一。
秋子「さきほど『家に来ないか』って誘って下さったじゃありませんか」
祐一「そ、そんな展開なんですか? だって、まだお露さん生きてますよね」
秋子「ええ、もちろん。…あんなに色々としたんですから、ご存知のはずです」
 瞳を細め、うっとりと微笑みながら意味深なことを囁くお露。
祐一「う…」
 何を思い出したのか、祐一は顔を真っ赤にして口ごもりました。

秋子「そういうことで、お夕飯を作って差し上げますから」
 柔らかく微笑みながら言うお露。
祐一「はあ。ありがとうございます」
秋子「もちろん、その後は………うふふ」
 お露の微笑みが突如艶めきました。
祐一「………」
 顔を引きつらせる祐一。

秋子「ほら、早く起きて下さい」
 腕を引き、強引に祐一を立ち上がらせるお露。
祐一「うわっ、ちょ、ちょっと待って…」
 着物を着せられ、凄まじい力で引きずられるように連れて行かれる祐一。

 祐一の家は村外れの一軒家です。
 夕ご飯を食べ終えてすぐに、『もう休みましょう♪』とお露がいそいそと布団を敷き、祐一が何か言う間もなく行燈の火が消されました。
 まっ暗です。ガタン、と何やら物音がしました。
秋子「うふふ。祐一さん、叫んでも無駄ですよ」
祐一「それって普通、男のセリフじゃ……あ、ちょっと…秋子さんっ」
 どさっ。
秋子「はぁっ…。もう祐一さんたら、じらすのがお上手なんですから…」
祐一「そうじゃありませんっ……あっ、くぉぉっ」
 ごそごそ。
秋子「はぅぅ…」
祐一「うっ、うぅ…あ、秋子さんんっ」
 がばっ。
秋子「あぁん」

 ・
 ・

 朝です。
秋子「らららら、ららら〜♪」
 お露は腰を揺らしながら、朝ご飯の用意をしています。
祐一「…………………」
 祐一の方は、布団の中に沈み込み、ぐったりと天井を見上げています。

 祐一は掠れた声で、
祐一「…あのー、秋子さ…じゃなかった、お露さん。本当にまだ死んでないんですよね?」
 お露は晴れ晴れとした笑顔で振り向き、
秋子「ええ、まだ生きていますよ。まだ第一幕ですから」
祐一「……そーか。まだ第一幕なんだな…」
 寝返りをうつ体力もない祐一は、天井を見上げたまま呟きました。

 朝ご飯が出来ました。
秋子「さ、祐一さん。あーんして下さい」
 ウナギの活け作りを箸ではさみ、祐一に差し出すお露。
祐一「じ、自分で食べますよっ」
 しかし満更でもないため、強くは言えない祐一。
秋子「だめです。さ、あーーん」
 言いながら自分も大きく口を開けるお露。
祐一「……。あーん」
 お露の可愛さに根負けし、口を開ける祐一。
秋子「はい♪」
 祐一の口の中にご飯が次々と放り込まれていきました。

 朝ご飯を食べ終え、祐一はまた布団の上で仰向けになっていました。
祐一「ふう…。かなり食べたけど、消化のいい物が多かったからか、あんまり苦しくないな」
 お腹をさすりながら祐一は呟きました。
祐一「それにしても、朝から濃いメニューだったよな。ウナギ、すっぽん、レバ刺し……」
 そういえば、昨日の夜のご飯も…と祐一が思い至ったとき、
秋子「ゆ・う・い・ち・さんっ」
 と、後ろから頭が抱え込まれ、ぐにゅっと柔らかい固まりが後頭部に押し付けられました。
祐一「うおぅっ」
秋子「うふふふふ……」
 そのまま身体を擦り寄せながら、布団の中に入ってくるお露。
祐一「ちょ、ちょっと待って下さい」
秋子「いやです」
 一瞬で却下し、祐一の着物を脱がせにかかるお露。
祐一「ああーっ」

秋子「ふふふふ」
 お露は祐一の身体にまたがると、自分も帯をほどき始めました。
秋子「祐一さんは楽にしているだけでいいですからねぇ…」
 うっとりとした表情で胸元を開くお露。
祐一「だっ、だめです! いい加減に第一幕を終わらせないと……っ」
 揺れる乳房を眼前に突き出され、言葉を途切れさせる祐一。

秋子「私としては、第一幕でも第二幕でも同じ事なんですけれど…」
 お露は少し考え込み、
秋子「…仕方がありませんね。分かりました」
祐一「…はぁ、はぁ…わ、分かってくれましたか」
 歯を食いしばって目の前の誘惑に耐えていた祐一は、ホッと息を吐きました。
秋子「ええ。じゃあ、帰ります」
 襟元を閉じ、立ち上がるお露。
祐一「はぃ」
 名残惜しい気持ちを必死で隠しながら言う祐一。

秋子「…あ」
 と、ふとお露は何かを思い付いたように動きを止め、もう一度祐一に馬乗りになりました。
祐一「ど、どうしたんですか」
秋子「うふふっ。今朝の朝食で元気になってしまった分ぐらいは、私が責任を持ちますね」
 楽しそうに言い、するすると生まれたままの姿になるお露。
祐一「え、ちょっと……うわっ」
 押し倒され、覆い被さられる祐一。
秋子「うふふふ…祐一さぁん…」
祐一「うおぉっ! ちょっ、あ、秋子さんっ!」
 お露がもぞもぞと布団の中で動くと、祐一は大袈裟に仰け反って身体を震わせました。
祐一「うう、う…秋子さんんっ!」
 がばっと布団の中に身を投じる祐一。
秋子「あん、祐一さん♪ ……………………はぁっ……あっ、ああん…」

 ・
 ・

秋子「では、私はこれで。お見送りは結構ですから」
 戸口に立ち、お辞儀をしながら言うお露。
祐一「………………………」
 祐一は相変わらずぐったりと布団に身を沈めたまま、視線だけで見送りました。
秋子「あ。祐一さん」
 お露はいったん出て行きかけ、もう一度戸口から顔を出しました。
祐一「…?」
秋子「…私が居ない間に、浮気したりしたらいやですよ」
 お露は笑顔でしたが、その表情は底知れない恐怖を感じさせました。祐一は震え上がり、
祐一「し、しません、絶対。誓います、ホント」
 掠れた声で必死になって言いました。お露はにっこり微笑むと、
秋子「では、また」
 頭を下げ、戸口を閉めて出ていきました。


 〈第二幕〉

 祐一の住む村の隣にある町の、お露のお屋敷。
秋子「私は病気で死ななければいけないんですよね」
 そういうことになっています。
秋子「分かりました。…えいっ」
 お露はぱたっと倒れ込み、そのまま息絶えました。これでは病死じゃないよーな気もしますが。
秋子「いいじゃありませんか」
 いいのでしょうか。…ゴホン。お露、享年さんじゅ…
秋子「…………〈ギラリ〉」
 〈ビクッ!〉すっ、すいません。…お露、享年17歳。
秋子「うふふ」

 さて、そんなことは文字通り露知らず、祐一は今日も一仕事を終えて家路に就いていました。
祐一「ただいま」
 家に入り、一人で晩ご飯を食べた祐一は、さっさと眠ることにしました。
祐一「おやすみ」
 行燈の火を消すと、明かり取りの窓から月の光が射し込みました。
祐一「………」
 祐一が横になってぼんやりしていると、
秋子「…………………………祐一さん」
祐一「うわ!」
 突然名前を呼ばれ、驚いた祐一は飛び起きました。

祐一「だっ、誰だ?」
秋子「…………………………私です」
 月明かりの射さない暗がりから、お露が姿を現しました。
祐一「おっ、お露さん? どうしてこんな夜更けに…」
 月明かりのせいかお露の頬は青白く、異様な艶めかしさがありました。
秋子「ええ…あなたの温もりが恋しくて…」
 こける祐一。
祐一「……」
 祐一は身体を起こし、
祐一「そうじゃないでしょう!」
 お露は柔らかく微笑みながら、
秋子「そうでした。でも、似たようなものですよ」

秋子「…あなたを慕って参りました」
 言いながら、祐一の胸に飛び込むお露。
祐一「お、お露さん…」
 お露の異様な艶めかしさに気圧され、祐一は為す術もなく布団に押し倒されました。
祐一「…って、いつもと同じじゃないですかっ」
秋子「うふふ。いいじゃありませんか」
 微笑みながら、祐一の胸板に指を這わせるお露。
祐一「う…くっ」

 ・
 ・

祐一「うっ、あぁぁっ!」
秋子「あぁっ、あ――……」
 お露の尋常ではない禍々しい色気に、祐一は全身から精を搾り取られました。
祐一「…だから、いつもと変わってないです…」
秋子「うふふ」

 あまりに異様なお露の雰囲気に、祐一も気が付きました。
祐一「いや、いつもと全然変わってないんですけど…」
 いいから話を進めて下さい。
祐一「え、ええと…。あの、もう無理です。寝させて下さい」
 なぜそんなに卑屈ですか。
祐一「うるさい」
 お露は頬に手を当てて考え込み、
秋子「…そうですか…。じゃあ、ちょっとこれを見て下さい」
祐一「?」

 お露は眼を閉じ、何かを念じています。
秋子「…えいっ」
 掛け声と共にお露の身体が一瞬霞み、次の瞬間、
祐一「…………めっ、メイド服!?」
 そこにはメイド服を着込んだお露が立っていました。

 フリフリのメイド服を着込んだお露は、儚げなオーラを放っています。
秋子「いかがですか」
 呆気に取られていた祐一は、ようやく我に返りました。
祐一「なっ、なんで…どうなってるんですか」
秋子「幽霊ですから、どんな姿にでもなれるんです」
 しれっと答えるお露。
祐一「そうなんですか…って、今それを言っちゃだめですよ!」
秋子「あらあら。そうでした」
 お露はいつもの柔らかい微笑みを浮かべました。

秋子「それで…いかがですか、旦那様」
 上目遣いに訊ねるお露。
祐一「ガフッ〈喀血〉」
 ツボに入ったらしく、血を吐く祐一。
秋子「うふふ。祐一さんは『ご主人様』より『旦那様』と呼ばれる方がお好きなんですよね」
祐一「し、知り尽くされている…」
 祐一は恐怖しました。あらゆる意味で。

祐一「………」
 呼吸を整え、祐一は改めて目の前のお露(メイド服)を見つめました。と、祐一はあることに気が付きました。
祐一「あの…、ひょっとして、若くなってませんか?」
 お露は嬉しそうに微笑み、
秋子「まあ、気付いて下さったんですね。ええ、外見も変えられるんですよ」
祐一「…さすがに無茶がありすぎるよーな気がするんですけど」
 気にしたら負けです。
秋子「幅広いニーズに対応するために、幼稚園児から熟女まで、自由に変えられますよ」
 いったいどんなニーズだ、と祐一は思いました。

秋子「あの…、それで」
 と、もじもじし出すお露(メイド服)。
祐一「うっ…」
 ガツンと衝撃を受け、めまいを起こす祐一。
秋子「…好きです、旦那様。ずっと好きでした!」
 言いながら、お露(メイド服)は祐一の胸に抱き付きました。何と言うか、演技派です。
祐一「あっ、秋子さんっ…じゃない、お露さん!?」
秋子「ああ…旦那様…。どうか、私をメチャクチャにして下さいませ」
祐一「……っ」
 その瞬間、祐一の頭の中で何かが音を立てて弾けました。
祐一「…うおおおおっ」
 祐一は抱え込むようにお露の身体を抱き締め、布団の上に押し倒しました。そのまま引きむしるようにメイド服を脱がし、上半身を裸にさせました。
秋子「ああぁ〜、旦那様、旦那様ぁぁ〜」
祐一「うお――」
 ケダモノと化した祐一は、お露に襲いかかりました。

 ・
 ・

秋子「はぁ……」
 満足げに息を吐くお露。
祐一「………」
 ぐったりとしている祐一。
秋子「うふふ…次は、どんなのがいいですか…」
祐一「うぅー…」

 ・
 ・

 朝です。
 チュンチュン、チチチ。スズメが鳴いています。
祐一「…………」
秋子「………」
 祐一はいつものことですが、お露の方もぐったりとしています。
秋子「はぁ………祐一さん、大丈夫ですかぁ…」
祐一「………、……」
 ぱくぱくと口を動かしましたが、声は出ていません。
秋子「うふふ………」
 お露は楽しそうに見つめていましたが、ふらりと立ち上がり、
秋子「では、今日はこれで…。また、夜になれば参りますから」
 ふらふらと扉の前に立ち、お辞儀をするお露。
祐一「ぁぃ」
 掠れた声を振り絞ってお露を見送ると、祐一は泥のような眠りに落ちました。

 ・
 ・

 翌日、二日目の夜。

祐一「あっ、先生」
秋子「どうしたの、祐一君。こんな時間に呼び出して」
 お露、タイトスーツ姿。外見は変化なしです。
祐一「…実は俺、悩みがあるんです」
秋子「悩み? 私でよければ、きかせてくれないかしら」
祐一「はい。…俺、先生のこと考えると、夜も眠れないんです」
秋子「えっ…」
祐一「先生………」
秋子「あ、ま、待って祐一君。落ち着いて…いやっ、来ないでっ」
祐一「先生――っ!」
 がばっ、どさっ。
秋子「だめ、だめよ祐一君っ…わ、私達…いっ、きょ、教師と、生徒ぉっ…ああぁっ」
祐一「うお――」
秋子「はぁっ、あっ、はぁぁ――」

 ・
 ・

 三日目の夜。

秋子「祐ちゃん、またお母さんに怒られたの?」
 お露、セーラー服姿。外見は変化なし。
祐一「うるさいな。姉ちゃんには関係ないだろ」
秋子「もう…相変わらずひねくれてるわねぇ。そんなんじゃ、いつまでたっても恋人の一人も出来ないわよ」
祐一「…。いらないよ、恋人なんて」
秋子「何言ってるの。…あ、もしかして、もう好きなコがいるの?」
祐一「……。…いるよ」
秋子「へえ、初耳ね。誰? あたしの知っている人?」
祐一「…知ってるよ。…すごく」
秋子「ふうん…。ね、教えてよ。内緒にしておくから」
祐一「……………姉ちゃん」
秋子「? あたしがどうかした?」
祐一「…………だから、姉ちゃんだよ」
秋子「何が? …えっ、あ……。……や、やだっ。じょ、冗談でしょ?」
祐一「……」
秋子「え、えっ…。そ、そんな、あたし、困る…。だって、あたしと祐ちゃんは、姉弟…」
祐一「そんなの、関係ないよ」
秋子「そ、そんな…。だって、そんなこと…」
祐一「姉ちゃんっ」
 がばっ、どさっ。
秋子「ま、待って…祐ちゃんっ………あ、あぁっ、あぁ――……」

 ・
 ・

 四日目の夜。

秋子「先生♪」
 お露、赤ブルマ着用(外見推定年齢17歳)。
祐一「うごっ! ………はぁ、はぁ。どうした、露」
秋子「部活の片付け、終わりました」
祐一「そうか。気を付けて帰れよ」
秋子「はぁい。…先生は?」
祐一「俺は今日は宿直だ」
秋子「そうですかぁ。たいへんですねぇ…」
祐一「お、おい。なんで擦り寄ってくるんだ?」
秋子「…せ・ん・せ・い…。わたしぃ、ずぅっと前から、先生のこと…」
祐一「よ、よせっ。俺とお前は、教師と生徒ぉぉぉぉ」
秋子「ウフン…。先生、わたし、胸大きいでしょぉ…」
 ぼよん、ぼよん。
祐一「はぅっ…、くはっ」
秋子「せんせぇっ」
 がばっ。どさっ。
秋子「せんせぃ、好きですぅ」
祐一「うっ、うぅ…うお――」
秋子「はぁっ、せんせい、せんせぇ――」

 ・
 ・

 五日目の夜。

秋子「お兄ちゃん」
祐一「………ゴホッ〈吐血〉」
 ばたっ。
秋子「あらあら、大丈夫ですか祐一さん」
祐一「平気です…多分」
秋子「じゃあ、続けますね。…お兄ちゃん、最近露のお部屋に来てくれないね」
祐一「別に用なんてないからな」
秋子「ぶぅ。お兄ちゃんのイヂワル」
 ほっぺたを膨らませるお露(外見推定年齢13歳)。
祐一「ガボッ〈喀血〉」
秋子「あらあら。ちょっと刺激が強すぎますか?」
祐一「…………いえ、大丈夫です」
秋子「そうですか。では……お兄ちゃん、露のことがキライなんだね」
祐一「そんなことはないぞ」
秋子「じゃあどうして、前みたいに一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝てくれないの?」
祐一「もうそんな歳じゃないだろ」
秋子「またそうやって大人ぶって! 本当は、もう露のこと好きじゃないんでしょっ!」
祐一「あのなあ。いい加減、露も兄貴離れしろよ」
秋子「イヤ! 露は、ずっとお兄ちゃんと一緒にいるの!」
 がばっ。
祐一「つっ、露!?」
秋子「お兄ちゃん…露はね、お兄ちゃんのためならこんなことだって出来ちゃうんだよ」
 ごそごそ。
祐一「ぐっおぉぉぉ! あっ、秋子さんっ!? …じゃない、つ、ゆ…ううぉっ!」
秋子「はぁ、はぁ…お兄ちゃん、お兄ちゃん…んむ…」
祐一「ヒッ! ぐ…おっ! うお――」
秋子「ああっ、お兄ちゃぁん………」

 ・
 ・

 六日目の夜。

祐一「つゆー」
秋子「なあに、お兄ちゃん」
 露、外見推定年齢9歳。危険すぎて、映像化は絶対に不可能な感じです。
祐一「ちょっと、俺の部屋に来ないか」
秋子「うん、いいよ」
 場所を移動する二人。
祐一「…………」
秋子「? どうしたの、お兄ちゃん。つゆの顔に何か付いてる?」
祐一「……つゆぅっ!」
 がばっ。
秋子「アッ、お兄ちゃん!? あ、あ、…なに、どうしてそんなとこさわるの…あっ」
祐一「はぁ、はぁ」
秋子「あ、やっ、やだぁ…お、お兄ちゃん、やめてぇ…」
 ごそごそ。
秋子「あぁ、はぁ…、お、お兄ちゃん…つゆ、なんかヘンだよぉ…」
祐一「…どんなふうにだ」
秋子「うん…なんかね、おなかのへんがムズムズして…はぁ、はぁ」
祐一「…そうか…なら、ここはどうだ」
 ごそごそ。
秋子「ぁきゃっ! あ、うぁっ! …おっ、お兄ちゃっ、アッ!」
祐一「はぁ、はぁ」
秋子「は、はぅ…、お兄ちゃん、お兄ちゃん…だめだよ、こんなことしたらいけないんだよ…」
祐一「…………うおおおっ!」
 がばっ。
秋子「あっ、待ってお兄ちゃ…はっ、あぁっ! あっ、あぁぁっ! おっ、お兄ちゃっ、お兄ちゃんっ!」
祐一「うお――」
 ドスン、バタン。いつもの三割り増しの騒がしさです。

 ・
 ・

 祐一は、日に日に痩せ衰えていきました。当たり前ですが。

                                      〈後編に続きます〉


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